基調講演「再生可能エネルギーの時代」(要約版)

アドナン・ザヒール・アミン国際再生可能エネルギー機関(IRENA)事務局長

2018.04.04

梶浦氏

 まず、河野太郎外務大臣及び笹川平和財団には、この美しい季節に日本にお招きして下さり、感謝の意を申し上げます。私は毎回来日するたびに、この国が持つ素晴らしい創造力やイノベーション文化、進歩へのコミットメントに感心しています。今回の来日は、桜が最も美しい季節に日程を設定していただいていたのですが、今年は予想以上に開花が早く、少し遅れをとってしまいました。これも気候変動の結果かもしれませんので、ますます再生可能エネルギーへの期待がかかっていると言わざるを得ません。

福島の事故をきっかけに

 昨日、福島再生可能エネルギー研究所を訪問致しました。世界一流の研究設備と、そこで働く再生可能エネルギー分野での優秀な研究者の皆様に大変感銘を受けました。最先端の再生可能エネルギー技術を開発に取り組む彼らの研究は、日本をはじめ全世界における再生可能エネルギーのさらなる普及に大きく貢献することでしょう。また、「福島新エネ社会構想」や、より広くは政府の進める再生可能エネルギー外交に向けての新ビジョンといった枠組みの下で進められている取り組みは、世界のエネルギーシステムの将来を形成するにあたっての日本の貢献を体現しています。
 福島での不幸な事故は、私個人にも重みのあるものでした。事故が起こった当時、私はIRENA事務局長に就任したばかりでした。この時、再生可能エネルギー政策をどのように行っていくのかを議論していた我々にとって、この事故が世界のエネルギー転換に大きな影響を与えるだろうこと、またこれをきっかけに、世界の多くの国々でエネルギー政策の幅広い見直しや、経済成長を持続するための新しい方法の模索が進むだろうことは明らかでした。そして実際その通りになりました。福島での事故後、私は最初の海外出張として日本を訪問しました。それ以来、日本には何度も訪問していますが、この訪問は私にとって大きな意味合いを持つものでした。
 2012年以降、再生可能エネルギーは、世界の新規発電容量の半分以上を占めるなど、この数年間で目覚ましい進展を見せました。2017年だけでも世界で167ギガワット分が新たに加わりました。この目覚ましい進展の理由は単純なものです。技術の進展と政策支援により再生可能エネルギーのコストが急激にそして大幅に下がり、今日最も費用対効果の高いエネルギー源になったからです。岡本外務大臣政務官も述べられたように、再生可能エネルギーは新時代におけるエネルギー源であり、再生可能エネルギーへの機運は今や止められないと思っています。

再生可能エネルギーは新たな外交ツールに

 このような目覚ましいエネルギー転換の進展は、今までにない強い商業的気運により下支えされています。発電所規模の太陽光や陸上風力の平均コストは、2010年以降それぞれ73%、23%と下がっており、今後もさらなるコストダウンが見込まれています。蓄電池も、すでにこの7年間で70%ものコストダウンを実現させており、後10年間でさらに60%ほどの低下が見込まれています。一方、スマートグリッドの技術、デジタル化、ビッグデータの登場は、エネルギーシステムを設計、運営する上で革新的な変化をもたらしています。未来のエネルギーシステムは、高度で柔軟性があり、費用対効果も高いものになるでしょう。
 エネルギー転換の進行を受けて、多くの国々では再生可能エネルギーの導入目標がより一層高く設定され、同時に再生可能エネルギーのエネルギーシステムへの統合を進める作業が急速に進められています。たとえば、ドイツでは今年初めに一時的ではありましたが、初めて使用電力の100%を再生可能エネルギーでまかなうことを達成しました。イギリスでも2017年4月に1880年代以来初めて、丸一日、石炭を使わずに発電しました。さらに、昨年は、風力発電と太陽光発電による発電量が初めて原子力発電を上回りました。
 主な産油国でも再生可能エネルギーの拡大に向けた大胆な取組を行っています。先週も日本のソフトバンクグループとサウジアラビアが提携し、新たな200ギガワットの太陽光プロジェクトを行うことが発表されました。これが成功すると、アメリカの既存あるいは現在計画中の太陽光発電能力の3倍にもなります。先日もサウジアラビアを訪問し、政策立案者らと懇談しましたが、将来的にエネルギー輸出国としてあり続けることはもちろんですが、再生可能エネルギーで生産したクリーンな電力の輸出もしたいと語っておりました。また、IRENA事務局本部のあるアラブ首長国連邦でも、2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を70%削減し、電力は2050年までに全体の44%を再生可能エネルギー由来にする計画を掲げています。石油に大きく依存している国々でさえも、将来は再生可能エネルギーが重要になってくると見ているのです。
 国だけでなく、地方政府や都市でも野心的な再生可能エネルギー導入目標を掲げています。米カリフォルニア州は、世界の国と比べても第6位に相当する経済規模を持ちますが、2030年までに発電電力の50%を再生可能エネルギー由来にするという目標を、10年前倒しで達成する見込みであることを最近発表しました。福島も含めて、世界の多くの都市が再生可能エネルギー100%の目標を掲げています。そして、グーグル、アップル、フェイスブックという世界大手の企業も、電力を徐々に再生可能エネルギーで賄うようになっています。日本の企業も6社が、再生可能エネルギー100%を目指す「RE(Renewable Energy)100」に参加しており、こうした会社の間では、新たな投資を行うと共に、再生可能エネルギーが多くのマーケットで推進力となるという意識を強めています。
 振り返ってみますと、2011年以降の大きな展開として、持続可能な開発のための2030アジェンダとパリ気候変動協定という前例を見ない国際的合意の採択により、再生可能エネルギーは豊かで包括的な未来へ向けての世界的な取り組みの中心に据えられました。アイスランドのグリムソン前大統領が主宰した会議に出席した時、グリムソン氏は、パリ協定というのは、気候変動の合意ではなく、エネルギー合意であると仰っていました。なぜならば、気候変動目標は、エネルギーシステムの転換をもってでしか達成できないからです。再生可能エネルギーを志向するビジネスとも強く結びつき、こうしたグローバルな枠組みによって、再生可能エネルギー導入の世界的機運は今以上に強化されていくでしょう。
 アジアにおいては深刻な大気汚染により毎年500万人近くの人が死亡し、これに対する対策の遅れによるコストは人的にも財政的にも非常に大きなものになっています。また、インフラ施設への損害や人命の損失をもたらす異常気象のリスクが、気候変動によりいかに高まっているかを、我々は世界の各地で目の当たりにしています。しかし、再生可能エネルギーによって、気候変動の抑制は可能になります。我々のアナリストが調べたところによりますと、現在の投資傾向を鑑みると、適切な条件がそろえば、再生可能エネルギーは、省エネルギーと共に推進することで、パリ協定の下で2050年までに必要とされる排出削減目標の90%を削減することを可能とします。また、このシナリオのもとでは、再生可能エネルギーのさらなる導入は、世界のGDPを2050年までに0.8%押し上げ、雇用も現在の1000万人から2600万人にまで増えると分析されています。持続可能なエネルギーへの転換は、技術的にも実現可能かつ、今は経済的にも魅力があります。今日、再生可能エネルギーは、気候変動対策と経済成長の双方に有益なのです。人類の歴史の中で、世界的な危機に対する世界的な解決策が経済的にも有益であるという事象は極めて珍しいケースです。私たちは経済を深刻な気候変動の影響から救うことができるのです。
 世界は、気候変動対策の成功を支え、社会経済的にもプラスの利益をもたらすより持続可能なエネルギーシステムに向かっており、日本は、このような世界のエネルギー転換において、リーダーシップを発揮できる立場にいます。
 日本企業は、すでに技術や投資でも最前線に立っています。日本は、環境にやさしい技術のイノベーション分野における世界三大拠点の一つです。日本には再生可能エネルギーのコスト低下を活かし、再生可能エネルギーのシェアを増やすことのできる大きな潜在力があります。そのためには、現在進められている電力部門の改革に加え、長期的な目標も含めた政策が不可欠です。
 今年1月に私は、河野外務大臣をIRENA総会(アブダビ)でお迎えし、日本における再生可能エネルギーへの取り組みをより強化するとの決意を表明いただきました。昨晩も河野大臣、並びに「気候変動に関する有識者会合」メンバーとの交流とを通じて、そこで交わされた未来への展望や可能性に非常に感銘を受けました。

期待される日本のリーダーシップ

 最後に、再生可能エネルギーが、エネルギーの世界に変革をもたらすだけでなく、どのように国家間の関係を根本的に再定義しうるか、そしてそれが世界の平和や社会に対して持つ重要な意味に関して述べたいと思います。島嶼国にとっては、再生可能エネルギーへの転換はエネルギー安全保障の向上、エネルギーコストの低下、自然災害に対する強靱性強化といった点で多くの便益があります。日本においても、国内再生可能エネルギーの供給の増加は、エネルギー安全保障の劇的な向上につながると私たちは考えています。
 一方、エネルギーの自立化は、決して孤立主義や単独主義に向かうものではなく、むしろ各国間関係における新たな原動力、つまり、積極的な相互依存につながります。太陽光や陸上風力等のような変動する再生可能エネルギー電源というのは、リアルタイムで需給バランスを取ることが可能な、柔軟かつ相互的な電力システムを必要とします。IRENAにおいても、そのような方策を積極的に進めるため、アフリカや中米における「クリーンエネルギー回廊イニシアティブ」を推進しています。
 再生可能エネルギーは民主化の強力な推進役にもなります。エネルギー供給の分散化は地域の自立性を高め、エネルギー貧困を減らし、地域社会づくりを後押します。日本では2011年の大地震と津波で被害を受けた都市において、例えば宮城県東松島市のように、そのような分散型モデルに沿った地域社会の再建が進められています。
 オフグリッドの再生可能エネルギーは、エネルギーアクセスを拡大させることを可能にし、それにより新たな経済的機会や雇用を生み出し、地域社会の貧困を解決し、健康や教育システムの向上をもたらしています。東南アジアだけでも未だエネルギーへのアクセスがない人口が6500万人おり、再生可能エネルギーは彼らの社会経済的発展を支え、地域の繁栄をもたらすことに利用できるでしょう。
 日本は、こうした発展を支え、またその恩恵を受ける戦略的な立場にあります。再生可能エネルギー外交を通じ、日本の国際開発政策は新しい方策や可能性を得て、地域人口の発展の推進、持続可能な発展目標と整合性のとれた国家開発計画の支援、大規模な移民・難民問題等の根本原因の解決などに貢献できるでしょう。特に、途上国においてキャパシティービルディングや様々な訓練は非常に重要で、彼らの未来を大きく変えています。そうした活動に対する日本政府の支援に対して私は心より感謝の意を申し上げたいと思います。
 再生可能エネルギー外交により、世界の地政学は20世紀のエネルギー外交を象徴づけた欠乏や強制、対立といった概念ではなく、豊かさや平和、協力に基づくものとなり得るのです。
 かくしたパラダイムシフトをより把握すべく、今年1月にIRENAでは地政学委員会を立ち上げました。委員会からの報告書は、来年のIRENA総会で発表される予定です。
 積極的な再生可能エネルギー外交を行うことで、新たな活気と決意に満ちた日本は、国家間の平和や協力を一層推進することができるでしょう。IRENAでもそうした日本の指導力に、重要な国際的交渉の場を提供し、実りのある関係をさらに深めていくことによって共に我々の前にある歴史的な課題に取り組んでいきたいと思います。
 最後になりますが、今回の日本滞在を通じて、日本というのは、技術的な優位性と非常にたぐいまれな製造及びイノベーションのスキルを持っているということを確信しました。国内の取組や国際協力の場における事例を鑑みても、我々は日本が世界のエネルギー転換の主要なプレーヤーとなると信じています。我々は、再生可能エネルギー分野における日本の指導力を歓迎するとともに、皆さんが力強いリーダーシップとビジョンを持ち、新たな段階へ日本をけん引していくであろうことを期待しています。ありがとうございました。

以上

スピーチの英語原稿は下記からご確認できます。
http://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Speech/DG_Sasakawa_Japan_Speech_FINAL.docx

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