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オーシャンニュースレター

第533号(2022.10.20発行)

神奈川大学「海とみなと研究所」が目指すもの

[KEYWORDS]神奈川大学/海洋研究所/横浜みなとみらい地区
神奈川大学「海とみなと研究所」所長・経営学部教授◆関口博正

神奈川大学は、海(沿岸・沖合)とみなと(港湾・漁港等)に関する多面的な研究を進めるとともに、その産官学連携拠点を目指して、2022年2月にみなとみらいキャンパスに「海とみなと研究所」を創設した。
現在、所員数14名(学内教員12名、上席研究員2名)で、「海洋産業研究」、「海とみなとに関する歴史研究」、「港湾の機能に関する研究」、「港湾隣接地域のまちづくりに関する研究」を柱とした活動を目指している。

みなとみらいキャンパス開設による新たな「船出」

神奈川大学は、2021年4月に“みなとみらいキャンパス”を開設したが、本学の前身である横浜学院は1928 年に当地に設立されたので、その開学の地での新キャンパスの開設は「原点への回帰」であるとともに、新たな「船出」とも言える。その端的な例が、「海とみなと研究所」(Research Institute for Marine and Port Studies:RIMPS)の創設である。同研究所は、これまでの研究成果を発展させ、その知の蓄積と今後の研究・教育を社会還元すると同時に、海洋関連の産官学連携拠点の役割を担うべく、2022年2月1日に設立された※1

「海とみなと研究所」設立の経緯

本学では、数年前より海(沿岸・沖合)とみなと(港湾・漁港等)に関する多角的な研究を行う研究機関の設置を検討してきたが、2021年度夏以降、その準備活動を本格化させて2022年2月の創設に至った。また、本研究所の設立に先立って、本学は横浜市と二つの包括連携協定を先行的に締結してきた。地域活性化等のための「包括連携協定」(2020年3月)と、「臨海部における現代的・先端的課題の研究、横浜港の機能強化および人材の育成に向けた相互協力に関する協定」(2021年12月)がそれである。これらの協定の下で、本学と横浜市は、脱炭素社会の実現に向けた臨海部の環境改善や横浜港の機能強化等に関する協力関係を築くことを予定しており、本研究所はこれらの先行的協定の具体的な活動の担い手となることが期待されている。
さらに、2022年1月には、(一社)横浜港振興協会と包括連携協定を締結した。大学が港湾産業を担う企業の連合体と包括協定を結ぶのは、国内では他に例を見ないユニークな協定といって良いであろう。この協定は、大桟橋国際客船ターミナル等の港湾施設等を活用した観光振興、大学生の就職支援とキャリア形成の推進などを目的とするものである※2

「海とみなと研究所」の構成と研究活動の概要

本研究所は、発足時、所員数12名(学内教員10名、上席研究員2名)で、本学の既設の研究所が基本的に学部・研究科に直結しているのに対して、本研究所の構成は学内横断型であり、各学部から2022年8月現在では12名の教員が参画している。その研究領域は、産業政策、行政法、地方自治、環境法などの人文社会科学系のほか、海中音響、海洋生物、再生可能エネルギー、知能情報・システム工学、都市計画・まちづくり等の理工学系など多岐にわたっている。そして、今後、本研究所では、「海洋産業研究」、「海とみなとに関する歴史研究」、「港湾の機能に関する研究」、「港湾隣接地域のまちづくりに関する研究」を柱とした取り組みを目指している。また、学外から、研究所の運営について助言し各種活動にも参画する上席研究員2名を招聘した。來生新(放送大学前学長、横浜国立大学元副学長、日本沿岸域学会前会長)と中原裕幸(神戸大学客員教授、日本海洋政策学会理事、(一社)海洋産業研究・振興協会顧問)の両氏である。
2022年8月現在、本研究所の所員が学外の機関と連携して研究を進めているプロジェクトが既にあるので、その代表例を紹介する。
①水中ソーラー発電システムの研究
水中ソーラー発電の研究は、ソーラー・パネルを海面直下に設置することにより、パネル温度が下がり、発電効率が上昇するというメリットに着目したものである。研究所発足以前から着手されていた本研究を、横浜市との連携協定の下で横浜市港湾局や民間企業との連携をいっそう深め、海域での実証研究に進めていく予定である。
②「みなとの歴史ガイド」(横浜市)の認知度および運用改善調査
これは、(一財)みなと総合研究財団の「令和4年度未来のみなとづくり助成」公募に応募して採択された調査プロジェクトである。横浜市港湾局は2021年9月にスマートフォン向け「みなとの歴史ガイド」システムの運用を開始したが、運用され始めたばかりで、同システムの認知度や利用者評価等についての追跡調査は未着手となっていた。そこで、このプロジェクトでは、本研究所が横浜市港湾局と連携しながら、みなとみらい地区でのアンケート調査等を行い、同システムの改善点等を検討することを目的としている。これにより、横浜市の港湾を中心とする観光や歴史学習の改善に貢献する成果が期待される。

「海とみなと研究所(RIMPS)」のコンセプトイメージ 水中ソーラー発電の実験装置(出典:由井明紀・工学部教授研究室)

今後の展望

筆者は、2022年3月に東京湾再生官民連携フォーラム主催の講演会「CSR-NPO未来交流会2022」で「海とみなと研究所の設立・東京湾への取り組みと社会連携」と題する講演を行い、本研究所の取り組み方針や、本学が10年間継続している横浜港でのシーカヤックを用いた体験型研修による単位認定制度の教育活動の紹介を行った。また、本年度後期には、2名の上席研究員による「横浜の海、日本の海―海洋の世界史の視点から」と題する一般向け連続公開講座も実施予定である。
今後はカーボンニュートラル等の時代の要請に応える研究を充実させ、読者の皆さま方ともさまざまなかたちで相互連携を図ることができれば幸いである。(了)

  1. ※1https://www.kanagawa-u.ac.jp/att/23043_00.pdf
  2. ※2https://www.kanagawa-u.ac.jp/pressrelease/details_22957.html このプレスリリースで本研究所の創設を予告発表しておいたところである。
  3. 海とみなと研究所 https://www.kanagawa-u.ac.jp/research/institute/rimps/overview/

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