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No.0066

海洋の温暖化・酸性化は複合的な問題
科学的な情報・データを発信したい
/角田智彦(笹川平和財団海洋政策研究所)主任研究員インタビュー

2019年10月30日

 海洋の温暖化・酸性化や貧酸素化、海洋熱波――海洋に関する危機的な問題が、静かに世界で進行しています。いずれも問題が多様で規模も大きいため、全体像がつかみにくいのが特徴です。「さまざまな問題が複雑に絡み合う海の現状と課題を、継続的に発信していきたい」と語る角田智彦(つのだ・ともひこ)主任研究員に話を聞きました。


静かに進行する危機
海洋の酸性化

——海洋の酸性化とは何か、また、酸性化はなぜ起きているのでしょう
角田:酸性化は簡単に言うと、二酸化炭素が海に溶けて海の酸性化が進むことです。海水は本来弱アルカリ性ですが、二酸化炭素が溶けることによって中性に近づきます。空気中の二酸化炭素が増えれば、それだけ海に溶け込む二酸化炭素も増えていきます。
 海洋の酸性化も、地球温暖化と同じように、人間が出す二酸化炭素による影響の1つです。


——酸性化によって、どのような影響が出ていますか
角田:
海水が酸性化すると、海中の炭酸イオンが減っていきます。これは、炭酸イオンとカルシウムからできた、炭酸カルシウムの殻や骨格を持つ生物には生きていくのが難しい環境となります。
 酸性化が一因となって、2005~2009年の間、アメリカの西海岸ではカキがうまく育たず、養殖業者が打撃を受けました。また、北極海などでは、炭酸カルシウムの殻を持った生き物が減少して、それをエサとしていた海中生物も減少するなどの影響が懸念されています。自然界の食物連鎖が崩れると、連鎖の上方にいる人間にも影響してきますが、どこまで・どのような影響があるのか、予測は難しいという問題があります。
 2015年に発表されたSDG 14(海洋)の項目3は、海洋酸性化に関するもの。海洋政策研究所でも2015年から酸性化に関する研究を進めてきましたが、その中で複合的な課題が見えてきました。
 
(キャプション)海洋酸性化に関する国際ワークショップでの発表の様子(2019年4月)

海洋酸性化に関する国際ワークショップでの発表の様子(2019年4月)

——複合的な課題とは
角田:
酸性化だけに限りませんが、海洋の問題は、単独で起こるということは少なく、いくつかの要素が絡み合って起きることがほとんどです。問題となる事象も地域によって異なります。
 例えば沿岸域では、人間活動による富栄養化や淡水流入も、海洋酸性化の原因となります。富栄養化は、海中に含まれる酸素が少なくなる「貧酸素化」ももたらします。
 また、大陸の西側では、海の中ほどにある酸素濃度の低い水の塊(貧酸素水塊)が表面に浮き上がってくることによって、沿岸漁業に影響が出ています。困ったことに、貧酸素水塊の浮上(湧昇)は酸性化と同時に生じるので、漁業にとってはダブルパンチです。
 南極や北極など、水温の低い極域の海では、冷たい水に溶けやすいという二酸化炭素の性質から、世界の海域で一番、海洋酸性化が進行していきます。


海洋の現状と課題を
科学的に調査して効果的な対策を
(キャプション)神奈川県立海洋科学高校の生徒との沿岸調査(2017年8月)。水温やpHを測定した

神奈川県立海洋科学高校の生徒との沿岸調査(2017年8月)。水温やpHを測定した

——なるほど、複合的ですね
角田:
そうなのです。酸性化は複合的な要素が強く、政策を決定する立場にある行政の方や、一般の方々にとって実態がわかりにくい。そして、対策も地域別に異なってきます。
 原因と課題が明確ならば対策も打ちやすいのですが。例えば、因果関係がわかりやすかったオゾン層の問題では、フロンガスがオゾンホールの原因であると科学的に解明されました。結果として、モントリオール議定書が作られて、フロンガスの使用は禁止され、今ではオゾン層が回復しているという報告も見られるようになっています。


——酸性化の問題は、複雑さが対策の妨げにもなっている可能性があるのですね
角田:
ええ、問題が入り組んでいるので全体像もつかみにくいです。そもそも基盤となるモニタリングデータや科学研究が不足しています。
 海洋基本法では、第4条に「海洋に関する科学的知見の充実」という項目があります。そこでも、「海洋については科学的に解明されていない分野が多いことにかんがみ、海洋に関する科学的知見の充実が図られなければならない」とされています。
 国連は2021~2030年を「国連持続可能な開発のための海洋科学の10年」としました。これから海洋の科学的な調査が進み、科学技術イノベーションによる解決策ができることを期待しています。
 
(キャプション)サイト「海洋危機ウォッチ(https://www.marinecrisiswatch.jp/mcwatch/)」

サイト「海洋危機ウォッチ(https://www.marinecrisiswatch.jp/mcwatch/)」

——科学的なデータを基にした解決策が必要ですね
角田:
そうですね。効果的な対策を講じるためには、海洋全体の状況や抱える問題を科学的、そして包括的に考えることが必要になってきます。その際に参考になるような、海洋の危機に関する資料が日本語ではあまりないことに気づきました。
 そこで、ウェブサイト「海洋危機ウォッチ(プロトタイプ版)」を立ち上げ、公開しています。複雑な海洋の課題についての科学的な情報・データを、日本語で定期的に発信し、わかりやすく伝えることを目指しています。
 また、一般の方への認知を広げるために、英国のクレイアニメーション「もう一つのCO2問題」の日本語吹き替え版を、神奈川県立海洋科学高校に協力をいただいて作りました。少しずつでも、海洋の温暖化・酸性化に絡んだ複合問題について多くの方に知っていただき、そして政策に反映できるよう取り組んでいます。
 
(キャプション)「もう一つのCO2問題」日本語版(https://youtu.be/cjzZtR67hJM)

「もう一つのCO2問題」日本語版(https://youtu.be/cjzZtR67hJM)

(聞き手=特任調査役 湯通堂綾子)
角田智彦(つのだ・ともひこ)主任研究員 略歴
京都大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修了。東京大学大学院では、気候システム研究センター(現:大気・海洋研究所)に所属し、気候変動と海洋の研究に従事。1998年(株)三菱総合研究所に入社。2008年より主任研究員として、海洋情報管理などについて研究を行い、第2期海洋基本計画の策定にも従事。2015年より笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員。
 

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