サモア史上最も劇的な選挙+6/9情報追記

(2021年5月5日、THE GUARDIAN/PACNEWS)

【抄訳】
サモア独立国では先日、史上最も劇的な選挙があったばかりだが、その結果をめぐって、法的措置による脅しや、「陽動作戦」、「策略」が渦巻き、国として身動きが取れない状況に陥ったため、再選挙へと舵が切られた。
 
国家元首(首相とは別の立場)のトゥイマレアリイファノ・ヴァアレトア・スアラウヴィ二世殿下は、4月9日に行われた総選挙の結果を無効にしたと発表し、5月21日に再投票を行うことになった。
 
スアラウヴィ二世殿下は記者会見で、「総選挙の結果、政権と呼べるほどの明確な多数派が存在せず、(再投票の)実施が公共の利益にかなうことが明らかな場合、私は国家元首として、やり直しの選挙を要請することができると確信している」と発表した。
 
サモア独立国では、39年間同国を統治してきた人権推進党(HRPP)と、昨年設立されたFAST党との間で、選挙結果をめぐり行き詰まりが続いていた。 
 
以前はHRPPに属し、副首相を務めた経験を持つFAST党のフィアメ・ナオミ・マタアファ党首は、再投票の決定に異議を唱え、HRPPの党首であるトゥイラエパ・ファティアロファ・ルペソリアイ・サイレレ・マリエレガオイ暫定首相が、選挙プロセスに干渉していると非難した。
 
「我々は、このような行動を認めず、権力を維持するためのリソースや公務員の悪用を非難する。プロセスには、陽動や策略なしに従わなければならない」
 
同国は3月の議会解散以来、暫定統治状態にある。
 
現職としては世界で2番目に長い、22年以上の在任期間を誇るトゥイラエパ首相は、再選挙の実施を決定した国家元首を称賛し、次の選挙結果は 「神に委ねる」と述べている。
 
再投票実施のニュースは、4月9日の選挙結果をめぐる騒動に未だ巻き込まれている国民に対して、大きな衝撃を与えた。
 
「不満だ、信じられない。これは絶対的な権力の乱用だ」と主張するサバイイ島の有権者は、最初の選挙でFAST党の候補者に票を投じたと明かし、2度も投票させられるべきではないと語った。
 
メディアコメンテーターであるルディ・バートリー氏は、再選挙の実施は前代未聞だと語った。
 
「再選挙の発表により、サモアは、2週間後に予定された国政選挙の準備と実施という大きな課題に直面している。4月に行われた前回の選挙は、準備から5年を要した。私の疑問は、サモア国民を代表する政府を決定する上で、このような駆け足の選挙が、国民の選択を正しく誠実に反映するための高潔性を保ち得るのかということだ」
 
4月の選挙は、サモア史上最も接戦となり、両政党が25議席ずつを獲得すると、1議席を獲得した無所属議員が、勝負の行方を一手に握ることになった。
 
この無所属議員が支持政党を発表する日、首相は国会議員に占める女性の割合を満たすためと称して、新たに女性議員を追加することを発表し、HRPPの議席数が26となった。
 
しかしここで、無所属議員がFAST党支持を表明。議席数は再び26対26の同数となり、政権の行方は暗礁に乗り上げた。またこれは、国会の女性割合10%を満たすため、史上初の女性首相の誕生を阻んだという皮肉な結果を意味している。
 
(訳:立入瞳)
 
【コメント】
本年4/9にサモアで実施された総選挙後、同国では政治的混乱が続いてきましたが、これを書いている6月9日時点で、ようやく新政権への移行の流れができたようです。ここでは、現在までの経緯、サモア概況、問題の根本にあるもの、関連する昨年からの動きに分けて書いていきます。
 
1.4/9総選挙後の動き
4/9      総選挙の結果、与党HRPP(人権保護党)25議席、新党FAST党25議席、無所属1議席
4/20    無所属1名が新党FASTに合流、HRPP25議席、FAST26議席
4/25    女性5名当選、しかし、全議席の10%が女性という規定を満たさないとして、選挙区で次点だった女性候補(HRPP党)が女性6議席目として当選。51議席の10%は5.1議席となるが、5.1を5議席とするのか6議席とするのかで見解分かれる。これにより、再びHRPP26, FAST26
5/4      ここで国家元首があらわれ(国王や大統領とは異なる)、5/21再選挙を要請
5/5      FAST党、国家元首の要請は憲法違反として最高裁に提訴
5/17    サモア最高裁、女性6議席目を無効と判断、5/21再選挙要請も退ける
5/19    FAST党、5/21の議会開会要請(首相就任の場)
5/23    議会開かず。議長が鍵を持って消える。
5/24    議会外でマタアファFAST党首、首相就任宣言
5/25    トゥイラエパ暫定首相、マタアファFAST党首を国家反逆と非難、相互にクーデターと指摘
6/4      トゥイラエパ暫定首相、マタアファFAST党首が秘密会談
 
マタアファ氏は、30年にわたりHRPP党に所属し、昨年途中まで副首相を務めていました。ところが後述の理由により、離党し、今年1月新党FAST党に合流、3月にFAST党首に就任しました。
 
2.サモア概況
さて、なぜこのような混乱が生じたのか。その背景には、トゥイラエパ長期政権、伝統社会と現代社会のギャップなどが背景にあります。
 
サモアの人口は20万人弱。海外に住むサモア人の人口は60万人ともいわれ、世銀の資料を見ると、海外からサモアにいる親族への送金額がGDP(約800億円)の2割程度あります。
 
サモアの伝統的身分としてマタイ制度という酋長(家長)制があり、マタイの割合は人口の9%弱、マタイの男女比は4:1と言われています。また被選挙権はマタイしか認められていません。各村落には家族ごとに家長としてマタイがおり、各村落にあるファレという集会所には、それぞれのマタイが座る柱が決まっています。以前、サモア外務省の友人は、村落で会合を行う際に、現代社会の身分を優先すべきか、伝統社会の身分を優先すべきかで毎回悩むと話していました。ちなみに、ファレはキリバスに伝わり、キリバスの集会所マニアバになったと言われています。
 
筆者は、マーシャル諸島とフィジーに居住し、パラオに50回以上、その他の太平洋島嶼国にも滞在した経験がありますが、サモアはリアルポリネシアが残りつつも、柔軟性の低い社会という印象を持っています。民間部門に潜在的発展性があるものの、社会的固さにより伸びが緩やかという印象です。
 
政治的には、22年以上、HRPP党のトゥイラエパ政権が続き、昨年途中まで全50議席中、与党HRPPが44議席を占めていました。また、同首相は中国との関係が深いことで知られています。
 
3.今回の問題の根本にあるもの=現代社会(法の支配・人権)と伝統社会(伝統的掟)
ここから、今回の政変の核心部分に繋がる話になります。現代社会(法の支配と人権)と伝統社会(伝統的掟)の対立構造が中心になります。
 
大抵の太平洋島嶼国には、伝統的身分制度や伝統的土地所有権というものが残っています。また法律も旧宗主国が導入した現代法とその土地の伝統に基づく慣習法が併存していることがあります。
 
例えば、かつてマーシャルでは、現代法では土地の権利は潮上帯(満潮時の海岸線)よりも上の土地を指す一方で、伝統的慣習法では潮下帯(干潮時の海岸線)よりも上の土地を指すということがありました。これにより、潮間帯(潮上帯と潮下帯)を埋め立てて土地を作る際に、その権利が国に帰属するのか接続する土地の地権者に属するのかで問題になり、開発パートナーのプロジェクトの障害になることもありました。現在は法改正されているものと思います。
 
さて、サモアの場合ですが、サモアには英国式の現代法であるコモンローおよびエクイティと、サモア慣習法があります。司法制度も複雑で、現代法に基づいて裁く裁判所(最高裁まで)と、サモア慣習法に基づく土地・称号裁判所(Land and Title Court)で分離されており、土地やマタイの権利に関する問題は後者の下で判断されます。
 
また、村落内の問題は、法令(Village Fono Act)に基づき、マタイの会議によって解決が図られ処罰や称号の剥奪などもそこに含まれます。マタイの会議では伝統的慣習や掟によって裁かれるわけですが、人為的な要素もあり、憲法で保障されている人権や信教の自由を侵害する場合があると問題視されてきました。大きな問題については、最高裁の監督下にあるLand and Title Courtで判断されていたということです。
 
しかし、Land and Title Courtにも明文化されず口頭で判断されたり遅延などの問題があり、その判決を受けても上訴することができませんでした。ただし、憲法で保障されている人権を守る立場にある現代法に基づく最高裁が監督しているため、実際にマタイ制度に関わるもので、Land and Title Courtの判断が最高裁の判断で覆されるということもあったようです。
 
この司法制度の改革を進めたのがHRPPおよびトゥイラエパ政権になります。
 
内容は、伝統的慣習法に基づく判断に対する現代法に基づく最高裁の介入をなくすため、Land and Title Courtを最高裁の監督下から外し、Land and Title High CourtとLand and Title Court of Appeal and Reviewを設置するというものでした。
 
HRPP党は2019年1月に改正法案を提出、2020年4月に修正改正法案を提出、2020年12月15日に賛成41、反対4で可決されたという経緯があります。
 
4.Land and Title Court改正法と、政界再編の動き~4/9総選挙
最後に、上記の改正法とそれにより生じた政界再編の動きを確認します。
 
2020年4月、与党HRPPは、Constitutional Amendment Bill 2020(憲法改正法案)、the Lands and Titles Bill 2020(土地・伝統的称号法案)、the Judicature Bill 2020(司法改革法案)の3案を議会に提出しました。
 
3つの法案は互いに関連しており、中心にあるのは、the Lands and Titles Bill 2020です。これを実現するために司法改革と憲法改正が必要になります。
 
問題はそのプロセスで、憲法改正は公聴会を開催することになっていますが、HRPP党は、コロナ禍を理由に公聴会を十分に行わず、憲法改正を進めようとしました。
 
ここからは、時系列でRNZ記事タイトルを紹介します。
(2020年)
4/18    サモア政府、コロナ禍を利用し、憲法改正か(3法案)
4/29    トゥイラエパ首相・マタアファ副首相、議会で対立 選挙改定法採決で
5/8      憲法改正含む法案の反対集会、野党代表驚き
5/18    与党議員, 首相に退陣求む
5/20    首相, 退陣要請与党議員に, 党務支持か離党を提案
5/25    サモア3法案, 住民公聴会実施も, 情報不十分
5/27    シュミット元大臣, 憲法3法案反対,首相の離党要請拒む
5/30    シュミット元大臣, 与党離党
6/1      サモア シュミット元大臣, 新政党FAST設立
6/30    シュミット議員, 3カ月資格停止受け辞任(3名離党)
9/15    マタアファ前副首相, 辞任、理由説明
12/10  議会, 土地権利など憲法に係る3法案決議へ→12/15可決
 
(2021年)
1/18    マタアファ前副首相, 新政党FASTに参加
3/12    マタアファ前副首相, 総選挙前に野党党首に就任
4/9      総選挙
4/15    総選挙速報, 全51議席, 与野党25席でタイ
6/4      2人の首相、秘密会議
 
まだ、マタアファFAST党首は正式に首相に選出されていないと見なされ、円滑に政権交代が進むとは思われませんが、5/26にはミクロネシア連邦のパニュエロ大統領がマタアファ政権を承認、6/3にはグアム政府が米連邦政府にマタアファ政権の承認を求めています。ちなみに、マタアファ党首は、5/20、中国の港湾開発計画見直しを表明しています。
 
(塩澤英之主任研究員)

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