Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第609号(2026.09.20発行)

事務局だより

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所島嶼国・地域部部長◆塩澤英之

◆海面上昇は、小島嶼国にとって国家存続を脅かす危機であると同時に、EEZの縮小による主要歳入の減少や地域安全保障への影響も懸念される。太平洋島嶼国は1989年以降この問題を太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議で継続的に議論し、2021年には『気候変動に関連する海面上昇に直面した海域の保全に関する宣言』を発出、国連に寄託した基線・限界線を更新する義務はないとの立場を示した。一方、パラオ、バヌアツなど5カ国ではEEZが未確定であり海上境界画定交渉と国連への寄託が急がれている。大辻航暉日本大学法学部助教は「陸は海を支配する原則」に言及し、現時点では太平洋島嶼国の立場を支持する国は多いが、島の水没が現実となった場合にはEEZの維持が必ずしも認められない可能性を指摘した。本稿は、こうした地域動向とその法的課題を理解する上で大きな示唆を与えている。◆地域政策機関PIFは加盟国の主権や外交権を超越する存在ではないが、地域課題に関する国際会議や開発パートナーとの交渉において、島嶼国が結束し、その声を効果的に反映させるための枠組みとして機能している。1989年には日米英仏加との域外国対話が開始され、1996年に太平洋諸島センター(PIC)が設立された。PICは豪州、NZ、中国などに設置されたPIF貿易投資事務所と同様、貿易・投資・観光促進への貢献が期待されている。斎藤龍三所長が明らかにしているとおり、近年は本来の役割への回帰が進んでいる。今後は投資保護協定の実現支援など、日本と太平洋島嶼国の経済関係深化に一層貢献することが期待される。◆考古学によって描かれてきた古代人の移住史は、近年のヒトゲノム解析の進展により、従来考えられていた以上に複雑でダイナミックなものとして理解されつつある。小金渕佳江東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻助教の研究は、琉球列島の人々の歴史に新たな視点を提示している。従来知られていた旧石器時代人との非連続性や、約1万5千年前から1万年前にかけての空白期間、グスク時代の到来といった特徴に加え、台湾と与那国島の人々の間に遺伝的つながりがないことや、沖縄諸島・宮古島諸島・八重山諸島で異なる移住の流れが存在した可能性が示唆されている。今後は伝承、信仰、民俗学、言語学、地理学、地球科学、海洋学、さらには九州を含む災害の痕跡など多分野の知見を融合し、「海に囲まれた島々を生きる人々の歴史」のさらなる解明が期待される。(島嶼国・地域部部長塩澤英之)

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