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No.0065

複雑化する紛争と平和活動 国連の機構改革と課題を語る
伊東孝一氏(国連オペレーション支援局上席企画官)

2019年8月5日

 国際社会における紛争は複雑化の一途をたどっている。これに対応するため国連は、平和活動の機能強化を進めており、組織改編と機構改革を断行した。一方では、国連平和活動への要員派遣国の主体が、先進国から途上国に移行しているという構造的変化によって、部隊の運用面に支障をきたすなど、課題を抱えている。実態はどうか。日本に期待することとは何か。16年にわたり国連の平和活動や機構改革等の現場で活動する伊東孝一氏に聞いた。

(聞き手 安全保障研究グループ主任研究員 西田一平太)

――国連はいま、転換期にあります。2017年1月に着任したアントニオ・グテーレス事務総長のもとで国連改革が進められ、今年1月には組織が改編されました。「平和と安全」分野では、政治局(DPA)の流れを汲む政治平和構築局(DPPA)が新設され、国連平和維持活動(PKO)を展開する平和維持局(DPKO)が平和活動局(DPO)に改編されました。管理分野でも、伊東さんが所属するオペレーション支援局(DOS)と管理戦略・政策・コンプライアンス局(DMSPC)が、既存のフィールド支援局(DFS)と管理局(DM)を再編して新たに設置されました。こうした改革を通じて、国連の平和活動は今後、どのように変わろうとしているのでしょうか

伊東氏:国連は、より複雑化、危険化している紛争に対処するため、より包括的でより迅速に平和活動を行えるように機構改革を行いました。今回の改革は、「平和と安全」「管理」「開発」の3分野で同時並行で進められています。特に、「平和と安全」と「管理」の分野では、これら2つの改革を連携させ、政治の卓越性と紛争予防の重要性を認識した上で、平和を定着させるために事務局として包括的なアプローチがとれるようにしました。また、現場が必要とする支援を事務局全体が迅速に提供し、現場により多くの権限を与えることで、現場の責任において迅速な行動を取ることを可能にしました。

 私自身、改革以前は「縦割り」の弊害があると感じていました。世界中の地域・国の政治情勢の分析などは、現地の国連事務所の有無に関わらず、基本的にDPAが担当しています。ところが、いざ、ある国に国連PKOミッションが設立されると、その国の主担当がDPAからDPKOに移ります。そうすると、それまで現地をみていたDPAが持っていた知見や情報源をすぐにそのまま全てDPKOに引き継ぐことは難しいわけです。

 今回の「平和と安全」分野における改革のひとつの特徴は、DPAとDPKOの地域部を統合したことです。重複をなくしたことで、1つの国や地域を1人のディレクターとその上の事務次長補(ASG)がみるようになり、DPPAとDPO両局の情報が包括的に上層部に報告される仕組みになりました。

 管理分野の改革については、2007年に行われた国連平和維持機構の再編成からの流れでみる必要があります。DOSの前身となるDFSも、かつてはDPKOの一部でした。それが2007年に、PKOだけでなく特別政治ミッション(SPMs)も支援の対象に含めようということで、DFSが新しい局に格上げされます。ただし、同じ人員で支援するミッション数が急増したために、業務の効率化を図る必要が生じました。そこで、例えば、それまで現場の各ミッションに置いていた人事、経理、総務、情報システム管理部門などのバックオフィス機能を地域の「サービスセンター」に一元化し、複数のミッションをひとつのサービスセンターがまとめて支援するようになりました。

 その効果が事務総長や加盟国に評価され、PKOミッションとSPMsにとどまらず、今回の改革で、DOSが事務局全体の活動を支援するようになったのです。

――現場重視に軸足を移し、機能を統合することでより効率化を目指すということですね。グテーレス事務総長は、「PKOのための行動(A4P)」という新しいアジェンダを提唱しています。そこでは、国連平和活動の強化、派遣部隊の能力向上、要員の安全確保、加盟国からのコミットメントをさらに引き出すための活動の活性化などが謳われています。なぜこのタイミングで、とりわけPKOの改革案を打ち出したのでしょうか

伊東氏:直接的な契機となったのは、敵対行為によるPKO要員死者数の増加です。グテーレス事務総長は、A4Pを発表した2018年3月28日の安保理会合において、前年(2017年)に「59名もの要員が攻撃を受けて亡くなったことは受け入れがたい」とし、よりPKOを強化し、安全にすることの重要性、しっかり訓練・装備・統制の取れた部隊の必要性、また政治の卓越性を強調しています。

 ただ冷戦終結後、PKOが介入する紛争の形態が、国家間の紛争から、内戦型や内戦と国際紛争の混合型に変わったことから起因する大きな流れも背景にあります。PKOが、脆弱な地域・国に介入し、一般市民やPKO要員に対する武装勢力による攻撃リスクも高くなり、要員派遣国の構成は、先進国から途上国主体に変わりました(図1参照)。PKOミッションは大型化し、安全保障理事会から付与されるマンデート(任務)は多様化・複雑化し、さらに文民の保護などのために強力化もされました。与えられた多くの任務を完遂できず長期化するPKOミッションも増えてきました。さらには、PKO要員の中には、現地の女性や子供を性的に搾取したり虐待するような者すら出てきてしまいました。現地住民を守るために派遣された要員が、守るべき弱者に性暴力を振るった事件が何件も起きてしまった中央アフリカなどでは、国連に対する信頼を揺るがしかねない事態となりました。

 こうした多くの問題は国連事務局だけでは解決できません。国連加盟国とのパートナーシップによってPKO強化のためのコミットメントを新たにすることが必要となり、そこで、A4Pが立ち上げられたのです。

(キャプション)図1:途上国主体

図1:PKO要員派遣国の主体は先進国から途上国主体へ

――要員派遣国が途上国主体となって、具体的にどういう問題が起きているのでしょうか

伊東氏:PKOに要員が派遣されるとき、国連と要員派遣国との間で覚書を締結し、要員派遣国が現地でPKO活動を行うための人員、装備品、装備品の保守などについて合意をします。途上国に要員派遣を頼るようになった結果、約束した装備品を持ってこられない、あるいは持ってきても保守・管理できない国が出てきました。そもそも、PKOの訓練は原則として、文民については事務局が行いますが、軍と警察については、装備品を使いこなす訓練も含めて要員派遣国が責任をもって行うこととされています。残念ながら、その責任を果たせない国が出てきたのです。

――現場で求められるミッションの性質が複合的になる中でPKOの質が低下し、ミッション遂行上の課題が浮かび上がってきたということでしょうか。要員の殉職者数の増加もよく聞かれます

伊東氏:そうですね。グテーレス事務総長の指示を受けて2017年12月に発表された報告書「国連平和維持要員の安全の向上」(通称「サントス・クルースレポート」)は、敵対行為によって殉職したPKO要員に焦点を当てています。2013~17年の間には、195名のPKO要員が敵対行為により亡くなっており、1948年にPKOが始まって以来、最も危険な5年間であったと指摘しています。

 ただ、忘れてはならないのは、敵対行為よりも、本来防げるはずの事故や病気で殉職するPKO要員が多いということです(図2参照)。その要因のひとつには要員に対する訓練の不足があると思います。

(キャプション)図2:敵対行為により事故や病気で殉職するPKO要員が多い

図2:敵対行為により事故や病気で殉職するPKO要員が多い

――A4Pでは平和活動の強化が強調されています。ミッションを遂行する上でなくてはならない要素、いわゆる「キー・イネーブラー(key enablers)」とは、具体的にどういった分野での能力が求められているのでしょうか

伊東氏:PKOを取り巻く環境がより危険になる中で、要員の安全に資する施設や医療、通信やインテリジェンス、またPKOの機動性を高めるための輸送(輸送機、ヘリコプター、装甲車)などの分野での装備品、そしてその装備品を使いこなし、しっかり保守・管理できる人員が特に必要になってきました。

――装備品だけでなく、それを相応に使える人材が必要とされているわけですね

伊東氏:歩兵部隊であれば派遣できる国はたくさんあります。しかし高度な技術を持った要員と機材をセットで提供できる国が不足している。装備品を使いこなし整備・管理できるようPKO要員をしっかり訓練する必要性が認識されるようになったのです。

――そのような中、2014年9月、バラク・オバマ前米国大統領の呼びかけで始まった国連PKOハイレベル会合(第1回PKOサミット)で、安倍晋三首相はPKOの早期展開に向けた支援を行うことを表明します。そして、翌2015年からは国連(DFS/現DOS)を通じて、東アフリカの国々の工兵要員に重機の操作訓練等を行っています。この「施設部隊早期展開プロジェクト(RDEC)」は、これまでに計7回を重ねており、2018年には東南アジアでも同様の訓練を開始しました。この取り組みは国連では「三角パートナーシップ事業」と称され、国連の政策文書で言及されるなど注目を集めています。伊東さんはこの事業の立案に深く関与されたそうですね

伊東氏:本事業の立ち上げには、多くの国連職員・関係者が様々な観点、立場で関わっています。その中で私が果たした役割は、2014年当時、PKO担当国連幹部らで共有されていた「高い能力とリソースをもつ先進国に、途上国のPKO要員の訓練において貢献してもらいたい」という希望を企画書に落とし込むことでした。「三角パートナーシップ事業」の「三角」とは、要員の能力向上のための訓練や装備品の提供を受けたうえで、訓練後に要員をPKOに派遣する「要員派遣国」、その訓練の教育指導に必要な人材、装備品、資金などを提供する「支援国」、この事業を企画立案、総合調整する「国連」です。この三者が協働してPKOを強化する取り組みです。

(キャプション)図3:三角パートナーシップ

図3:三角パートナーシップ

――日本も陸上自衛隊を中心として力を入れている事業です。現在、当初の試行フェーズを終えて、アフリカからアジアへ、重機の操作訓練から医療などへと訓練対象地域、分野を広げつつあります

伊東氏:三角パートナーシップ事業が短期間のうちにアフリカでの施設訓練で成果を出し、地域、分野を拡大できたのは、加盟国の強力なサポートがあったからです。特に日本政府(防衛省、自衛隊、外務省、内閣府含む)には、83億円もの資金提供や、要員の教育指導にあたる陸上自衛隊の教官団、内閣府の連絡要員の派遣などでご尽力いただいています。スイス、ブラジルやイスラエルにも教官団の派遣や資金提供で本プロジェクトを支えてくれています。

 紛争の形態が変わるにつれて、PKOのマンデートも、活動に必要とされる能力も変わっていきます。そうした中でも、三角パートナーシップのアプローチは、現場のニーズの変化に合わせ、さらに訓練対象の分野や地域を変更・拡大していくことが可能で、これが、三角プロジェクトの最大の魅力です。

―― 一方で、こうした能力構築支援を多くの国が二国間で行っています。「三角形」で行う意味を国連ではどのように認識されているのでしょうか。地域機構とのパートナーシップを重視し、「四角形」にすべきだという指摘もあります

伊東氏:152の国連加盟国が賛同したA4Pの「共同コミットメント宣言」では、「革新的なアプローチ」である三角パートナーシップによってPKO要員を訓練、装備するべきとしています。同時に、本宣言では、今後益々、アフリカにおける平和活動においてアフリカ連合(AU)との協働が重要になってくるとの認識の下、AUなど地域機構とのパートナーシップを推進していくことの重要性も指摘しています。

 アフリカのケニアやウガンダなどで行っている三角の重機操作訓練や通信訓練で裨益しているのは、AUの加盟国です。そしてアジアのベトナムで行っている三角の重機訓練で裨益しているのは、ASEAN加盟国を含むアジア太平洋の国々です。三角パートナーシップを通してAU、ASEAN加盟国のPKO要員の能力を高めることに貢献しているため、三角プロジェクトは間接的に「四角形」の貢献にもなっています。今後は、「三角」のみならず、地域機関との関係も含めた「四角形」も意識していきたいと思います。

――今後の課題は

伊東氏:三角パートナーシップ事業に限らず、多くの国連のプロジェクトに共通する課題として、2つあります。ひとつは、財源の持続可能性の問題です。今や、各国の厳しい経済情勢を受けて、任意の拠出だけではなく、国連の通常予算、PKO予算すら分担金を払わない、もしくは払えない国がでてきています。

 そうした中、任意拠出に頼っている三角パートナーシッップ事業などは、常に新しいドナーを探してドナーベースを拡大していかないと、事業を継続できなくなる危険性を孕んでいます。ドナーベースの拡大は、事業の安定性のみならず、国連の活動として、より一層の正当性を付与するためにも重要です。

 もうひとつは、PKO訓練生のトレーサビリティが低く、成果が見えにくいという問題です。国連は訓練された要員と直にコンタクトを取ることができていません。難しいのは、どの国もPKO専門の軍事・警察要員を抱えているわけではないことです。PKOに派遣されていないときは、国防や国内の治安維持にあたっていたりするため、自国の軍・警察要員が訓練を受けたあとに、どこでどんな任務にあたっているのかを国連事務局に知らせたくないと考える国もあります。現時点では、事務局から口上書をもって、加盟国に訓練生の状況をヒアリングして辿ることしかできないのが現状です。

 この課題を克服する方策として、PKOに派遣されると決まった施設部隊を優先的に訓練することも一案だと考えています。たとえば、今年後半には、あるPKOミッションへの派遣が決まっている国の施設部隊の要員の重機操作訓練を実施します。ミッション派遣後は、ミッションの総司令官経由で、これまでいた施設部隊と三角パートナーシップ事業で訓練された施設部隊とを比較してもらい、どれだけパフォーマンスが上がったのか、評価してもらおうと思っています。

――先ほど財源の問題への言及がありました。米国がトランプ政権になってから、国連への拠出金が減額される一方、中国のようにPKOに積極的に関与しようとする国もある。こうした中で日本にどのような役割を期待されていますか

伊東氏:私は、東ティモールで長くPKOミッションに文民として関わっていた経験があります。赴任当初、日本の自衛隊はすでに撤収していたものの、自衛隊が整備した道路、架けた橋が、現地の人たちに「ジャパニーズ・ロード」「ジャパニーズ・ブリッジ」といわれて感謝されていました。日本の施設部隊は東ティモール以外にもカンボジア、ハイチ、南スーダンなどで活躍していて、高く評価されています。三角パートナーシップ事業の枠組みでこの施設訓練を続けていただくことは、国連への大きな貢献になります。

 また、自衛隊員のモラルも世界に高く評価されています。先ほど述べたように、一部のPKO要員による市民への性的搾取や虐待が問題になりました。残念なことに、先進国も含めて規律の問題を起こした国は少数ではありません。その点、日本の自衛隊は、これまで1万人以上PKOに参加した中で、規律の問題を起こしたことは一度もありません。規律、指揮命令系統を含む組織構築訓練において、自衛隊にこそ支援できることがあると思います。

 さらに、PKOミッションの枠にとどまらず、人や装備品を現場に提供していただきたいという気持ちもあります。何も、歩兵部隊などは求めていません。日本の得意分野、例えば、先ほど述べた特に必要とされる空輸、医療等で高度な技術を持つ人材や装備の提供を検討していただけたらと思います。

 日本のPKOへの貢献というと、自衛隊部隊自体の派遣の有無に注目が集まりがちですが、実はPKOでは文民も大事な仕事をしています。PKOミッションのトップとして指揮を執るのはほとんどの場合文民ですし、政務、選挙支援、人権、開発、人道援助などさまざまな分野で文民が働いています。ですので、優秀な日本人の方々がPKOミッションのあらゆる分野で働くことも、日本の大事な貢献になると思います。

伊東 孝一(いとう たかかず)氏 略歴
国連オペレーション支援局(DOS)上席企画官
東京外国語大学卒業、ロングアイランド大学大学院修了(社会学修士)。富士銀行、国連日本政府代表部を経て、国連開発計画(UNDP)コソボ事務所にて治安・安全保障部門改革を担当。国連政務局アジア太平洋部、東ティモール統合ミッション(UNMIT)政務部、事務次長特別補佐官、フィールド支援局(DFS)局長特別補佐官などを経て、現職。
西田一平太(にしだ いっぺいた)氏 略歴
笹川平和財団 安全保障研究グループ主任研究員
英ロンドン政治経済学院大学院修了(開発学修士)。民間企業勤務を経て、国際NGO「国境なき医師団」にて南スーダン・リベリアといった紛争地で活動。帰国後、内閣府平和協力本部事務局研究員。東京財団研究員(2011年~16年)を経て2016年10月、笹川平和財団に移籍。2018年6月より現職。対外援助と安全保障協力、脆弱国支援等に関する政策研究を行う。

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