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オーシャンニューズレター

第94号(2004.07.05発行)

第94号(2004.07.05 発行)

清く豊かな川・森・海 -桂川・相模川流域協議会の取り組み-

桂川・相模川流域協議会◆桑垣美和子

山梨県から神奈川県の中央を流れ相模湾に注ぐ桂川・相模川は、隣接する都市の産業発展を支えてきたわけだが、現在は環境保全上解決が必要な課題が山積している。桂川・相模川流域協議会は、持続可能な発展を基調とした環境保全型社会を築くべく、清く豊かな桂川・相模川の多くの恵みを次世代に引き継ぐため「アジェンダ21桂川・相模川」を推進している。

桂川・相模川は全長約113km、富士北麓にある山中湖を水源に山梨県から神奈川県の中央を流れ相模湾に注ぎます。神奈川県民の約60%の水道水を賄い、発電用、農工業用として隣接した横浜市、川崎市など大都市の経済活動を支えてきました。

産業の発展とともに流域の人口が増加し、人々の生活様式が変化していく1970年代頃から相模湖などのダムは富栄養化してアオコによる浄水処理障害が発生、流域面積の約66%の森林は慢性的な手入れ不足になり土砂の流入による堆砂問題の他、環境保全上解決が必要な課題は数多くあります。

アジェンダ21桂川・相模川

桂川・相模川流域協議会は環境省の助成を受け1995年から3年間行われた山梨県・神奈川県による桂川・相模川流域環境保全行動推進事業をきっかけに、市民、事業者、流域の行政、河川管理者などが会員となり1998年に発足しました。現在は市民(193名)・市民団体(17団体)、事業者(32団体)・事業者団体(4団体)、行政(26)両県、流域自治体、国土交通省京浜河川事務所という構成になっています。清く豊かな桂川・相模川の多くの恵みを次世代に引き継ぐため「アジェンダ21桂川・相模川」を推進し持続可能な発展を基調とした環境保全型社会を築くことを目的としています。二つの県をエリアとする流域のローカルアジェンダは全国的な先進事例として環境白書(1999年版)に紹介されました。

アジェンダ21とは、持続可能な発展を実現するために21世紀に優先的に取り組むべき課題で1992年の地球サミット(UNCED:国連環境開発会議)で採択されました。目的を達成するには地域行政の参加と協力が不可欠であり、策定当初から市民、事業者、行政の三者の参画が重要とされています。

こうした世界的な流れを受けて策定された「アジェンダ21桂川・相模川」は当初、基本的な方向性を示すにとどまりました。策定作業はその後、専門部会に引き継がれ市民の素案をもとに協議した結果、相互理解が進み対話と合意のルール、協働と連携の下地がつくられました。1999年には基本理念を完成、2001年に行動指針・行動計画の8割を合意しました。

基本理念では、「これまで、清く豊かな流れによって森と海を結び、空と地表と地下をつなぎ、多様な生物と人間を共存させ、地域の風土と文化、経済の中心を担ってきた桂川・相模川を、その恵みを受けている全ての生物の共有財産として、次世代に引き継いでいく」としています。行動指針・行動計画は多岐にわたり、「森づくり」「生物の共生」「水質・水量の保全」「廃棄物」「開発や公共事業」「参加と連携」の6章、173項目からなっています。

翌年には、行動指針・行動計画に対応するこれまでの市民・市民団体の活動や両県、市町村、会員事業者の事業を調査し一覧にまとめる作業を行い、自然にやさしい森林土木工法の推進、多様な河川環境の再生と保全など、各自治体が流域アジェンダと実施事業を関連づけていることが確認されました。寒川堰下流の現状実態調査、横断工作物の実態調査、コンクリート護岸の見直しなど、ハードルが高くいまだに着手できない行動計画は、学習会を開催し実行の方向を探っています。

流域環境保全の試み

清く豊かな川を守るために、住民参加による清掃活動が行われている。

協議会の取り組みは会議と事業の二つに大別されます。対話を通して合意を図る会議が重要な役割を果たす一方で、広域に環境保全や改善を進めるには、水の利用者である流域圏の人々を含めて流域住民としての認識を高める必要があります。そこで、流域シンポジウムや交流事業を開催し、会員外に参加を呼びかけ流域の環境や貴重な自然・文化を学び、自然とふれあう体験の場を提供しています。クリーンキャンペーン事業は、流域で行われる清掃活動の情報をまとめ、県民に参加を呼びかけています。

平成11年から3年間、専門研究機関、漁協の協力を得て市民参加型の環境調査としてコイを指標とする環境ホルモン調査、平成14年から15年にはホタルの生息調査、本年度は移入生物のタイワンシジミが増えていることからシジミの調査を行います。地元ボランティアや専門家の方々に案内いただくツアー&ウォッチング、流域のとっておきの場所を募集する「流域の魅力再発見事業」、「洗剤対策事業」、他団体と連携する「森づくり事業」。日本大学と共同で進める流域のデータベース事業など盛りだくさんです。協議会の活動は会報誌「あじぇんだ113」※1を年2回発行し、市町村の行政窓口等で無料配布して広報しており、ホームページ(http://www.katura-sagami.gr.jp/)から直接情報を得ることができます。

流域には約130万人が生活しており、両県の気候風土が異なるように環境に関する課題や問題意識も多様です。そこで桂川東部地域協議会、相模川湘南地域協議会が地域の実情にあわせた取り組みを行っています。近々、横浜市を中心に3つめの地域協議会を設立する予定です。

流域協議会の取り組みを紹介する機会が増え、市民、事業者、行政の三者が連携する重要性が浸透し波及効果が現れています。山梨県の県有林では昨年SFCの森林認証※2を取得しました。神奈川県は以前から水源の森林づくりを進めてきましたが、県民の意見を採り入れ水源環境税(仮称)を市民参加型税制としてまとめました※3。昨年には、「新かながわアジェンダ21」が改定され、新アジェンダが推進されています。

汚染のボーダーは環境と経済

2002年のヨハネスブルクサミット(WSSD:持続的開発に関する世界サミット)、翌年日本で開催された世界水フォーラムなど、持続可能な発展、水循環、参加と共生などをキーワードに具体的な取り組みが話し合われました。流域には、森、川、海という多様な自然と都市、田園がありボーダーを超えて水循環、自然浄化を考える最適モデルとして、統合的な水管理の試みが可能です。

森は環境と経済の接点となると思われます。森が持つ水源涵養機能、大気浄化能力などの公益的機能は衰え続け、河を通じて森がもたらす多くの恵みにより豊かな生き物を育くむはずの海は、水質汚濁、大気汚染、ゴミの流れ込みなど陸の汚れを受け止め続け、赤潮、青潮が発生しています。

今後は、複雑な関連を持つ山、川、海の生態系と人間社会のあり方を結び、環境負荷を自然の許容限度内にとどめ、自然を保全再生することや農業や都市の経済活動を環境保全型に変更し、自然環境と共生する循環型社会、景観の美しい町を実現する必要があります。(了)

※1 あじぇんだ113=相模川本線の総延長が113km、支流が113本あるといわれているため、流域の広がりをイメージしてつけられた名称。

※2 SFCの森林認証=SFC(国際認証機関 森林管理協議会)公有林では初めて取得し、面積は14万2,000ha。

※3 神奈川県地方税制研究会生活環境税制専門部会が中間報告をとりまとめた。県議会では未採択。現在中間とりまとめについて、県民集会を県内22カ所で実施して「水源環境保全と税制措置を考える県民集会実施結果」がまとめられた。導入時期、徴収方法などはまだ決定していない。

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