ウィップス・パラオ大統領、「人的交流」が日本と太平洋地域の絆を強化

(2021年7月6日、ISLAND TIMES/PACNEWS)

【抄訳】
ウィップス・パラオ大統領は、太平洋・島サミット(PALM)を通じた日本と太平洋島嶼国の人的交流イニシアティブは、300人を超える太平洋島嶼国の大学生に日本で学ぶ機会をもたらしたと述べた。
 
7月2日にオンライン形式で開催されたPALM9において、ウィップス大統領は「教育のデジタル化、日本での就業機会探求、青年・学術交流促進を支援する日本の未来のリーダーを対象とする教育プログラムについて、日本政府に感謝を伝えたい。地域にはこれまで400人の日本人ボランティアが訪問し、専門知識と日本語を共有してきた。」、「菅総理、このPALM9を通じ、我々は人材開発強化、教育と就業機会の拡大、日本が得意とし、地域が強く必要としている分野の技術的専門知識の共有強化を望んでいる。」、「日本はまた、質の高いインフラ開発、民間部門の開発とイノベーション、災害対応、保健医療や教育分野を通じ、地域への支援を続けている。」など発言し、太平洋島嶼国とのパートナーシップの強化に繋がる人的交流および人材開発の取り組みについて、日本に謝意を述べた。
 
太平洋島嶼地域は、新型コロナウイルスパンデミックから気候変動の脅威、経済復興、安全保障まで広範な課題を抱えており、ウィップス大統領は、最も関係の近い日本に対し、これらの課題への対応への支援が必要とし、「キャパシティビルディングと強力なパートナーシップの発展を通じ、我々は真に強靭で繫栄した太平洋を取り戻すことができる。」と述べ、さらに2022年2月にパラオで予定されているアワー・オーシャン会議に日本を招待した。
 
 
PALM9会議では、パラオを含む18の太平洋島嶼国・地域首脳が、5つの優先課題に対する今後3年間の協力について議論した。その協力は、新型コロナウイルス対策と回復、ALPS汚染処理水問題を含む法の支配に基づく持続可能な海洋、気候変動と災害への強靭化、持続可能で強靭な経済発展に対する基盤の強化、人的交流および人材開発を対象とする。
 
太平洋諸島フォーラム議長のナタノ・ツバル首相は、「福島第一原発からの多核種除去設備(ALPS)による汚染処理水の太平洋への放出するという日本の意図に関する誠実で率直な対話(honest and frank dialogue on Japan’s intention to discharge Advanced Liquid Processing System Treated Water from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant into the Pacific Ocean.)」を求めた。
 
さらに同首相は「我々は、我々の太平洋、環境、そして人々に対し、害がないことを確実にしたい。」と述べ、「ALPSは太平洋にとって重大な問題であり、日本に対し、国際的協議、国際法、そして独立し検証可能な科学的調査を保証することを要請する(urge)」と述べた。
 
サミットを締めくくる共同声明において、太平洋島嶼国および日本の首脳は、「自由で開かれ持続可能な法の支配に基づく海洋秩序(free, open and sustainable maritime order based on the rule of law)」の重要性への関与を約束した。
 
日本はまた、地域への新型コロナウイルス関連支援、インフラ開発、少なくとも3百万回分のワクチン提供を約束した。
 
(訳:塩澤英之主任研究員)
 
 
【コメント】
本記事はパラオのISLAND TIMES紙によるもので、前半がウィップス・パラオ大統領による日本とパラオの関係を基盤に地域全体への視点を含む発言、後半が現在のPIF議長国であるツバルのナタノ首相による地域としての発言で構成されています。
 
現状、パラオはワクチン接種が進み(6月30日現在、人口約18,000人の75%、18歳以上人口の96%が、2回接種済み)、グアムとの航空便再開など、着実に新型コロナウイルスをコントロールしています。このような背景もあり、ウィップス大統領の発言からは、新型コロナウイルスにより疲弊した経済社会復興とそれを支える日本への留学や日本からの専門家やボランティアなどの派遣を通じた人材開発を重視していることが分かります。
 
後半のナタノ・ツバル首相の太平洋諸島フォーラム議長としての発言では、地域全体として、福島原発汚染処理水に対する懸念を述べ、日本に対応を求めています。日本政府は各国に説明を行っていますが、地域としては率直な協議と第三者機関による調査を求めています。
 
太平洋島嶼地域では、戦後、米英仏による核実験場となった背景があり、PIFという地域枠組みは1971年にフランスの核実験に対する抗議がきっかけとなり設立されました。地域では、1985年に南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)が結ばれるなど核問題を重視してきています(※ラロトンガ条約に米国自由連合国であるミクロネシア3国は参加していない)。
 
その太平洋諸島フォーラム(PIF)と日本の核に関わる問題は、歴史上、今回が3回目となります。
 
1回目は1980年代初頭のこと。日本の核廃棄物海洋投棄計画に対し、PIFが日本に対する非難を行いました。当時、核実験に対するフランスへの非難、核廃棄物海洋投棄計画に対する米国への非難も同時に行われました。これに対し、1985年に中曽根総理(当時)がフィジーを訪問し誤解を解き、PIFは日本を初めての域外国対話パートナーとして認識するようになりました。そして、1987年に倉成外相(当時)がフィジーで倉成ドクトリンを発表、1988年に笹川平和財団が東京で太平洋島嶼国会議を開催するなど、核廃棄物海洋投棄問題が切っ掛けとなり、日本とPIFという地域枠組みとしての太平洋島嶼国との関係が深化しました。
 
2回目は1990年代初頭から2000年代に発生した、プルトニウム海上輸送問題です。日本がヨーロッパからプルトニウムを輸送する際、太平洋を通る可能性があり、これに対してPIFは毎年日本に対し説明を求めました。これに対し、2000年に民間出資による10億円の基金が設置されたことで、この問題は沈静化しました。この期間、1996年には現在の太平洋諸島センターが日本とPIFの共同出資で開設され、1997年には第1回太平洋・島サミット(当時は日本・PIF首脳会議)が開催されました。この問題に関しても、結果的に日本と太平洋島嶼国との関係深化に繋がりました。
 
3回目の日本の福島原発汚染処理水海外放出については、4月中旬に日本政府が決定を発表してから、まずテイラーPIF事務局長(当時)、次いでナタノPIF議長・ツバル首相が、日本に対して協議と第三者機関による調査を求める書簡を発しました。さらに4月下旬、ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領が日本との関係が深い友人として、地域のニュアンスを伝えるべく、菅総理に同様の書簡を発出しました。さらに、5月中旬に就任したプナPIF事務局長は改めてこの問題を取り上げるとメディアに発言していました。
 
ただし、これら太平洋島嶼国側からの書簡では「ALPS treated water」「release」「discharge」という言葉が使われている一方、現地メディアには「nuclear waste」「dump」といったより強い表現が使われる違いがあり、太平洋島嶼国側は日本を非難するというよりも、率直な対話と安全であることを確信できる明確な情報を必要としていることが読み取れます。
 
過去の事例を踏まえると、対話による解決を進めることで、日本と太平洋島嶼国関係のさらなる深化に繋げることができるかどうか、注目されます。
 
(塩澤英之主任研究員)

 

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