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No.0064

「男らしさ」から社会を見る
~誰もがより生きやすい社会を目指して
/植田晃博研究員(アジア事業グループ)インタビュー

2019年7月19日

 「男ならこうあるべき」「男のくせに…」といった言葉を見聞きしたことのある方も多いのではないでしょうか? そのような「男らしさ」の規範やそれに伴う課題を研究する学問が男性学・男性性研究です。「『男らしさ』へのこだわりが周りの女性や男性自身を不幸にすることもある」と指摘する笹川平和財団の植田晃博(うえだ・あきひろ)研究員に話を聞きました。

——「男性学・男性性研究」とは、どういった学問なのでしょうか
植田氏:
男性であれば、「男だから泣くな」「男は家族を養って一人前」など、親や周りの人から言われた経験がある方は多いと思います。これは、男とはどうあるべきか、という社会的に認められた理想像です。理想自体は特に問題ではないかもしれませんが、一般的な男性性の理想から外れた男性は、時に差別的な扱いを受けたり、非常に肩身の狭い思いをしたりすることがあります。このように、「男としての在り方」とされているもの(男性性)や、そこから派生するさまざまな社会問題を研究する学問が、男性学・男性性研究です。
 
(キャプション)一緒にタイで調査を行った京都産業大学の伊藤教授と

一緒にタイで調査を行った京都産業大学の伊藤教授と

——男性性の問題とは、例えばどういったことですか
植田氏:
多くの男性は、半ば無意識的に、「男らしく」あろうと日々努力しています。しかし、それが行き過ぎてしまい、ゆがんだ形で表れる場合があるのです。例えばドメスティック・バイオレンス。加害者の大半は男性ですが、その背景には男性の優越志向という心理的傾向があると、日本の男性学・男性性研究の第一人者である伊藤公雄先生が指摘しています。一般に男性は競争に勝つことで優越性を示そうとする傾向が女性よりも強いのですが、暴力は、相手に対して、男として自分の優越性を示す行為でもあります。

 また、ゆがんだ男性性は男性自身にも不幸をもたらします。よく挙げられる例ですが、日本の自殺者の7割は男性、特に40代の男性が多い。理由は「経済・生活問題」が多く、リストラなどによって男性に期待される「稼ぎ主」としての役割を果たせなくなったことが自殺に繋がっていると考えられます。「稼げる方が稼ぐ」という考え方が当たり前になれば、女性の社会進出も進みますし、男性は例えば働く時間をセーブして家事や育児に取り組んでもいい。男性にとっても女性にとってもWin-winな状況になるのではないでしょうか。性差別をなくし、より平等で、誰もがより生きやすい社会にするためには、こうした男性の意識や生活スタイルも変わっていく必要があります。

——優越志向以外にも、特徴的な男性性はあるのでしょうか
植田氏:
伊藤先生は他に、権力志向と所有志向の2つを挙げています。権力志向というのは「俺の言うことを聞け」と自分への服従を求める傾向、所有志向というのは、パートナ―や部下などを自分の物であるかのように扱う心理的傾向を指しています。セクハラや様々な性犯罪、性暴力は、こうした男性性がゆがんだ形で表れている例でしょう。
 女性が同様の傾向を持っていないかというとそうでもないのですが、男性は一般にそういった傾向が強いということです。また、男性性の例として挙げた優越志向もそれ自体が悪いわけではありません。競争して成果や成績を上げるためには有効です。それが度を越して常識を逸脱するようになると問題になるわけです。
 
——男性学はいつ頃始まった学問なのでしょう
植田氏:
1970年代初頭に、女性の視点から男性中心の社会を批判的に見た「女性学」という学問が生まれました。男性学は、女性学に呼応して、男性中心社会を男性の目で見直す学問とされています。
 しかし、男性中心社会において、マイノリティに位置する女性と、マジョリティに位置する男性は立場が異なるわけで、男性学が単に女性学の裏返しというのは理解が不正確だという批判が出てきました。そこで、「男性学」に「男性性研究」という言葉を加え、「男性学・男性性研究」(men and masculinities studies)という言葉が現在では定着してきています。
 女性学と男性学・男性性研究は相争うものではなく、ジェンダー平等という共通の目的に向かって相互に補完し合うような関係になることが理想です。そう考えて、私はプロジェクトや研究を実施しています。
 
(キャプション)男性性の変化のメカニズムを解明したいと語る植田氏

男性性の変化のメカニズムを解明したいと語る植田氏

——植田さんは、男性学・男性性研究の中でも特にどういった課題に興味をお持ちですか
植田氏:
「男性性の変化」です。そのメカニズムが理解できれば、ジェンダー平等の実現を妨げ、男性自身に不利益をもたらす男性性を変えていく可能性が開けるからです。
一方で、男性性というものは根が深いもので、簡単に変わるものではないということもわかってきました。最近は、従来の男性性に代わる新しい男性性を構想するよりも、従来の男性性が暴走しないようにうまくコントロールする方法を考える方が、より現実的で効果的かもしれないと考えています。
 
——それは日本を含めた東アジアで調査した分析結果でしょうか
植田氏:
はい、日本国内だけでなくソウルなど東アジアの男性を対象に、男性性に関するアンケート調査を行いました。多賀太教授(関西大学)と伊藤公雄教授(京都産業大学)、石井クンツ昌子教授(お茶の水女子大学)のご協力を得て研究を進め、結果は7月26日(金)に公表を予定しています。

(キャプション)著名な男性学の研究者を招いて、研究会を開催

著名な男性学の研究者を招いて、研究会を開催

——調査ではどのような発見がありましたか
植田氏:
実は、調査対象都市すべてに共通して、職場において女性に対する差別意識が高い男性の方が、家事頻度が高い、という結果が出ました。よりリベラルな考え方をもつ男性の方が家事頻度も高いだろうと思っていたので、この結果には驚きました。研究会の中でもいろいろと議論したのですが、前述の多賀教授は、これを「男性たちの半ば無意識的な適応戦略」ではないかと解釈されています。
 
——適応戦略について、もう少し教えてください
植田氏:「女の仕事」とされていた家事を男性も行うものだとする社会風潮の変化が、「他人に負けたくない」という男性性と結びついた結果、家事も優劣を競う事柄の一つになり、優越したい、「勝ちたい」気持ちを満たすために家事に参加しているのではないか、という仮説です。今回の調査研究をもとに、対象地域を東南アジアにも広げ、現地の専門家とも協力して各地の男性事情をより詳細に調査していきたいと思います。
(聞き手=特任調査役 湯通堂 綾子)
植田 晃博(うえだ・あきひろ)氏 略歴
2003年に青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程を修了後、英国エセックス大学大学院にて人権修士号と博士号を取得。帰国後、外務省で国際人権人道法調査員を務める。2013年からは、米国の国際連合日本政府代表部に専門調査員として勤務。総会決議や、合意結論などの国際交渉、人権条約委員選挙などを担当。2016年1月より、笹川平和財団研究員。

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