「米中新冷戦」時代が到来したのか
第1回SPF安全保障セミナー

2019年6月5日

 笹川平和財団(東京都港区、会長・田中伸男)は5月30日、第1回SPF安全保障セミナーを開き、安全保障研究グループの渡部恒雄、小原凡司両上席研究員、山口昇参与が「『ポスト冷戦』後の展望―米中新冷戦?あるいは更なる混沌化か?」をテーマに、米国、中国、日本の視点から議論しました。モデレーターは西田一平太主任研究員。

「新冷戦」の背景と根拠

(写真)西田一平太主任研究員

西田一平太主任研究員

 長期化、エスカレートする「貿易戦争」により、米中関係は「新冷戦」といえるレベルにまで悪化している―。この命題に、小原氏は「米中による今の国際システムを規定する構造は、『新冷戦』と言える構造になっているのではないか」と主張しました。
 その背景と根拠について小原氏は、米国の中国に対する一連の制裁的な措置の中でもとりわけ、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)などの製品、電子デバイスを事実上、米国と同盟国から排除する内容の「国防権限法2019」(2018年8月成立)に着目。「米国の中国への技術流出を防止するために、輸出と投資の管理を強化することが含まれている。こうした政治・法的な手段は世界市場を二分化する試みだ、と中国にはとらえられ、米中による新冷戦を構造化している」との見解を示しました。
(写真)小原凡司上席研究員

小原凡司上席研究員

 そのうえで「私がなぜ、『新冷戦』という議論が多い言葉を使うのか、その原因が『中国製造2025』にあるということから始まっている」と指摘しました。この習近平指導部が掲げる産業政策の序文には、世界強国の盛衰および中華民族の奮闘の歴史は、強大な製造業がなければ、国家と民族の強勢はないことを証明している―と明記されています。小原氏は、序文と5G(第5世代移動通信システム)の開発を照らし合わせ「中国は、これまで産業革命を起こした国が世界の覇権を掌握してきたと認識している。5Gを用いて次の産業革命を起こし、世界の覇権を握ることで、中華民族の偉大な復興を遂げる―という意味になる。これこそが米国にとって恐怖になっている」と強調しました。

 さらに「中国は共産党の一党統治という権威主義的な国家であるからこそ、民間企業は共産党の要求に逆らう術がない。そうなると、米中の対立というのは、経済的な対立を超えて安全保障の問題、政治体制間の競争というニュアンスを帯びてくる。このことがまさに、米国とソ連の間でも繰り広げられた冷戦という構造になるのではないか」と述べました。

 小原氏によると、中国の発展を阻害するにあたり「米国は軍事力を必ず使用する」と信じている中国では今、冷戦構造も踏まえ、米国に対抗し得るレベルへにまで軍備を増強することが「間に合うのか、真剣に考えられている」といいます。小原氏は「準備ができないうちに、米国と軍事衝突を起こすことがあってはならないということであり、米国にあまり挑発的に映らないようにしながら、実力をつけていこうというのが、中国の安全保障上の考え方だ」と付言しました。

「中国封じ込め」は無理

(写真)渡部恒雄上席研究員

渡部恒雄上席研究員

 渡部氏は、トランプ米大統領が、果たして本格的な米中新冷戦時代に持ち込もうとしているのか、懐疑的な見方を示しました。

 渡部氏は米国が1945年以降、「自身の覇権を脅かす存在を許さず、ソ連と戦い、その後も覇権国になりそうな国を常に探した。何を勘違いしたのか、日本が覇権経済国になると思ったので、長い日米貿易摩擦もあった。今は中国が米国の存在を脅かすナンバー2になったので、中国に圧力をかけている」と概観しました。そのうえで「トランプ大統領の一番の目的は何か。中国との戦いに勝って、米国を10年後、20年後も世界のトップであり続けさせることでは、恐らくありません。来年の大統領選挙で再選され生き残ることであって、ということはディール(取引)によって米中が手を握る可能性もある」との見方を示しました。

 さらに「本当に新冷戦にするのか。恐らく東西冷戦時代の対ソ連とは違い、中国に対する封じ込めは無理です。封じ込めてもいいが、米国経済も日本経済も血を流す」と、東西冷戦と〝米中冷戦〟とでは様相が異なると指摘。「米国が中国に対し強硬なのはわかるが、中国にどういう道筋でルールを守らせ、あるいは中国がナンバー1になることを防ぐのか、戦略が欠如している」と、疑問も呈しました。

 渡部氏はまた、米国の次期政権がどうあれ「ナンバー2の台頭を許さないという『新冷戦的』なことは続くだろう」としながらも、「トランプ政権が、どの程度経済のデカップリング、中国のサプライチェーンを切り離すのか、否かということが実はわからない」と述べ、これらをめぐるトランプ政権の動向が、今後の米中関係を占ううえでのカギになるとの考えを示しました。

 国際情勢全般については、米国とイランの対立や欧州情勢も踏まえ「今までの国際秩序が液状化しており、残念ながら世界は荒れる」と指摘しました。

最重要な南西諸島の守り

(写真)山口昇参与

山口昇参与

 山口氏は、古代ギリシアで覇権国家スパルタと新興国アテネが、ペロポネソス戦争に至った史実に起因し、覇権を争う国家は戦争や摩擦を免れることが難しいとする「トゥキティデスの罠」に言及。「米中による新しい冷戦は、安定したものになりそうにない。米中関係は経済分野を中心にさらに険悪な状況になっていくだろう」と見通しました。

 東西冷戦との違いについては、「東西冷戦ではある日突然、ソ連がなくなっても誰も困らなかった。ところが今は、中国がくしゃみをすると風邪をひく国が出てくるというほど、依存している国が多い」と述べ、新冷戦が世界・地域・国家経済に与える影響は、東西冷戦の比ではないとの見方を示しました。

 そのうえで、安全保障分野に関し、対中国という観点から、インド太平洋地域における軍事情勢を包括的に概観し、日本は日米同盟を基軸に、フィリピン、ベトナムなど東南アジア諸国に対する沿岸警備能力の構築支援や、インド、オーストラリアとの協力を引き続き強化していくことの重要性を指摘しました。この地域で、英国とフランスの海軍がプレゼンスを高めていることについても、「国際秩序が力で覆されることがないように、ルールに基づく国際秩序を守っていこうという動きだ」と、高く評価しました。

 山口氏がとりわけ「日本の防衛努力の中で非常に重要なものだ」として強調したのは、南西諸島における防衛体制の強化です。

 山口氏は「今年3月に奄美大島と宮古島に部隊が新設されており、石垣島にも部隊ができると鹿児島、奄美大島、沖縄本島、宮古、石垣、与那国と、だいたい150キロから200キロの間隔で、日本を守る体制を示すことになる」と指摘。それによって「日本は接近拒否能力を有し、第一列島線の一番北の部分を、他の誰にも勝手に自由にさせず、余計な紛争の要因をつくらない状態を築くことになる。中国の『一帯一路』構想と、日本などによるインド太平洋戦略が、相克するのか、利益を共有するのか、非常にきわどい状況にある中で、日本がこの地域の秩序を維持することは、地球全体をみても非常に重要だ」と強調しました。

 笹川平和財団は今後も安全保障セミナーをシリーズとして開催し、ホットな問題を取り上げ議論していくことにしています。

(シニアアドバイザー 青木伸行)

「『ポスト冷戦』後の展望―米中新冷戦?あるいは更なる混沌か?」 第1回SPF安全保障セミナー

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