Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第609号(2026.09.20発行)

太平洋諸島センターの30年
~島嶼国における日本企業の取り組み支援の歩み~

KEYWORDS プライベート・セクター/持続可能性/触媒的機能
太平洋諸島センター(PIC)所長◆斎藤龍三

太平洋諸島センターは、設立以来、日本・太平洋島嶼国のプライベート・セクター関係者との連携を強化しているが、日本企業の革新的な事業展開をより進めていくべく「触媒的機能」を高めることが、そのミッションである島嶼国の持続可能な経済発展への貢献に資する道と捉えている。
プライベート・セクター(民間部門)基軸への歩み
太平洋諸島センター(Pacific Islands Centre:PIC)は、2026年10月1日に設立30周年を迎えようとしている。この国際機関がよって立つ設立協定書に沿うところのミッションは、日本と太平洋島嶼国(地域を含む、以下「島嶼国」)との貿易・投資・観光を促進し、島嶼国の持続可能な経済発展に貢献することにある。そして、その活動は、日本と島嶼国を取り巻くビジネス環境の変化に伴い、変遷を遂げている。
PICの発足当時は、外務省、日本貿易振興機構(JETRO)、(一社)太平洋協会関係者からなる体制であったが、2009年に所長を民間公募制に変更したのは、大きな転機であった。これは、当時の日本国内の行政改革のうねりの中で起こったことであったが、日本との貿易・投資の拡大を切望するPIC理事会の島嶼国側代表である太平洋諸島フォーラム事務局(Pacific Islands Forum Secretariat)にも、歓迎された。これにより、PICには日本の民間企業を島嶼国とのビジネスに取り込むという役割が、大きく期待されることとなった。
PIC設立の翌1997年に、第1回太平洋・島サミットが始まり、2015年5月に福島・いわき市で開催された第7回の首脳宣言では、日本側の支援策「島嶼国におけるビジネスマッチング促進(年に一度のミッション)」が打ち出され、その12月にはPICを含む第1回官民合同経済ミッションがフィジーを訪問した。
コロナ禍の時期を除いて継続しているこの事業は、2025年のバヌアツで7回目を迎えた。近年の特徴は、日本側は民間企業がコアメンバーとなる一方、島嶼国側の受入主体も、外務(貿易)省から外資の窓口である投資促進機関に移行し、プライベート・セクターを基軸とした日本と各島嶼国間のビジネスチャネルが、確実に定着してきていることである。PICは、この流れを推進していく中で、2024年パプアニューギニア(PNG)の投資促進庁であるInvestment Promotion Authority と協力覚書を提携し、2025年11月には東京にPNGビジネスミッションを招き、「PNG貿易&投資セミナー」を共催した。

■写真1 「PNG貿易&投資セミナー」集合写真(2025年11月)

島嶼国の持続可能な経済発展に資するベストプラクティス
経済ミッションが訪問した国々でPICが支援してきた日本企業のビジネス案件を下記3つほど、紹介しておきたい。
事例1──日本の大手重電メーカーが、JICA協力隊員としてバヌアツ離島でボランティア経験を積んだ社員の社内起業公募を基に、未電化である同島において再生可能エネルギー(太陽光)を活用した電気製品のシェアリングサービス事業を推進。自社開発のスマートフォン決済アプリを活用し、地域商店を拠点とした自立的な電力供給モデルを構築し、住民の生活改善(LEDランタン照明の提供)や地域産業の活性化(将来的な電気農機具や電動ミシン等の貸し出し)を図っている。2025年12月に、他日本企業2社と現地に合弁会社を設立。PICは、バヌアツ外国投資促進庁(Vanuatu Foreign Investment Promotion Agency)と共に、スタート時より約4年間にわたりサポートしてきた。
事例2──大阪を拠点に海外展開も行っているラーメン店が、日系人・日本人観光客の多いパラオで、現地従業員の雇用・食材の地産地消を組み入れて2024年3月に新規開業した。店舗で使用する電力を太陽光発電にシフトし、カーボンニュートラルな店舗経営を目指す。また、地元企業と共同でパラオと日本の架け橋として、両国名を冠した環境基金を設立、売り上げの5%を供出し、パラオの環境汚染対策や温室効果ガス削減等の環境保全に役立てようとしている。ちなみに、ミシュランガイド(レッド)は、環境保全や地産地消など持続可能な取り組みを行う店を評価する「グリーンスター」という制度を設けており、この事業はそのような評価基準にも沿う形である。PICは在日パラオ大使館と共に開業を支援した。
事例3──日本の大手機械・プラントメーカーは、マーシャル諸島の現地水道公社に、海外政府・開発銀行の資金を元手に、機器一式の輸送・設置が簡易なコンテナ型海水淡水化装置を2016年に納入し、電源として太陽光発電を組み合わせることによる電力コストの低減と環境対策に寄与した。豪州の子会社を通じた現地従業員研修やリモート操作による監視・制御により、プラントの安定的運転・メンテナンスを実現。PICは同社の島嶼国での活動を包括的にサポートしている。
以上3つの実例は、日本の民間企業の島嶼国における事業展開が、パラダイムチェンジともみなされる革新的なステージに入ったことを予感させる。島嶼国が喫緊の課題とする気候変動対策の視点からは、再生可能エネルギーの導入は分野を問わず浸透した。また国際競争力を高めるノウハウを、島嶼国のビジネス環境にマッチングすべく最適化した。さらに、雇用・人材育成・産業振興を通じてコミュニティに貢献した。そしてこれらを従来型のCSRにとどめない企業利益との両立を図るインパクト経営は、まさに島嶼国の持続可能な経済発展に資するベストプラクティスと言える。

■写真2 バヌアツ・マランパ州での村民向け事業説明会(2022年8月)

PICの「触媒的機能」への変革
PICと各島嶼国投資促進機関を軸としたプライベート・セクター間の直結したチャネルが定着しつつある中で、このような日本企業の島嶼国への革新的な取り組みを、日本と島嶼国間の質量相携えたビジネスの拡大にどのようにつなげていくのかが、これからの30年のスターティング・ポイントであろう。
PICは、過去30年間に、日本と島嶼国間の貿易・投資・観光の豊富な知見と経験を積み重ね、またあらゆるステークホルダーとの幅広いネットワークを築いてきた。一方、その実態は、媒体・媒介的な役割が多い。今後の30年を見据えた時に、これを「主体的な触媒機能」に変革していくこと(BX:デジタル技術などを活用しながら業務を変革し、新たな価値の創造を目指すもの)が、先述の課題に応えていく糸口と考える。過去30年間に培ってきたアセット(知見・経験・人脈)を礎として、今まさに進行している貿易・投資・観光のビジネスフローを把握し、キープレーヤーを押さえつつ、日本企業の取り組みと島嶼国の持続可能な経済発展を包摂する新たなビジネスチャンスを実践的に提供していくことが求められている。そのためには、PICが各ステークホルダーのレイヤーと築くネットワークの質量両面での充実とPICのビジネス提案能力と実行力の向上が必須となるだろう。われわれは、これに向けて一歩を踏み出していくが、現状の限られたリソースでは限界がある。
「新しい酒は新しい革袋に盛る」時期に差し掛かっていると、個人的には思う次第である。(了)

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