Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第548号(2023.06.05発行)

30by30目標の達成に向けて

[KEYWORDS]海洋保護区/OECM/自然共生サイト
元環境省自然環境局自然環境計画課専門官◆守 容平

昆明・モントリオール生物多様性枠組でも盛り込まれた30by30目標。環境省ではその達成に向けて、自然共生サイト認定の仕組みを通じたOECMの設定等を進めていく。
広大で多様な生態系が存在する日本の海域で30by30目標を達成し、健全な海洋生態系を保全するためには、海洋保護区や自然共生サイトなど、海域の生態系の価値や利用の特性に合わせた手法を用いることが必要である。
官民が連携した取り組みで実効性のある生物多様性の保全を図りたい。

30by30目標とは

■図1 有志の企業・自治体・団体による「生物多様性のための30by30アライアンス」のロゴマーク

「30by30目標」とは2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させるというゴールに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標である。昨年(2022年)12月、モントリオールで生物多様性条約COP15が開催され、3年越しにポスト2020生物多様性枠組の本格的な議論が行われた。この枠組の中で、場に着目したエリアベースの保全に係る目標として注目を集めていたのが、「30by30目標」である。ポスト2020生物多様性枠組はCOP15での議論を経て「昆明・モントリオール生物多様性枠組」として無事採択され、30by30目標も2030年までの目標の一つとして盛り込まれた。2020年までの「愛知目標」では陸17%、海10%を保全することが目標となっていたことを考えると、非常に野心度の高い目標と言える。
語呂合わせで作られたような目標であるが、エリアベースで30%を保全する根拠も存在する。国内外の研究により、例えば、「世界の陸生哺乳類種の多くを守るために、既存の保護地域を総面積の33.8%まで拡大が必要」や「海洋を面的に保全することが生物多様性にとっても持続的な漁獲にとっても正の効果がある」といった指摘がなされる等、生物多様性の保全を進めるためにまずは30%保全を目指すことが重要と考えられている。
生物多様性の恵みである「生態系サービス」は、私たちの社会を支えているが、過去50年間で劣化傾向にある。そのような中、30%保全によって、健全な生態系を回復させ、豊かな恵みを取り戻すことが期待できる。例えば、「CO2の吸収・固定」「防災・減災に寄与する自然の再生」「プラスチック代替のバイオマス資源の持続的な生産」「疲れを癒し免疫力を高め、健康な生活と活力ある地域を支える自然とのふれあい」等、30by30目標達成によって数多くの効果が期待できる。

OECMとは

この30by30目標の達成のカギとなるのがOECMである。OECMとはOther Effective area-based Conservation Measuresの略であり、簡単に言うと「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域」のことである。例えば、ナショナルトラスト、ビオトープ等民間団体が生物多様性保全を目的として管理している場所のみならず、企業の水源の森、手入れがされている里地里山、企業敷地や都市緑地、試験・訓練のための草原、里海として利用されてきた沿岸の藻場・干潟といった多様なエリアのうち、管理の結果として生物多様性の保全が図られているエリアが該当し得る。環境省では、このようなエリアのうち、民間等の取り組みにより結果的に生物多様性保全に貢献している区域を「自然共生サイト」として認定する仕組みを構築し、2023年度から正式な認定を開始した。この「自然共生サイト」の認定の仕組みでユニークな点は既存の保護地域の中の取り組みも認定対象としているところである。日本の場合、国立公園など保護地域に指定されている場所であっても、企業や地域によって生物多様性の保全が図られている場所は存在し、このような場所の質を向上させる手段として「自然共生サイト」認定を活用したいと考えているからである。「自然共生サイト」のうち、保護地域との重複を除いた区域をOECMとして整理することとしている。
日本の海域では、海岸におけるビーチクリーンや外来植物の駆除、藻場の再生のためのアマモ播種、サンゴ礁保全のためのオニヒトデ駆除など、民間等の取り組みがなされている沿岸域については、自然共生サイトの仕組みを活用することができる。自然共生サイト認定には、決して厳しくはないものの活動が生物多様性保全に貢献していることを示す一定の基準が存在する。そのため、各地で自然共生サイトの認定を目標に、海鳥や海浜植物の観察記録をまとめ直してモニタリング記録として利用できるようにする、地域の博物館や行政・漁業関係者との協力を進める、など現在行われている取り組みをもう一歩、アップグレードしていただけると、日本の沿岸生態系の保全・管理の質の向上につながると考えている。環境省でも、こういった自然共生サイトでの活動を後押しする支援策をしていく予定である。一方、自然共生サイトの仕組みを適用しにくい沖合域については、生物の生息状況などの科学的情報を参照しながら、産業活動等に伴う海域の管理が結果としてその海域の生物多様性保全に貢献している海域をOECMとして整理することとしている。

■図2 海における30by30目標の達成に向けて

日本で海の30by30目標を達成するには?

現在、日本の海では日本の管轄水域(内水を含む領海と排他的経済水域)中、13.3%が海洋保護区となっている。この海洋保護区の指定状況を沿岸と沖合に分けて見てみると、管轄水域の約5%を占める沿岸域はすでに70%以上が海洋保護区として整理されている一方で、管轄水域の約95%を占める沖合域は10%程度しか海洋保護区となっていない。日本の排他的経済水域が広大であるため当たり前ではあるが、30by30の数字上の目標を達成するためには沖合域でエリアベースの保全を考えることが必要不可欠である。環境省では上述の沖合域におけるOECMの考え方に沿って、2023年度から、具体的なOECM候補海域の抽出を開始する予定である。環境省で抽出している生物多様性の観点から重要な海域(重要海域)など科学的根拠を参照しながら、産業利用など社会的な状況も踏まえてOECM候補海域を抽出していく必要があることから、関係省庁とも連携して進めていく。
一方、沿岸域についても、数字上の30by30目標への貢献はわずかかもしれないが、国立公園の海域公園地区を拡大するとともに、自然共生サイト認定や活動の支援策の検討を行い、民間等による生物多様性保全に資する取り組みを後押ししていく。
日本周辺の海域は深浅が激しい複雑な地形であるとともに、黒潮、親潮等の海流と、列島が南北に長く広がることから、多様な環境が形成されている。深海には海山、海溝等の地形に依存する特異な生態系もみられ、沿岸には約35,000kmの長く複雑な海岸線や、豊かな生物相を持つ干潟・藻場・サンゴ礁・砂浜・海草帯・マングローブ林等の多様な生態系がみられる。こうした、日本の多様で広大な海域を保全するためには、海域ごとの生物多様性の価値や海洋資源の利用の目的に合わせて、海洋保護区やOECM、自然共生サイトなどさまざまな管理ツールを用いることが必要であり、官民連携の取り組みも欠かせない。今後も海に関係する多くの皆様の力をお借りしながら、日本の豊かな海洋生態系を保全していきたい。(了)

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