Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第533号(2022.10.20発行)

CORDAP戦略計画によるサンゴの再生・保全の加速

[KEYWORDS]気候変動/G20環境大臣会合/オープンソース・プラットフォーム
サンゴ研究開発促進プラットフォーム(CORDAP)事務局長◆Carlos M. DUARTE

熱帯および深海サンゴの減少が懸念されている。サンゴ研究開発促進プラットフォーム(CORDAP)は、サンゴおよびサンゴ礁の未来を守るのに必要な技術やイノベーションを提供するために国際的な研究開発の加速を目指して設立されたもので、今後、承認されることになるCORDAP戦略計画について紹介したい。

熱帯および深海サンゴの減少

熱帯および深海のサンゴは、海洋の生物多様性と人類の幸福に欠かすことのできないものです。しかし現在、世界の熱帯サンゴ礁の3分の2以上が人間の活動のために失われています。残る熱帯サンゴ礁も、地球温暖化を産業革命前と比べて1.5℃の上昇に抑えるというパリ協定の最良シナリオが達成されたとしても、その最大90%が今後数十年で失われかねません。これよりももっと知られていないのが深海サンゴで、われわれがその存在を知る以前から大幅に減少しており、トロール漁や深海鉱物資源開発、気候変動などの人為的圧力によって脅かされています。
気候変動対策の最良シナリオ下でも最大90%のサンゴ礁が失われるという見通しは、次の世代に、サンゴ礁とそれが育む海洋生物が激減した地球での生活を強いることになり、到底受け入れられるものではありません。この見通しからは、海面上昇や暴風雨の増加により領土の多くを失うリスクに晒されている熱帯島嶼国にとって欠かせない水産資源や、サンゴ礁による沿岸防護機能の喪失も予想されます。そのため現在の科学技術の役割は、このようなネガティブな見通しを示すだけでは不十分であることは明らかで、気候変動を含む人為的な圧力を取り除く努力が絶対に不可欠です。現在の科学技術の基盤を、サンゴ礁の未来を守る助けとなる次世代のものに置き換えることが必要なのです。

CORDAPの始まり

サンゴ研究開発促進プラットフォーム(The Coral Research & Development Accelerator Platform:CORDAP)は、2020年に開催されたG20環境大臣会合(議長国:サウジアラビア)で発表されたG20のイニシアチブで、世界中の優れた頭脳を学際的アプローチで集め、サンゴおよびサンゴ礁の未来を守るために必要な技術やイノベーションを提供する国際的な研究開発の加速を目指すものです。この1年で管理および運営の原則を策定し、管理機関が設立され、続いてCORDAP戦略計画が発表されたことで、CORDAPはその使命を果たす準備が整いました。
研究開発に注力し、また、その実現可能性を重視することで、CORDAPから資金を供与されたプロジェクトは、より大規模にサンゴおよびサンゴ礁を保全・再生する次世代ソリューションの研究開発を加速し、はるかに大きな影響を与えるでしょう。そのオープンソースのプラットフォームは、誰もがプラットフォームの技術を進化させ、利用できるようにし、学際的で公平、包摂的で、効率性を追求していきます。このプラットフォームが受け取る国際的な資金は、すべて研究開発その他のプロジェクトに直接使われ、サウジアラビアのキングアブドラ科学技術大学(KAUST)がプラットフォームの中核(事務局)として、すべてのCORDAPの運営をサポートします。
CORDAPは、CORDAPに参加するG20諸国の代表と、顧問を務める国際組織で構成されるイニシアチブ統治委員会(IGC)によって主導されます。日本からは環境省の代表者が参加しています。プログラムの優先順位とプロジェクトの選定は、ジェンダーや地域のバランスを考慮し幅広いスキルがそろうように選ばれた科学者からなる科学諮問委員会が決定します。KAUSTは事務局としてCORDAP運営に必要なあらゆる事務的なサポートを提供します。

CORDAPの戦略計画

科学諮問委員会によって策定されたCORDAPの戦略計画は、プログラムをどのように提供するかを明らかにし、資金提供するプロジェクトのタイプを説明しています。また、研究プロポーザルの提出と審査プロセス、2022年の優先投資分野についても概説しています。この戦略計画は、プログラム運営の最初の3年間を方向付ける、最も差し迫った投資ニーズに焦点を当てています。
2022~2025年戦略計画では、CORDAPがターゲットを絞った多くの研究資金提供プログラムをどのように策定し、提供するかを提示しています。CORDAPは、全く新しい初期段階のアイデアから、最終的な概念実証までの開発や実験を対象に投資します。「新規の研究開発プロジェクト(Novel R&D projects)」などの6つのプロジェクトタイプが特定されています。また、プロジェクトに効果があるかどうかわからない段階で追加の計画が必要となる場合や、効果が表れるまでの間にさまざまな調査研究や関与が必要になる場合への資金提供も検討されます。
サンゴおよびサンゴ礁の保全と再生のためのソリューションが、現在主流の特定地域向けの小規模な介入よりもはるかに広範囲かつ加速的に利用されるためには、CORDAPのオープンソース・プラットフォームが不可欠な役割を果たすでしょう。イノベーションと思考の多様性を最大化するために、CORDAPの活動範囲と資金提供の基準内であれば、どのようなプロポーザルでも応募できます。
この戦略計画は、研究の戦略的方向性の策定と更新、研究開発プログラムの設計および指導を担当する国際組織であるCORDAPの科学諮問委員会によって作成され、今後、CORDAPのイニシアチブ統治委員会によって承認されます。
われわれは、今年の夏に最初の研究プロポーザル募集をウェブサイト(https://cordap.org/)を通して開始しました。応募者はまず簡潔なコンセプトノートを提出し、採用された場合、これを基に完全な企画書を提出します。独立した専門家による評価を経て、CORDAPの科学諮問委員会による評価を受けます。既存の能力と必要な能力の間のかなり大きなギャップを埋めるには、イノベーションが極めて重要であり、われわれはインパクトを生むアイデアを求めています。ご参加を歓迎いたします。(了)

■CORDAPの構成要素と役割 2022 年6月にポルトガルのリスボンで開催されたイニシアチブ統治委員会(IGC)と科学諮問委員会の合同会合の参加者
  1. Novel R&D projects、Improving or scaling up existing interventions、Translation R&D、Scoping and planning studies、Foundation science to support implementation of interventions、Capacity building and local implementationの6タイプ
  2. 本稿は、英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。 https://www.spf.org/opri/en/newsletter/

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