SPF NOW
No.0061

海を守るという意識をより身近なものとし、
ひとりひとりの行動へと結び付けていきたい
/塩入同研究員(笹川平和財団海洋政策研究所)インタビュー

2019年1月31日

 今、世界で注目を集める「海洋プラスチックごみ」。製造から利用、廃棄といった過程の中で、海洋に流れ出たプラスチックを指します。自然に海中で分解されることがほとんどないプラスチックは、海洋生態系へのさまざまで深刻な影響が懸念されています。増え続ける海洋プラスチックごみを削減するためにはどのような対策があるのでしょうか。海洋政策研究所でこの問題を研究する塩入同(しおいり・とも)研究員に聞きました。

 

――世界的な関心が高まる中で、日本でも使い捨てプラスチックの利用削減やリサイクル推進などの取り組みが始まり、海洋プラスチックごみの問題に関心が高まっています

塩入氏:海洋ごみは、実は国際的には50年以上前から問題とされてきたのですが、これまで、一般市民が広く関心を寄せるような取り組みには発展してきませんでした。しかし現在、国内外で急激に関心が高まっています。海洋プラスチックごみの問題に一人一人が向き合い、取り組み始めてもらえるきっかけになればと思っています。

 現代社会では、今すぐにプラスチックをまったく使わないで生きるのはほぼ不可能です。だからこそ、より多くの方が海へ流れ出るプロセスを知り、「これ以上、海にプラスチックを流さない」という意識をもって行動できる社会の仕組みを作っていくことが必要です。街中から川を経由し、海に流れ出てしてしまうプロセスのできるだけ早い段階で、回収していくことが重要だと考えています。

――海洋プラスチックの現状について、教えてください

塩入氏:海に流出するプラスチックごみの量は、中国を筆頭にインドネシアなどの東南アジア諸国からの排出が多くを占め、ひとたび海に出たごみは、海流に乗っていともたやすく国境を越えていきます。世界では年間480万~1,270万トン、日本からは年間2~6万トンほどが流出しているとされています。海はつながっています。私たちが出したごみが、どこか外国の海辺を汚してしまうこともあるのです。

 上の図は、2016年の日本での海洋プラスチックごみの発生メカニズムを概念的にまとめたものです。消費や処分だけではなく、製造・流通の過程でもごみは発生します。しかし、製造・流通、消費、処分のどの段階からどの程度のプラスチックごみが自然界に出て行ってしまっているのかという詳細は、明らかになっていません。

――海へ流れ出したプラスチックはどうなるのでしょうか

塩入氏:自然に分解されることは、期待できません。そのうちに、波にもまれたり、紫外線によって劣化したりすることで細分化しマイクロプラスチックになります。いちどマイクロプラスチックになると、海から回収するのは無理です。もし世界中の海水をフィルターでろ過できたとしても、生態系を支える微生物まで一緒に回収することになってしまいます。

――海を漂うプラスチックごみを清掃するプロジェクトなどもありますが、それだけでは十分ではないということですね

塩入氏:はい。ごみがこれ以上、海へ流出することを防ぐことが重要です。そのためには、プラスチックごみが散乱する繁華街の道路、街中の道路脇の雨水側溝、川など、身近で近寄りやすい場所から、こまめに清掃し、しっかりと回収していくことが効果的です。海洋ごみの8割は陸上起源です。人のいるところにごみはあります。

木くずに混じってプラスチックごみが散見される、河口に近い海岸の風景。こうなると回収・分別も一層難しい!(かながわ海岸美化財団提供)
木くずに混じってプラスチックごみが散見される、河口に近い海岸の風景。
こうなると回収・分別も一層難しい!(かながわ海岸美化財団提供)

――日常ではなかなか意識する機会がないですが、よく考えてみれば確かに道路の雨水側溝も海につながっていますね

塩入氏:海の問題を考えるには、山・川・海のつながりを見て、陸と海の両方を捉えた取り組みが必要です。
以前、川や海のごみを調査していた時に、「捨てないことが、一番のごみ拾いだ!」と地元の方がおっしゃっていて印象に残っています。本当にその通り。海洋プラスチックごみのうち、製造・流通過程で発生するごみは、個々の業界ごとに取り組めばよいので比較的改善しやすいのですが、消費、処分の過程のごみは不特定多数の市民が関係するので、改善に向けた取り組みが難しいのです。改善には、陸上におけるごみの分布や動きのメカニズムを理解し、発生源でごみを回収し、自然界へ流出するのを防ぐようにしなければなりません。また、企業も安易にプラスチックを使った製品を企画して製造販売するのではなく、利用を最小限に留めることなども重要です。

――いろいろな人が、立場を超えて協力していかなければ、問題の解決は難しいですね

塩入氏:産業界と自治体、それに市民が協働して、いちど具体的に取り組んでみて、社会全体の意識を少しずつでも変えていくことが大切ですね。たとえ消費者が環境に優しい製品を買っても、もし捨てるときに分別しなければ、もしリサイクル業者がいなければ、もしリサイクル素材として実際に使われなければ、ただの「ごみ」になってしまいます。

 昨年、日本財団が(株)セブン‐イレブン・ジャパンなどと連携し「Change for the Blue」という海ごみ対策ムーブメントを発足させました。さまざまな立場・セクター・業種の方々が一歩踏み出して、ちょっと大きな枠組みの中で資源循環を考え、プラスチックの削減に向けた仕組みを作り、社会にインパクトを与える結果につながっていけばと期待しています。

 また、海洋政策研究所でも、政策研究という視点から、神奈川県藤沢市やかながわ海岸美化財団、(株)セブン‐イレブン・ジャパンなどの協力を得て、陸上のプラごみがどこでどのように発生し、海へ流出しているのかというメカニズムを明らかにし、効果的な対策を実行可能なものとするための研究に着手しました。

 人口が密集していて台風や津波災害が多い東南アジア地域は、ごみが毎年のように海へ流れ出る日本と似た自然条件を備えています。今後は、経済発展と人口増加が著しい東南アジア地域において、使い捨てプラスチックを基盤とした消費社会が定着していく前に、このような問題について共に考え、日本での反省を踏まえ、地域特性に即した対策を一緒に準備していくことができればと思っています。

(聞き手=広報課 特任調査役 湯通堂綾子)

塩入同(しおいり・とも)氏 略歴
水産庁水産大学校(機関学科・船舶コース)卒業後、佐賀大学大学院農学研究科(有明海干潟専攻)修士課程修了。2000年より神奈川県庁にて技師として、砂浜保全・沿岸域管理・国有財産法務等を担当。2014年に日本大学大学院理工学研究科(海洋建築工学専攻)博士課程を修了。2018年G7環境・海洋・エネルギー大臣会合(カナダ・ハリファックス)政府派遣専門家。2011年より海洋政策研究財団(現笹川平和財団海洋政策研究所)研究員。

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