Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第492号(2021.02.05発行)

大西洋クロマグロに関する世界初のMSC認証取得

[KEYWORDS]持続可能な漁業/タイセイヨウクロマグロ/水産物認証制度
(株)臼福本店代表取締役社長◆臼井壯太朗

遠洋マグロ漁業に特化し事業を展開している(株)臼福本店は、持続可能な漁業の実現が日本の遠洋漁業の生き残る道と考え、国際的な水産物認証制度である海洋管理協議会(MSC)認証を取得した。
IUU(違法、無規制、無報告)由来の水産物を市場から排除し、持続可能な漁業に取り組む漁業者を育成することが、日本の水産業を世界で競争力ある産業に再生させるのには必要であると考える。

MSC認証取得を目指した動機と実体験

MSC認証取得のプラカードと著者

(株)臼福本店は宮城県気仙沼市に本店を置く水産会社です。1882(明治15)年に魚問屋として創業し、3代目から漁業に参入、近海・遠洋漁業を始めました。4代目は遠洋マグロ漁業に事業を絞り、2012年に私が5代目を継いでからも遠洋漁業に特化し事業を展開しています。現在は7隻の漁船を保有し、気仙沼、インドネシア、南アフリカ、スペイン・カナリア諸島で操業する漁業会社であり、世界の海を舞台に海の恵みを国内外の消費者に届けております。また東日本大震災を経験し、改めて食の大切さを実感し、震災後には社会貢献活動として「気仙沼の魚を学校給食に普及させる会」を立ち上げ、地場の魚を学校給食へ普及させる活動を行っております。
一方、日本の漁業を取り巻く環境は、原油高騰、魚価低迷、後継者不足などに加え、国際規制による漁獲枠の導入などにより、年々厳しくなっています。日本では水産庁検査官が水揚げに立ち会うなど監視が行き届いています。しかし、漁獲情報がないアジア諸国のマグロが廉価に日本国内に輸入され、日本船が獲ったマグロよりも安い価格でマグロが流通しています。国際ルールを守り、水産資源を維持していくことは、現在の消費者だけでなく、未来の消費者が魚食を楽しめ、食料源として活用できるようにするためにも必要です。持続可能な漁業の実現が日本の遠洋漁業の生き残る道、そして持続可能な漁業を世界で実現していく道と考え、国際的な水産物認証制度である海洋管理協議会(MSC)認証申請を準備し、2018年8月に本審査が開始されました。
臼福本店が漁獲するタイセイヨウクロマグロは、世界の漁獲枠の0.2%程度です。タイセイヨウクロマグロのMSC認証は、臼福本店が世界初、次いでフランスの定置網漁業者が取得した2つしか付与されていません。タイセイヨウクロマグロは野生動植物の取引を規制するワシントン条約の2010年締約国会議でモナコ政府がその取引を禁止する提案を行い、賛成20、反対68、棄権30で否決された経緯があります。一方、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)では漁獲枠と各国配分を行い、その徹底を進めたことで2000年代後半以降、漁業資源が回復し漁獲枠も段階的に引き上げられてきています。MSC申請に関しては、私たちは資源回復を科学的に明示するICCATの方針に従い、MSC認証取得を根気強く目指しました。2018 年8月に開始された申請審査は仲裁手続まで至りました。手続開始から2年後の2020年7月30日に、最終的に異議申し立てを却下し、臼福本店の申請を支持する仲裁判定が出されました。その後、申請書類の修正を行い、8月10日に世界初のタイセイヨウクロマグロに関するMSCが付与されることが発表されました。
持続可能な漁業の実現にMSCは有効な手段の一つです。持続可能な漁業により漁獲されたマグロをシロとして、IUU(違法、無規制、無報告)漁業由来のマグロをクロ、疑わしい出所のマグロをグレーとして明確に区別し、シロ以外のクロやグレーのマグロを市場から排除し、そうした魚を業者は取引きしない、消費者は買わないというマーケット(商慣行)を築いていかなければなりません。自社がMSCを取得することで、私自身が資源管理の重要性を一層説得力をもって主張できるようになりました。IUU由来の水産物を市場から排除し、持続可能な漁業者を育成することが、日本の水産業を世界で競争力ある産業に再生させるのには必要なのです。

認証取得の意味と今後の展望

MSC認証取得は、私どもの力だけでは実現することは到底できず、多くの方々のご支援を頂きました。日本漁業認証サポート代表の鈴木允さんには、長きにわたって激励、協力して頂き、根気強く認証取得の書類作成や仲裁手続の対応を行って頂きました。アメリカ・ワシントン大学の研究者は、タイセイヨウクロマグロの資源が1970年代の水準にまで回復し、漁獲高全体から見れば零細とも言える臼福本店のMSC認証申請が持続可能な資源管理に資する先進的なものであるとして賛意を示し、ホームページに公表してくれたことは大きな励みになりました。水産庁をはじめとする関係者や多くの仲間からのご支援ご協力が後押しとなり、この度の認証取得に繋がりました。MSCを取得したことで多くのメディアにも取り上げて頂き、宣伝効果にはなっています。しかし、この取得には約3千万円の費用がかかっており、大きな出費となりました。その一方で、共感してくれる国内外の消費者の方々や気鋭のホテルやレストラン関係者などとの新たな出会いが生まれているものの、国内の大手量販店にはまだ目を向けてもらえていない状況で、MSCを取得してプレミアムがついて高く取引きしている段階には至っていません。
現在は、日本の水産物認証制度である水産エコラベル(MEL)認証の取得を目指しています。MELはMSCと同等に国際的に認知されているとは言えませんが、こうした制度にも参加することで、水産物認証を含めた持続可能な漁業の実現に向けた取り組みの後押しになればと考えております。まぐろ法(まぐろ資源の保存及び管理の強化に関する特別措置法)に基づく輸入情報収集や資源管理法に基づく漁獲枠(TAC)は既に実施されています。2020年12月には改正漁業法が施行され、同月に水産流通適正化法が制定されました。持続可能な漁業の実現には、漁業者や行政だけではなく、消費者や流通関係者の理解が必要です。こうした法制度の改革が持続可能な漁業の実現と日本の水産業の再生に繋がることを期待しています。
臼福本店は、日本のマグロ漁業を次世代へ繋げること、そして、もう一度、日本の漁業を成長産業へと生まれ変わらせることを目的に、これからも様々な活動に取り組んでいきたいと考えております。(了)

タイセイヨウクロマグロと著者 MSC認証が付され販売されるタイセイヨウクロマグロ
  1. MSC認証=持続可能で適切に管理され、環境に配慮した天然水産物の漁業を認証する国際的な制度。
    大元鈴子著、「生産者の視点からの「国際資源管理認証」」Ocean Newsletter第406号(2017.07.05)を参照ください。

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