Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第548号(2023.06.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

本誌547号のインフォメーションで紹介されているように、第4期海洋基本計画が4月28日に閣議決定された。パブリックコメント223件も回答とともに公開された。わが国の海洋を巡る政策および経済の状況の変化に対応して、海洋政策の大きな変革すなわちオーシャントランスフォーメーション(OX、 Ocean Transformation)を推進すべき時としている。今後5年間の基本計画をぜひお読みいただきたい。
◆最近CCSという言葉をよく聞く。これは二酸化炭素を回収・貯留する温暖化対策技術であり、ブルー水素やブルーアンモニアの導入に不可欠な技術でもある。日本はCO2排出量を現在の10から11億トンから2050年に約10分の1以下とする目標を目安とし、CCSの事業環境の整備を進めている。東京大学名誉教授の尾崎雅彦先生より詳しく教えていただいた。液化CO2輸送船では造船業が、海域貯留槽貯留では海洋装置産業が重要であり、さらにCO2輸送と貯留の方法にアジア型ハブ&クラスターの提案がある。日本のCCSとそのシステム開発の早期の実現を期待したい。
◆2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催され、「30by30目標」が生物多様性枠組に盛り込まれた。今後は、生物多様性の保全を進め、健全な生態系を2030年までに回復させるために30%保全を目指す。元環境省自然環境局自然環境計画課専門官(現、林野庁)の守容平氏より解説をいただいた。目標達成にはOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)が重要となるので、民間等の協力により「自然共生サイト」を認定していく予定だという。沿岸域ではビーチクリーン、アマモ場再生、サンゴ礁保全など、認定候補は少なくない。一方で沖合域のOECM候補海域の抽出が始まる。日本の国土を囲む海は生物多様性の宝庫であり海洋資源が眠る。豊かな海を守り利用する官民連携の進展が生物多様性保全の鍵である。
◆東京大学大学院新領域創成科学研究科の水野勝紀准教授より海底に潜む埋在性底生生物を非侵襲的に見る技術開発についてご寄稿いただいた。現場型の堆積物中3次元音響可視化システムがそれである。超音波を使って2mm間隔で計測し、高解像度3次元音響画像を作る。水深2,000mまで使える国産品である。水深約1,000mのシロウリガイ群集での実証試験では、幼体を含む約17個体の大きさと姿勢および分布を明らかにすることが出来た。実用化への課題を克服して海底環境評価の向上にも役立てることを目指している。(窪川かおる)

第548号(2023.06.05発行)のその他の記事

ページトップ