No.0055

2018年03月14日

「一帯一路」に「平和的競争」で臨め/
秋元一峰氏(笹川平和財団海洋政策研究所 特別研究員)インタビュー(2)

――安倍晋三首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、中国の「一帯一路」構想への対抗という位置付けであるべきなのか、あるいは何らかの形で中国を取り込むことも視野に入れるべきなのでしょうか

秋元氏 この戦略は2016年のアフリカ開発会議(TICAD)で、安倍首相が表明しました。しかし具体的に何をやるのか、中国の一帯一路に対抗するのか、あるいは別の手段でやるのか、という話がありませんので、曖昧なところがあります。

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私が流れとして見てきたのは、第一次安倍内閣のときに「自由と繁栄の弧」が提唱され、2007年には安倍首相がインド国会で演説した中で、太平洋とインド洋の「2つの海の交わり」がこれからの時代を動かすという話をされました。アジアからインド洋を通ってヨーロッパまでの「自由と繁栄の弧」の中で、まずは太平洋とインド洋の交わりを強めましょうということだったと思います。「自由で開かれたインド太平洋戦略」に関して安倍首相の頭の中には、「2つの海の交わり」と、「自由と繁栄の弧」が大きくあるのだと思います。ただ、具体的にどういう政策をとっていくかというのは、はっきりしない。外務省のホームページを見ても、外交の基本姿勢のようなことは書いてありますが、具体的にどのような事業を推し進めていくのかということは、現時点では曖昧模糊としたところがあるように思えます。

日米豪印4カ国が、中国の一帯一路構想に代わる「共同地域インフラ計画」を検討しているとの報道もあります。オーストラリアからの報道では、一帯一路に競争的に挑戦するのではなく、もっと信頼性があるインフラ整備や、健全な投資をもって、一帯一路に代替するような事業を展開していくということのようです。

笹川平和財団の主催で2月23日に開かれた「インド洋地域の安全保障」をテーマにした国際会議でも、参加された方から、4カ国の協力は中国と対立するものではないという発言がされています。場合によっては4カ国による事業に参加するよう、中国に促すことがあってもいいのではないか、という趣旨の発言もありました。

――秋元さんご自身はどうお考えですか

秋元氏 個人的な考えですが、中国を入れると混乱が生じるように思えます。中国の政治経済は普遍性がありませんし、収益を考慮しない投資も見えます。中国の今のインド洋への進出は少し危ないのではないかと思っています。例えば、中国の援助で建設されたスリランカ南部のハンバントタ港は、スリランカが高金利債務の返済に窮し、港の運営権を中国側に引き渡したわけですが、中国はハンバントタを軍事利用せず軍艦は入港させないと約束しているのです。

中国は今、スリランカ東部のトリンコマリーにも新たに港を建設しようとスリランカに働きかけているとの情報もあります。スリランカはハンバントタと同じような状況になるのではないかと警戒しているようです。

モルディブにつきましても、中国は投資をし、道路をつくったり橋をつくったりしています。それを推し進めているヤミーン大統領に対する反対運動というものが、現在のモルディブの混乱した政治状況の根底にあるわけです。

インド洋周辺諸国にとって採算が取れない形での中国の経済進出というのは、安全保障の面からみた場合、危険があると思えるのです。米国、日本、インド、オーストラリアが協力し、一帯一路に代わるような経済活動を、むしろ競争的に展開していく方がいいのではないかとすら考えてしまいます。これは、一帯一路への対抗ではなく平和的競争の意味です。海外の研究者によく言うのですが、conflictするのではなく、peaceful competitionを仕掛けるべきです。インドについても、南インドの開発は長年の課題になっていますし、ミャンマー、バングラデシュ、パキスタンなども開発の余地は随分あり、外貨がほしいところもあると思います。そういう国に対し、4カ国が積極的に事業を展開することは重要なことだと思えるのです。

――具体的にどのような地域秩序を形成していけばいいのでしょう

秋元氏 自由市場経済の普遍的原則にインド洋諸国を取り込んでいくことが大事だと思います。インド洋沿岸国の中には、健全な市場経済などの価値観の下に成長する円熟した政治体制が整っていない国が多くあるのではないでしょうか。インド洋でも違法操業や乱獲が問題になっています。ブルーエコノミーやグリーンディベロップメントといった面で、日本やオーストラリアが、関連する企業と産業を携えてインド洋沿岸諸国と関係を強めることが求められます。インド洋はまた、気候変動の影響を受けており、モルディブの海面上昇もそうですし、バングラデシュの東岸では高潮の影響が深刻になりつつあります。日本やオーストラリアが高潮対策等においてインフラ整備はいかにあるべきかといったノウハウを伝えることにも積極的であるべきだと思います。

――近隣諸国も入れた枠組みづくりについては、どうお考えですか

秋元氏 私はやるべきだと思います。せっかく「自由で開かれたインド太平洋戦略」というものが、オーストラリアや米国のある程度の支持を得ており、次の手としては会議などをぜひ立ち上げるべきでしょう。例えば、アフリカ開発会議に倣って、「インド太平洋経済会議」のようなものを開くべきです。そこで安倍首相が標榜する「価値観外交」というものを、出していくことが必要ではないかと思います。

インド洋に限らず、南太平洋にも同じことがいえると思います。南太平洋には中国がどんどん入っていっていますが、せっかく「インド太平洋」という概念を導入したわけですから、健全な経済活動などを含めた国際会議などのアプローチを、ぜひやっていくべきだと思います。

(聞き手 特任調査役 青木伸行)

秋元一峰(あきもと かずみね)氏の略歴
元海将補。1967年に千葉工業大学を卒業、海上自衛隊幹部候補生学校に入校。翌年、幹部自衛官に任官。米海軍第7艦隊哨戒偵察部隊連絡幕僚、海上幕僚監部調査部情報班長、海上幕僚監部防衛部分析室長、海上自衛隊航空群首席幕僚、防衛研究所主任研究官などを歴任。2000年に退官し、海洋政策研究財団(現笹川平和財団海洋政策研究所)の特別研究員となり現在に至る。海軍戦略、海洋安全保障に関する論文等多数。
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