Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第492号(2021.02.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦マグロの初セリは、毎年、正月の話題になっている。今年は、青森県大間産の208㎏のクロマグロに2,084万円の最高値が付けられた。昨年の1億9,320万円に比べてたいへん安価になったのは、コロナ禍の自粛によるという。水産業に及ぼすコロナ禍の影響は、漁獲量、流通量、消費量および輸出入量とすべてにわたる。その中でIUU(違法、無規制、無報告)漁業で獲られた水産物を避け、水揚げから食卓までの経路が明らかなものを消費者が選択することは、持続可能な水産業に向けてますます大切である。
♦海のエコラベルと呼ばれ、持続可能な水産物に与えられる海洋管理協議会(MSC)認証を、2020年8月10日に世界で初めてタイセイヨウクロマグロで(株)臼福本店が取得した。その代表取締役社長の臼井壯太朗氏より、国際認証取得の意味と日本のマグロ漁業および持続可能な漁業への熱い思いをご寄稿いただいた。折しも2020年12月には改正漁業法が施行され、水産流通適正化法が制定された。持続可能な漁業に向かう水産改革が始まる中で、気仙沼から世界を見る臼井氏の行動力に頭が下がる思いである。
♦都立お台場海浜公園は、水辺を散歩したりウインドサーフィンをしたりなど、海と親しめる都心の海辺である。また、2020年東京オリンピック・パラリンピックのトライアスロンなどの会場でもある。しかし、夏には有機物による汚濁が発生していたため、2020年6月上旬に至る半年間で、東京ドーム約1.6個分の海砂を神津島から運び、海底を覆砂して底質を改善した。それにより生成した底生生態系が、水質を改善しつつある。東京都港湾局の樋口友行課長より覆砂工事の詳細と早くも現れた改善の兆しを教えていただいた。なお、生物相の回復や安定化には長い時間が必要であり、海の変化を注視していくという。是非ご一読ください。
♦COVID-19のパンデミックが続き、多くの船舶では、停船による船員交代ができない事態が生じている。沖縄国際大学総合文化学部の市川智生准教授より、明治時代のコレラのパンデミックと検疫法についてご寄稿いただいた。1877年秋、西南戦争後の政府軍将兵の引き揚げ船に端を発して長崎から全国にコレラが流行し、検疫法が作成された。ところが、1878年、ドイツ船が検疫の停泊中に強硬に入港したため、新たな検疫法が制定されたが、政策は厳格な防疫か、経済流通の優先かという選択で揺れ動いていた。明治初期のグローバル化の進行と検疫制度をめぐる試行錯誤が、今の時代にも見て取れる。(窪川かおる)

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