パネルディスカッション:中国の対外戦略-「新時代」の意味するもの

パネリスト:
ボニー・グレイザー女史(CSIS「チャイナ・パワー・プロジェクト」ディレクター)、高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、松川るい氏(参議院議員)
モデレーター:小原凡司氏(笹川平和財団 上席研究員)

2018.3.6

20180306_Ohara.jpg小原凡司氏(以下、小原) 本日は、昨年に行われた第19回中国共産党大会でもキーワードとなった「新時代」について、これが何を意味しているのか、中国はこれから何をするのだろうか、ということをボニー・グレイザー女史、高原教授、松川議員と共に分析してまいりたいと思います。

 3月3日から全人代、全国人民代表大会が始まっていますが、今回の全人代で最も注目されているのは、中国国家主席の「2期10年」までという任期を撤廃したことです。これがどのような意味を持つのか、習近平氏はこのまま政権の座に居座り続けるのか、等について、まず、グレイザー女史からお話し願いたいと思います。

強権的な習近平体制の確立

ボニー・グレイザー女史(以下、グレイザー) まず、中国の全人代で国家主席の任期を撤廃したことについて、中国の外交にどのような意味合いがあるのかをお話ししたいと思います。これにはプラスとマイナスの両面があると思います。まず、マイナスの面からお話しましょう。一つ目に、悪い政策が決定される可能性が高まると思います。というのは、習近平氏にとって不都合な情報を受け取ることが減るからです。実は末端の役人らが以前にも増して習氏に都合の良いことばかり伝えるケースは、すでに起きています。二つ目には、今後、強権的な傾向が強まるということです。特に中国の主権に関わることには妥協しないでしょう。

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 一方、プラスの意味合いについても指摘しておきましょう。一つ目は、習氏が軍を十分に掌握できるようになります。たとえば、南シナ海において、米中の艦艇が、両国が意図せぬ衝突をするといった事態を避けることができますし、航空機同士でも同じことが言えます。胡錦濤時代には、文民の統制(党の統制)があまり効かず、たとえば、2011年に当時のゲーツ米国防長官が訪中した時には、中国初のステルス戦闘機「殲20」の試験飛行を行ったことがありましたが、そのような齟齬がなくなります。二つ目は、強権的になれば、たとえば、北朝鮮に対する制裁もきちんと実行できるようになり、フロント企業等の小さな取引まで管理することができます。三つ目に、そうした中国の権威主義的なモデルは、ジンバブエのような国は模倣するかもしれませんが、海外からあまり支持を受けないでしょう。これは民主主義国家にとってはチャンスであって、しっかりとしたガバナンス透明性、法の支配等がやはり望ましいと思わせるようにできるからです。

 最後の四つ目は、習氏に直接アクセスする各国の指導者が、習氏の実行力に確信が持てるようになることです。というのは、習氏に異議を申し立てる人はいないからです。これは、日本にとっても重要な意味をもっています。安倍首相は習氏と首脳会談を通じ、相互理解を行い、日中間における危機管理についても合意を得られる可能性が出てきます。一部ではマイナスの面が外交面で出てくることもあると思われますが、少なくとも短期的にはプラスの面があり得ます。

小原 次は国内的にはどのような意味があるのかについて、高原教授からお話し願いたいと思います。

高原明生氏(以下、高原) 中国の国内政治については、経済問題を考えることが基本だと思います。中国経済は、内閣に相当する国務院の仕事であり、そのトップの李国強首相が全人代で1時間45分間にわたる活動報告を行いました。大きなポイントの一つとしては、今後、経済が失速しないように成長率を高く維持しながら、どのように改革を進めるのか、だと思います。ここで注意しなければならないのは、改革が意味する内容が、我々と中国共産党指導部が考えていることと違うかもしれないということです。日本人と中国人は同じ漢字を使っているので、誤解が生じやすいのです。たとえば、「国有企業改革」といえば、我々は国有企業の独占・寡占体制を解体することをイメージしてしまいがちですが、中国共産党にとっては、国有企業がどうすれば強くなれるのかに焦点が当たるわけです。そこで、税金や公共料金の優遇措置も含めて民間資本を取り入れる等、国有企業を強化するための措置をとるのです。

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 では、実際に何が起きているのかというと、共産党のリーダーシップ、中国語では「領導」といいますが、これが強化されているということです。日本人は、「領導」を「指導」に翻訳してしまいますが、ここではあえて「領導」と表現します。というのは、「領導」というのは、指揮命令の意味を含んだ表現だからです。昨年の党大会では、国有及び民営企業内の党組織の役割を拡大していくことが強調されました。特に国有企業には多くの党員がおり、党規約の改正で、党委員会が経営問題の意思決定に参画することになったのです。

 党大会の関連でもう一つ興味深いポイントとしては、習氏は、中国の主な「矛盾」について新しく定義しました。つまり、人々は、平等、公平、公正、正義、安全、より良い環境という「美しい生活」を望んでいるものの、発展のあり方が不均衡かつ不十分であるということを、「矛盾」としたのです。これを解決するためには、制度化、法治化、市場化という近代化が必要になりますが、そうなれば共産党の役割は小さくなっていきます。何もしなくても「見えざる手」が自動的に物ごとを決定するようになると、共産党の「領導」は弱まってくる。それに恐れをなした党は時折グリップを固く握ります。ですが、握り過ぎると近代化が進まないので、再び緩める、そして、また握る。そのことの繰り返しなのです。習氏の統治というのは、中国社会がより党の固いグリップに握られている、そういう局面にあると理解できます。

 権力が習氏に集中すれば、大胆な改革ができるのは確かですが、マイナス面としては、すべてのことを習氏が意思決定しなければならないということです。実際にそうなっていると思います。ですが、すべてのことに目を通すことができないので、果たして迅速な意思決定ができるのか、正しい決定ができるのか、という問題が生じます。それが、今後の中国経済にとっては好ましくない効果をもたらすのではないかと懸念します。

小原 中国は今世紀半ばまでに世界一流の軍隊を持つことを目指し、そのためには毎年10%増の国防費が必要だと人民解放軍は主張します。今年は8.1%増でした。この数字をどのように読めばいいのでしょうか。

質を問うべき国防費支出

グレイザー 全人代では、中国の国防費支出が前年比8.1%増と3年連続で一桁増となりました。中国の国防費支出は近年同じ比率で伸びています。もちろん、8%は、二桁よりも低いように思われますが、大きな経済規模の中での8%であることを念頭に置かなければなりません。私は、習氏が軍からの支持を取り付けなければならないことはもちろんですが、資金面だけでなく、軍がしたいことを承認することも重要になっていると考えています。たとえば、軍が南シナ海で人工島を軍事拠点として建設していることが挙げられます。すでに人工島の一つには、滑走路だけでなく格納庫も建設されています。習氏はおそらく軍に予算だけでなく、軍が欲しているところを受け入れて、支持を取り付けているのだと思います。

 最も重要なことは、支出される金額よりも、何に対して支出されているのか、ということです。これは、あまり透明性が高くないと言わざるを得ません。もちろん、世界の多くの国々において、予算の透明性はまちまちですが、中国は多くの民主主義諸国に比べると不十分です。たとえば陸軍、海軍、空軍の各軍種に予算がどのように振り分けられているのか、研究開発費にどれだけかけられているのか、不明です。特に兵器システムにも適用される人工知能(AI)は、民生及び軍事部門でも利用されており、果たして中国がどこまで装備に予算をつぎ込んでいるのか、分からないのです。国内でどのくらいの装備を調達しているのか、あるいはロシア等からどのくらい装備を購入しているのか、支出額が全く見えてこないわけです。

 中国は長年にわたって軍にあまり投資してこなかったため、近代化を行うためには相当な努力を必要としていると主張しています。とりわけ、兵員200万人規模の軍は、30万人を削減する方針を打ち出す代わりに、人材への投資を増やしてプロフェッショナル化も目指しています。中国軍もかなり力をつけようとしているわけです。

 中国の経済成長を示すパーセンテージですが、一つ言えることがあります。中国は予想した通りに成長するということです。これは権威主義的な国家ならば典型的なことだと言えるかもしれません。ですから、経済成長の目標である6.5%という数字よりも、重要なのは質の面であり、どこまで成長し続けられるのか、ということです。

 貧富の格差が沿海部と内陸部の間で大きいということも、習氏はよくわかっています。習氏は、輸出志向型や投資志向型の成長モデルから、国内消費に焦点を絞った成長にシフトしなければならないという問題に直面しております。これは容易にできることではありませんし、中国指導部もよく認識しています。目標に掲げている6.5%の成長伸び率は、必ず達成されるだろうと思いますが、それよりも経済成長モデルをどのようにシフトしていくのかを、観察する必要があります。

 昨年10月の第19回中国共産党大会で、習氏は、非常に興味深いことに言及しました。中国の発展モデルは、他の発展途上国にも選択肢となり得るということです。中国がこのような言い方をするのは、かなり異例なことです。なぜならば、中国はこれまでそのような言い方を手控え、これはあくまで中国の実験であって、他国にはそれぞれの事情に見合った選択肢があると主張してきたからです。ところが、1カ月余りが過ぎてから、中国共産党が世界政党ハイレベル対話会を開催しましたが、その時、中国は自国の発展モデルを海外に輸出するつもりはないと述べたのです。私は、これをとても興味深く受け止めました。もしかして中国はあまりにも先走ってしまった、他国に懸念をもたれてしまったことに気づいたのではないかと。資本主義モデルと衝突すると思ったのかもしれません。

 これに関連して、私は2014年に行われたアジア信頼醸成措置会議(CICA)の首脳会議で、習氏が「アジア人による、アジア人のための」安全保障のメカニズムを構築したいと主張したことを思い出します。これもやり過ぎたと思ったようで、その後、そうした言葉は一切聞かれなかったのです。習氏は、バルーンを上げて反応はどうか、ということをやりますが、もしそれがダメならば、すぐに引っ込めることをよくやります。

小原 松川議員はこれまでの議論を踏まえて、どのようにお考えですか。

20180306_Matsukawa.jpg松川るい氏(以下、松川) 私が昨年の党大会で関心を引いたのは、やはり強国になると宣言したことです。2013年からすでに「韜光養晦」(鄧小平氏が掲げた中国の外交方針、「才能を隠して、内に力を蓄える」という意)は捨てていたわけですが、その意図をはっきりと世界に示して、米国に替わって覇権を握りたいという気持ちがにじみ出ていたと思います。中国型の発展モデルに自信を持ち、西側諸国にも模範となる社会を目指すというのは非常に印象的でした。全人代でも「2期10年」の任期を撤廃し、後継者を立てなかったことも、習近平体制が非常に強力な権力を持つ党の領導体制、すなわち、習氏主導の体制を明確にしたなと思います。習氏はおそらく、自分ならば中国の抱えている「矛盾」等を解決し、自分が信じる有能なエリートを採用すれば、格差や地方での問題も解決できるという気持ちがあるのだと思います。

 国防費に関しても、グレイザー氏が指摘したようにそれほど過大な数字ではなく、量より質にこだわったことを反映したのではないか、と思います。先日、中国の空軍機が対馬にまで飛来しました。これまで尖閣諸島や沖縄といった太平洋の出入口ばかり見てきたわけですが、今後は北極海の氷も解けていることもあると思いますが、日本海側についても警戒をより強めていかなければならないと感じました。

小原 昨年の党大会の報告で繰り返し使われた言葉に「新時代」があります。習近平体制を強化するというこの「新時代」に、習氏は中国をどのように発展させていきたいのか、というお話しに移りたいと思います。

「新時代」とは?

グレイザー 「新時代」は、定義が難しい言葉です。昨年の第19回党大会の時、私は中国におり、退役軍将校らと一緒にテレビを見ていました。みんなは「新時代って何なんだ!?」という反応でしたが、ある退役軍将校は、長い時間かけて学習するものだと説明していました。党大会後、まるで政治学習に時間を費やす時代に戻ったかのように多くの学習会が持たれており、それはいまでも続いています。

 「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」、これは三つのレベルにおける権限の集中化だと思います。それは、国家、党、そして習氏自身です。習氏が中国のトップについた当初は、「中国の夢」を語っていました。新しい言葉ではありましたが、新しい目標ではありませんでした。以前にも同じようなことを言っていました。つまり、侮辱の時代を抜け出し、中国は再び偉大な国になると。

 また、習氏は、「新時代」を14項目挙げて説明しました。つまり、共産党は、中国の暮らしのあらゆるところで、支配力を高めて、問題を解決していくのであって、党そのものが決して問題の原因にはならないというのです。共産党が権力をきちんと掌握してこそ、力強い中国が実現できるのだと主張します。中国では次のような表現があります。「毛沢東は中国を立ち上がらせ、鄧小平は中国を豊かにし、習近平は中国を強くした」。江沢民と胡錦濤は、もはや忘れられています。中国は自国の問題だけでなく、世界の模範になろうとしているのです。「新時代」というのは、中国でも今後長きにわたって議論されることでしょう。

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高原 私も「新時代」については、問題意識を持っておりまして、なぜ習氏が党の「領導」を強調するのか。やはりいつかは今の体制がひっくり返されるのではないか、という強迫観念があるからと思います。中国は社会の近代化を進めていますが、一方で欧米諸国が「上から目線」で中国はこうあるべきだと主張してくることに対し、強く反発してきました。欧米化は、自分らの政治体制が突き崩されてしまうのではないか、そんな恐れを強く抱いています。

 なぜそのような不安を抱くのかというと、鄧小平時代から市場化、制度化が強い流れとしてある一方、このまま流されてしまったら、党の支配体制が崩れてしまう。だから、懸命にグリップを引き締めて流れを食い止めようとする、この綱引きが起きているのではないか、というのが私自身の理解です。

松川 習氏は、従来の集団指導体制だとバラバラになりかねない、という懸念を抱いたのかと思います。それともう一つ、時代認識があるのではないか。鄧小平から胡錦濤の時代まで「韜光養晦」を貫いて、習近平時代になってから衣の下から鎧を見せてきました。中国は、いまは欧米に勝てないと思っているけど、次のテクノロジーでは勝てるかもしれない。そのコーナーに差し掛かったら、有能かつ強力なリーダーである自分がやらないといけない、こういった時代認識が習氏にはあるのではないか。脆弱性もありますが、その段階まで自分で這い上がっていこうということではないかと思っています。

小原 鄧小平氏が掲げていた「小康社会」は、2020年に全面的に完成すると述べていたわけですが、グレイザー氏が指摘するように権威主義的社会では必ず目標は達成されるとすると、次に新しい目標を掲げなければならない、という問題が「新時代」の一つの意味ではないかと思います。その中で中国の「一帯一路」構想は、どのように位置づけられているのか、今後、どのようになるのかについて、高原教授にお話し願いたいと思います。

「一帯一路」は中国を中心とした秩序作り

高原 2008年のリーマンショック以降、中国が大規模な内需拡大策をとり、いち早く危機から脱出しましたが、その時にものすごい勢いで高速鉄道や高速道路網を中国内に建設しました。しかし、投資主導の成長に頼ることはできない、国内の需要はもう頭打ちしたということが一つのきっかけとなって、余剰の生産能力、余剰の建設能力のはけ口として外に向いていった、それが「一帯一路」構想の背景にあります。

 ですが、東に向かうと、どうしても日本や米国、東南アジアにぶつかってしまう。そこで摩擦を起こさずに西を向いたらいいのではないか、ヨーロッパと東アジアをつなぐインフラ建設プロジェクトの連鎖を作っていこうというのが、「一帯一路」の本来の考え方です。また、「一帯一路」のネーミングも良く、シルクロード基金を作ると、そのアイデアがとても魅力なものとして世界中の人々の目に映ったのです。当初は、人気を集めたのですが、期待したほどには投資が来ないため、必ずしも経済的な利益のためのプロジェクトではなく、地政学的かつ戦略的な利益のためにやっているプロジェクトではないか、ということが分かり始めたため、「一帯一路」への懐疑の見方がいまでは少しずつ広がっています。

中国経済界では、数年前から熱が冷めていて、儲かるプロジェクトだけに投資して、儲からないプロジェクトはやめましょうという慎重な姿勢になっています。経済成長率も昔ほど高くないため、財政収入の伸び率も下がっています。今後は国防費や高齢化に備えた社会保障費も増やさないといけないので、財政赤字が膨らんでいるという不安の中で、儲からないプロジェクトはやらないというのが今の状況です。

「一帯一路」というのは、いわば概念であり、観念です。実態は何かというと、多くのプロジェクトが星のように散らばっており、それをつなげると「一帯一路」という星座が見えるようなものです。我々は、ロマンチックな星座に惑わされてはいけません。一つ一つの星を見て、この星が自分にとって良いと思えば、参加すればよく、これはどうかと思えば参加しない。そういったアプローチでいいのではないかと思います。

グレイザー 中国の「一帯一路」について、私は、中国が戦略的に自国の成長に結びつけ、他国が中国にもっと依存することを目標にしていると思います。これは、地域の諸国家に中国の国益に反する政策ではなく、国益に沿った形で政策をとらせるという性格を持っております。ですから、融資という手段で中国への依存性を高めたりもします。広い意味で、中国を中心とした秩序、ある人は近代的な「天下」と称していますが、貢物を中国の皇帝に献上する朝貢政治の近代版が繰り返されているのです。

 中国からの融資というものは、リスクが高く、債務のワナがあります。たとえば、スリランカは対中債務があまりにも増えてしまい、スリランカ南部のハンバントタ港の運営権を99年も租借される契約を結ばされました。いまは商業港として運営されていますが、いつかは軍事利用という可能性もあるでしょう。アフリカのジブチには、中国が軍事基地を設置し、すでに射撃訓練までしております。これは懸念すべきことであり、中国の能力が拡大する中で、野心も増長するだろうと予想しなくてはなりません。

「一帯一路」は、習氏にとって基幹プロジェクトなので、今後も長く続けられ、歴史に残そうとするでしょう。その中には、成功事例や失敗事例も多く含まれると思いますが、我々が注意しなくてはならないのは、中国の強制力に屈してしまうことだと思います。

小原 最後にこのような中国に対し、日本や米国はどのように対応すべきなのか。一言ずつお願いします。

中国は戦略的な競争相手

高原 中国から資金を融資すると利息が高いことに気づきます。2%という利息は円借款よりも高いのですが、中国は返さなくても忘れてくれるだろうという期待もあって借りたところもありました。ですが、中国はそうはいかないと、港の経営権とか土地の租借権を押える等、帝国主義的なことを始めたため、みんなが青ざめているというのが最近の状況です。

 では、どうすればいいのか。日本が代替案を提供するのです。もちろん、中国と協力するところは協力すれば良く、同じプロジェクトに双方が融資しても、我々は「インド太平洋」の一部だとみなし、中国は「一帯一路」の一部だと見なしても問題はないと思います。重要なことは、途上国が欲しているものを日米がきちんと仕組みを考えて提供できるのかです。文句を言うだけでは、中国の投資にやられていく星が増えていき、その星がいつの間にか、良からぬ方向に使われかねません。

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グレイザー 我々には中国の行動に影響を与えるチャンスが残されており、同じ考えを共有できる国々が団結することが大切です。外交、経済、軍事の面でさらに努力をし、中国の国益だけに適うような基準ではなく、すべての国々にとってメリットとなるような基準を設定することです。トランプ米政権は、中国の略奪的な経済慣行に対抗しようとしており、昨年10月にティラーソン米国務長官(当時)がCSISで講演した時も、「一帯一路」に対抗するために代替の金融手段を考えるべきだと述べていました。その意味で安倍首相の「TPPイレブン」(米国を除く11か国による環太平洋経済連携協定の通称)の試みは素晴らしいと思っています。最終的に合意がまとまれば、米国が将来的に復帰することを願っております。

 トランプ政権は、中国とは利益が一致するところは協力できるとしても、全体的には戦略的な競争になると十分に認識すべきでしょう。多くの意味で、中国はライバルであり、戦略的な競争相手であることは確かです。特に経済分野では、中国は自国の利益しか考えておらず、強制的な技術移転、知的財産権の侵害、国内企業に対する補助金供与といったことは止めさせないといけません。ある人は、米国は中国と戦争する運命だと主張しておりますが、私はそう思っていません。ですが、競争相手になることは確かであり、長期戦になることも確かです。ですから、我々は、中国に対して国際ルールを守るように主張していくべきでしょう。

松川 中国の意図は、民主主義国家と違います。ライバル関係であることを正面から見据えて、それを凌駕すると迫るわけです。つまり、中国が本当にやろうとしていることは、一見良さげに見えますが、実は中国だけのためにやっているのではないか、ということに、みんなが気づき始めているわけです。

 中国とどのように付き合っていくのかは、日本外交最大の課題です。単なる敵対関係ではありません。その一方で、中国は自国の成長モデルに一定の自信を持っており、軍事的に太平洋や日本海、インド洋に向かって膨張していくわけです。おそらく中国にとってはナチュラルなのかもしれませんが、日本は、パワーバランスの変化を考えると、米国だけでなく、豪州やインド等と軍事面での連携を強めていく必要があります。つまり、中国に対して、日本は中国の「天下」には入らないから、ここらへんであきらめて下さいと主張することが、日本の安全保障面で絶対に必要だと思います。

 一方で、中国は発展しており、お隣の国です。敵対関係を続ける隣国であるということは、建設的ではありません。ですから私は、違う面、すなわち、社会保障面や環境問題の協力等で、日本とうまくやっていったほうが得なんだと中国に思わせるような外交もしていかなければならないと思います。

 ここで残念なのは、トランプ大統領が輸入関税をかけたり、パリ協定やTPPから脱退したりすることです。米国の力の源泉というのは、「米国がそう言うならついていく」と自然に従わせる力があるところだと思いますが、それがいま失われつつあります。中国にグローバル経済の旗手の地位を与えてはならず、ここで安倍政権が果たす役割は大きいのです。日本には、安定した戦略的なリーダーが引き続き必要だと思っています。

以上

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