Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第492号(2021.02.05発行)

お台場海浜公園における水生生物の棲みかづくり

[KEYWORDS]覆砂/生物相の回復/水質改善
東京都港湾局港湾整備部環境対策担当課長◆樋口友行

都立お台場海浜公園は水辺に親しむことができる都内有数の観光スポットである。
東京都港湾局は、公園内において生物相の創出と水質改善を目的とした覆砂を行った。
覆砂後の砂は安定した砂層を形成していることが確認されるとともに、覆砂直後から砂層にスピオ類(ゴカイの仲間)などの水生生物の生息が確認されている。

お台場海浜公園における水質改善

東京都港湾局では、魅力的な水辺空間を創出するため、さまざまな取り組みを行っています。例えば、東京港の親水空間の創出および自然環境の保全・再生を目的に、水質浄化機能として重要な役割を果たす海浜などの整備を行っています。お台場海浜公園は、1975(昭和50)年12月の開園以来、ウインドサーフィンや水遊びができるほか、港を行き交う船やレインボーブリッジ越しに見える対岸の街並みなどの景観が楽しめる公園として多くの方々にご利用頂いています。そして、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の競技会場のひとつにもなっています。公園の水質は公園の魅力を高めるために大変重要な要素です。今回、覆砂により水生生物の生息場所を創出することで、一層の水質改善を目指すこととしました。

都立お台場海浜公園

東京港の水質状況

海域の水質汚濁を防止するために、東京都では、下水道高度処理化等を進めるとともに工場などの事業場に対する規制や指導を行っています。例えば、工場等の排水中の汚濁物質の濃度を、水質汚濁防止法で定める排水基準、および法より厳しい環境確保条例で定める排水基準に適合させる濃度規制を行っています。また、閉鎖性水域である東京都内湾の水質改善のため、水質汚濁防止法に基づき排水量が50m3/日以上の東京都内湾の流域に立地する工場等に対して、事業場ごとにCOD(化学的酸素要求量)、窒素およびリンの許容排出量を定め、これらの物質の排出量を削減させる総量規制を行っています。このような対策と海浜などの整備によって東京港の水質は改善傾向にあり、港内には多くの魚やエビ・カニなどが生息しているのが確認されています。お台場海浜公園は、「海域の生活環境保全に関わる環境基準」において「内湾C類型」に指定されています。基準の項目はCODや水素イオン濃度、溶存酸素であり、CODについてみると、お台場では夏季に基準値の上限である8mg/Lを超える年も見られます。

水生生物の棲みかづくり

水質の改善効果が期待できる方法として、砂地の生態系を活用することが挙げられます。水生生物のうち、アサリをはじめとする二枚貝など、ろ過摂食性生物は海水の透明度を改善すると言われています。透明度が上がることで日光が水底面まで届き、藻類が繁殖して光合成が行われ貧酸素状態の改善が期待されます。
このように、海底をきれいな良質な砂で覆う覆砂工事は、底質環境が改善されてアサリなど水生生物の生息数が増加して水質が向上した事例が全国で報告されています。今回、お台場海浜公園では、覆砂によって水生生物の回復を図り、一層の水質改善を目指すこととしました。覆砂の形状は水中の地形などを踏まえて検討を進めるとともに、専門家からもアドバイスを頂いて決定しました。この水域の水深は、深いところで4mあります。水域全面には生物相の改善が期待できる20cm程度の覆砂を行いました。(②青の範囲)東側及び南側は海浜に連続するよう、平均水深が3.0mとなるような浅瀬を造成しました。(①赤の範囲)さらには生物が住みやすくなるよう、高さ50cm程度の砂のマウンドを10カ所程度設置しました。

■お台場海浜公園の覆砂範囲と覆砂厚さ

覆砂工事の実施

お台場海浜公園から南方約170kmの海上に、ひょうたん型の島があります。この島は約1,900人余りの方々(2020年8月現在)が住む東京都神津島村です。村には2つの港があります。ひとつが地元漁船の拠点漁港である三浦漁港で、島の中央にそびえる天上山のふもとにあります。漁港の水深を維持するため、東京都港湾局では必要に応じて維持しゅんせつ工事を行っています。しゅんせつした砂は、白くさらさらとしています。これまでもお台場海浜公園の養浜の材料として活用してきました。今回の覆砂工事では、この維持しゅんせつ工事と施工時期が一致したため、しゅんせつした砂を覆砂材として利用しました。神津島より大型の作業船で東京港まで運ばれた砂は、港内のふ頭で小さな台船に積み替えられ、お台場まで搬入されました。海底への投入はバックホウ台船で行い、施工管理はGPSを用いて水域を10mメッシュに区切り、メッシュごとに必要な量の砂を投入しました。覆砂の面積は約75,700m2(東京ドーム約1.6個分の広さ)、覆砂量は約22,200m3(10tダンプトラックで約4,000台)となっています。工事の工期は2019(令和元)年12月20日から2020(令和2)年7月8日までです。覆砂作業は6月上旬に完了し、その後、工事の出来高を検証するため覆砂の状態などをダイバーが水中に潜って確認しています。
お台場海浜公園の水底は軟弱な泥の状態でしたが、砂を投入した後、約80日経過した箇所において潜水調査をしたところ、良好な状態で砂層を形成していました。その際、覆砂の表面を注意深く観察すると、砂質を好むアミメオニスピオなどが生息していました。一般的に底泥には有機物が含まれています。この有機物が分解される過程で、水中の溶存酸素が消費されます。これまで夏場のお台場では、水底付近に貧酸素状態が発生することが確認されています。しかし今回、覆砂後に行った8月の調査では、泥質を好むスベスベハネエラスピオなどが生存していることが分かりました。このことは砂質に改善された底質が若干泥化しているものの、底泥中の有機物が消費する酸素量が抑えられ、局所的に貧酸素が解消される方向に変化していることの現れと認識しています。

三浦漁港(東京都神津島村) 覆砂後の水底面に見られたスピオ類の生息孔

今後の期待

覆砂後に生息が確認されたスピオ類は、環境の変化によって速やかに加入・増殖する日和見種であり、生態系の変化を先導する種とされています。今回覆砂により水底の環境が変化した直後からスピオ類が生息していたことは、覆砂によって水生生物の棲みかが創出され始めているのではないか、と考えています。生物相の回復や安定化には長い時間が必要です。生態系創出の効果がたとえ軽微であっても継続的によい状態が続くことにより、広域的な水質に影響を与えることも考えられます。このため、今後も長期にわたってデータの変化を注視していく予定としています。
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が一年延期となり、トライアスロンなどの競技は2021年7月下旬から公園内で開催予定です。この覆砂によって生物相が回復し選手や観客、競技に関係する方々にとって、よりよい競技環境となることを願っています。(了)

  1. 油圧ショベル型掘削機が備え付けられた台船

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