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Ocean Newsletter
第406号(2017.07.05発行)
生産者の視点からの「国際資源管理認証」
[KEYWORDS]MSC認証/ASC認証/ユニバーサルな価値宮崎大学産学・地域連携センター講師◆大元鈴子
国際資源管理認証は、国際的に取引される資源の持続可能性という「ユニバーサルな価値」を流通させることを目的としている。
そもそも認証制度とエコラベルは、資源を消費する側、すなわち消費者と企業の持続可能な選択を助けるツールとして設計されている。
資源管理のための認証制度というコンセプトが世に出て20数年たつが、本稿では、生産者の視点からみた国際資源管理認証の積極的な活用方法について紹介する。
国際資源管理認証の役割
エコラベル付きの製品を目にする機会が増えてきた。それは、「持続可能な森林からの木材」を使ったノートやコピー用紙だったり、コンビニでも買える「生物多様性に配慮したコーヒー」だったりする。また一部スーパーの鮮魚売り場でも、「持続可能な漁業でとられた」証明が国内外からの水産物に表示されている。なぜこれほどまでに認証とエコラベルという仕組みが普及したのだろうか。
その理由のひとつに生産現場と消費地の距離が遠く離れ、生産者と消費者の関係性もまた大きく乖離していることが挙げられる。資源の利用にかかる環境的・社会的課題は、複雑な流通経路の中で曖昧になる。消費者は、自分が消費する資源がどのような問題を引き起こす原因になっているかの糸口さえつかめなくなっている。国際資源管理認証(以下、国際認証)とエコラベルは、結果が原因になかなか結び付かない環境問題を、資源利用者である企業や消費者に説明する役割を担う。
国際認証は、世界中を移動する資源の生産過程における環境負荷を低減させるために、持続可能性という「ユニバーサルな価値」を付与する。つまり、国際市場において、環境配慮という「新たな価値基準」を流通させるのが目的である。このような国際認証は、水産の世界でも広く使われるようになり、天然漁獲漁業に対してはMSC認証(1997年設立)※1があり、水産養殖に対しては、ASC認証(2010年設立)※2がある。
生産者の視点からみた国際資源管理認証の活用
国際認証は、市場原理を利用することにより、資源管理を行うことを目指す。つまり、消費者が環境配慮という製品価値を認め、需要と供給が増えることで、環境配慮を行う生産活動が優位性を得る、という仕組みを基本としている。ここで考えたいのが、認証制度が消費(者)と生産(者)のどちらの方向を向いているかだ。
エコラベルは、消費者が認証製品を区別して選択できるように表示されるものである。そして、企業は、消費者に選択してもらえるエコラベル商品の開発や、持続可能なビジネスモデルの構築(原料の持続的確保)、またCSR(企業の社会的責任)の実施のためのツールとして活用する。1993年に国際認証のパイオニアとしてFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)が設立された当時、消費者が資源管理に参加でき、企業活動に環境配慮を組み込む仕組みは、まったく新しいコンセプトであった。つまり認証制度は、設計上、消費(者)の方を向いているといえるだろう。
その一方で、実際に認証を取得するのは、資源をわれわれが利用できる形に確保したり、集約的に育てたりする生産者である。認証取得のメリットとして価格の向上が挙げられるが、生産者は、より高い市場価格のみを目指して認証を取得するのだろうか。国際認証が誕生してから20年あまり、生産者による積極的な制度の使いこなしが各所で見られるようになってきた。
気仙沼のサメ漁業
環境や社会に配慮した倫理的な消費動向が、直接的に生産者にも影響を与えるようになってきた。世界中で、フカヒレの提供を中止するレストランや、サメ漁業そのものを禁止する法律や自主規制が相次いでいる。これは、主にフィニングと呼ばれる、付加価値の高いサメのヒレだけを切り取り、魚体を海中に投棄する行為が明るみに出て、動物愛護団体や環境保全団体による数々のキャンペーンが行われたことによる※3。サメの国際流通は大変に複雑で、フカヒレがフィニングでとられたものか、そうでないかを判断することが困難なためである。
やっていないことの証明は、やっている証明より難しい。気仙沼のサメ漁業では、この課題をMSC認証の取得で解決することを模索している最中だ※4。国際認証の共通の特徴の一つとして、認証を受けた資源のトレーサビリティの担保がある。これを使えば、フィニングによるフカヒレでないことが、消費の現場まで引き継がれる。気仙沼のサメ漁業が仮にMSC認証の取得に至った場合、それは、持続可能なフカヒレという世界市場の開拓となる。しかしながら、サメは国際的な枠組みでの資源管理がされており、MSC認証の取得は、相当に挑戦的である。
南三陸のカキ
宮城県北東部の沿岸に位置する南三陸町は、ちょうど志津川湾の縁にあたる場所だ。湾内でおこなわれているカキ養殖(戸倉地区)は、2016年3月に、持続可能な養殖の国際的な証であるASC認証を国内で初めて取得した。2011年の津波からちょうど5年の出来事だ。震災前までのカキ養殖は、その密度が高く、成長も遅かったという。震災後、カキ漁師たちは、幾度にも及ぶ話し合いの末に、カキ筏を震災前の1/3にすることを決定した。この決定は、認証を取得するためではなく、筏と筏の間の距離を適正にし、海の広さを組合員で割った結果である。
筏の数を1/3にした結果、思わぬ効果があった。カキ養殖期間が、3年から1年に縮まったのだ。労働時間の短縮にもなっている。南三陸におけるASC認証の活用は、適正な養殖密度の指針として、明確な基準を備える国際認証を取得することで、生産者全員にフェアな資源利用配分を行い、地域産業の長期的な持続可能性につなげる意図を見出すことができる。
国際資源管理認証の生産者による使いこなし
2つの事例からは、国際認証が、企業や消費者からの目線からだけでなく、また、取引価格の向上や製品の差別化という目的だけではなく、生産者による地域~国際レベルの課題の解決にも積極的に活用されつつあることがわかる。
国際認証には、さまざまな批判も多くある。そのなかには、現在の大量生産・消費を促す資本主義に基づく国際市場を変えるために、既存の市場原理を利用していることの矛盾を突くものもある。しかしこの議論は、より持続可能な資源の流通へのシフトの過程、つまり価値の転換を橋渡しするための一つのツールが認証制度であることを示しているようにも読める。
また、国際認証の導入やその検討は、様々な業種や立場の人々のつながりを生むことが分かっている。つまり、多様なステークホルダーを繋ぐ「プラットフォーム」の役割を担う※5。国際認証は、企業や消費者にとって、直接生産現場に赴かなくても、環境配慮を確認できるツールとして設計されている一方で、それをきっかけとした直接的な関係にも発展していることも、注目すべき点といえる。(了)
- ※1石井幸造著「持続可能な漁業の普及に向けて」本誌381号(2016.6.20)および「日本でも広がり始めた海のエコラベル」本誌203号(2009.1.20)参照
- ※2ASC: Aquaculture Stewardship Council水産養殖管理協議会 http://www.asc-aqua.org/?lng=7
- ※3鈴木隆史著「国際的なサメ保護運動の行方」本誌第308号(2013.6.5)参照
- ※4石村学志著「「持続的」サメ漁業認証にむけた気仙沼近海延縄漁業」本誌333号(2014.6.20)参照
- ※5大元鈴子・佐藤 哲・内藤大輔「国際資源管理認証−価値を付与する仕組み−」、大元鈴子・佐藤 哲・内藤大輔編『国際資源管理認証−エコラベルがつなぐグローバルとローカル−』東京大学出版会,2016
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