PNAはFFAのアプローチとは異なる沿岸国単位の漁業交渉を推進しており、10年ほど前に巻き網漁を対象に導入された入漁料設定方法である隻日法(VDS, Vessel Day Scheme)は、加盟国の財政に革命的変化をもたらしました。例えば、VDS導入以前のマーシャル諸島の入漁料収入は年4百万米ドル程度であったところ、VDS導入後には年30~40百万米ドルに増大しました。
また、PNAは加盟国のEEZ内の資源管理だけではなく、加盟国が取り囲むポケット公海(上図のオレンジ部分)の禁漁も目的としています。加盟国が漁業国に販売する漁業権にポケット公海での禁漁(高額な罰金を設定)を含むことで、本来実施不可能な公海内の資源管理を間接的に行っています。
太平洋島嶼地域が関連する漁業関連枠組みとしては、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会、本部:ミクロネシア連邦ポンペイ)もあります。まぐろ類の保存・管理に関する条約に基づく枠組みで、日本を含む漁業国や太平洋島嶼国など25カ国・地域が加盟しており(参考:国際水産研究所
http://fsf.fra.affrc.go.jp/kakosintyaku/2008/wcpfc.htm)、日本にとっては漁業資源確保のためにシビアな戦いを行う場でもあります。
太平洋島嶼国では財政の維持・強化が常に重要な問題であり、パプアニューギニアなど鉱物資源の豊富な国を除けば、漁業や観光が重要な歳入源になります。特にPNA加盟国ではかつお・まぐろ類の資源量が多く、国の歳入に占める入漁料収入の割合も高い状況にあります。例えば、2016年、キリバスでは入漁料収入が政府歳入204.5百万豪ドルの約78%(159百万豪ドル)を占めました。
しかし、昨年発生したコロナ禍とその長期化により、主要産業の1つである観光部門が壊滅的打撃を受け、漁業に関しても、操業や港湾での作業における制約、需要減少がもたらす入漁料単価の低下、操業日数の減少などによる入漁料収入への影響が懸念されていました。この点に関して、昨年12月、マーシャルの入漁料収入が前年比2割減の見込みとの報道がありました(https://www.rnz.co.nz/international/pacific-news/433528/marshall-islands-fisheries-revenue-expected-to-drop-20-percent)。
ここで、PNAの情報を見てみましょう(
https://www.pnatuna.com/content/covid19-update)。
2021年4月付レポートからは、入漁料単価ではなく漁業活動という面では、港湾での漁獲の積み替え(transshipment)に関する2020年3月前後と同9月前後の大きな落ち込み以外には、コロナ前とコロナ禍発生後との間で観光部門ほどの極端な変化はないように見えます(
https://www.pnatuna.com/sites/default/files/PNA%20COVID%20Dashboard%20-%20Apr%202021%20-%20PS.pdf)。
これは、記事中に出ているプロトコル(取扱い手順)を遵守してきた成果と言えるかもしれません。では、そのプロトコルを簡単に確認してみます(FFAとPNA、いずれのウェブサイトからも入手可能です。
https://www.ffa.int/system/files/Fisheries%20-%20COVID-19%20-%20Operating%20Protocols%20v4.1-final%2030%20March%202021.pdf)
同プロトコルは一般的なリスク削減と、実際の海上保安活動におけるリスク削減からなります。
一般的なリスク削減に関しては、個々の衛生管理、船上での社会的距離の維持、船舶甲板等を清潔に保つこと、人員の定期的な健康チェック、船舶の接触監視、PCRテストとワクチン接種からなります。
実際の海上保安活動におけるリスク削減に関しては複雑ですが、対象船舶における陽性者有無の確認、14日間の海上隔離と非接触維持などの検疫手続きなどにより、いかに海上から新型コロナウイルスを上陸させずに活動を行うか、という点に集約されます。記事中ヘルゲン氏が「船を介して自国に侵入するウイルスを防ぐ方法も注視しなければならない」と述べたように、より注意の必要なプロトコルと言えます。
昨年12月、パラオで臨検時の事例がありました。「パラオ、拿捕した中国漁船と船員を捜査」(2020年12月17日RNZ、https://www.rnz.co.nz/international/pacific-news/433079/palau-investigates-detained-chinese-fishing-vessel-and-crew)。この事件では、パラオ南端のヘレンリーフ付近でパラオ海上保安当局が中国漁船を密漁の疑いで拿捕し、中国漁船と船員28名が14日間の検疫措置を受けました。一方、パラオ当局の海上警察官はPPE(個人防護具)を身に着けて対応したものの、パラオ海上警備艇(Remeliik2)と対応にあたった海上警察官全員が、海上の警備艇の中で14日間の検疫措置を取ることとなりました。
太平洋島嶼国の多くは実質的にコロナフリーを維持しており、厳重な水際対策が必要です。一方で、各国とも海上保安分野の人員が限られているため、臨検をともなう取締り活動のたびに14日間の検疫措置を行うことは、各国の海上保安能力の低下につながりかねません。悩ましい問題です。