Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第605号(2026.05.20発行)
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ウニから始まるSDGs
~「積丹方式」によるウニ増殖とブルーカーボン創出~
KEYWORDS
藻場造成/ブルーカーボン/地方創生
北海道積丹町農林水産課水産業技術指導員◆水鳥純雄
北海道積丹町では、主要産業であるウニ漁業の安定生産・供給のために、藻場の造成を始めた。ウニ殻肥料を使った循環型システムは多様な効果を生み、造成藻場のブルーカーボン機能によるカーボンオフセットも実現した。本稿では、海の森づくりを核とした漁村のにぎわいを創出する「海業」による地方創生事業と、漁業・漁村の活性化ビジネスモデルの構築について紹介する。
積丹町のウニ事業
積丹町(しゃこたんちょう)は北海道西側の積丹半島先端に位置する漁業と観光の町です。日本一と呼ばれる味と品質の「積丹ウニ」の人気は高く、6月から8月のウニ漁期には、約70万人もの観光客が全国から訪れ、ウニを扱う飲食店には早朝から長蛇の列ができます。一方、漁場では、海藻(ホソメコンブ)を餌とするウニ(エゾバフンウニ、キタムラサキウニ)は「磯焼け」で藻場が減少し品質の高い個体が減り、生産量は減少傾向にあります。
積丹町では、これらに対応する活動を約半世紀前から始めていました。1970年代には各漁家加工場の衛生管理施設を改善し出荷形態を「塩ウニ」から「生ウニ」へ変えて、品質と商品価値を飛躍的に向上させる一大改革を行いました。さらに、1980年代には、漁業部会が北海道の研究機関と共に世界初のエゾバフンウニ天然採苗事業を実践しました。同時期に、町はより安定した種苗生産供給を行う「積丹町水産種苗生産センター」の建設・運営や、野草のオオイタドリを餌に使う陸上育成技術も開発し、近隣4漁協も含めた広域種苗放流事業(年間150万粒)を始めました。
その後、この事業を推し進めた先人の意思を受け継いだ次世代の漁業者たちが磯焼け対応のため、2009年度に活動組織を作り藻場造成に着手しました。成果が出ない中でも諦めることなく改良を重ね、①ウニ除去による海の畑づくり、②その畑に胞子を出す状態のコンブを設置する種まき、③発芽したコンブの生長を促す肥料の投入、を海の状況に合わせて行う方法にたどり着き、15年かけてホソメコンブの森を1.5haまで広げました。
磯焼けの原因は多数あり、それが複合的に作用して現象が持続・拡大しています。その地域の原因に合った対応方法を探し出すことが最も重要だと考えています。2020年、藻場による経済効果をウニの生産で検証するために、造成したホソメコンブの森と磯焼け場からウニを揚げ、生殖腺指数(生殖腺重量/全重量×100)を比較すると、数値は約1.5倍でした。また、身の色・味・大きさの違いによる販売価格では約2.5倍となりました(写真1)。造成した1.5haの藻場で換算するとウニむき身で約444kg、販売金額で約3,550万円の増加が得られることが実証できました。
積丹町では、これらに対応する活動を約半世紀前から始めていました。1970年代には各漁家加工場の衛生管理施設を改善し出荷形態を「塩ウニ」から「生ウニ」へ変えて、品質と商品価値を飛躍的に向上させる一大改革を行いました。さらに、1980年代には、漁業部会が北海道の研究機関と共に世界初のエゾバフンウニ天然採苗事業を実践しました。同時期に、町はより安定した種苗生産供給を行う「積丹町水産種苗生産センター」の建設・運営や、野草のオオイタドリを餌に使う陸上育成技術も開発し、近隣4漁協も含めた広域種苗放流事業(年間150万粒)を始めました。
その後、この事業を推し進めた先人の意思を受け継いだ次世代の漁業者たちが磯焼け対応のため、2009年度に活動組織を作り藻場造成に着手しました。成果が出ない中でも諦めることなく改良を重ね、①ウニ除去による海の畑づくり、②その畑に胞子を出す状態のコンブを設置する種まき、③発芽したコンブの生長を促す肥料の投入、を海の状況に合わせて行う方法にたどり着き、15年かけてホソメコンブの森を1.5haまで広げました。
磯焼けの原因は多数あり、それが複合的に作用して現象が持続・拡大しています。その地域の原因に合った対応方法を探し出すことが最も重要だと考えています。2020年、藻場による経済効果をウニの生産で検証するために、造成したホソメコンブの森と磯焼け場からウニを揚げ、生殖腺指数(生殖腺重量/全重量×100)を比較すると、数値は約1.5倍でした。また、身の色・味・大きさの違いによる販売価格では約2.5倍となりました(写真1)。造成した1.5haの藻場で換算するとウニむき身で約444kg、販売金額で約3,550万円の増加が得られることが実証できました。
■写真1 海底とウニの身:造成藻場(左列)と磯焼け漁場(右列)
藻場造成「積丹方式」
積丹町では、各漁家でむき身を出荷しますが、その際「ウニ殻」が排出されます。これまで一般廃棄物として処理しており、その量は年間約100トンと推定されました。積丹町はこのウニ殻の再利用を目指した「漁業系廃棄物資源利活用推進事業」を2016年から5年間実施しました。ウニ殻に含まれる窒素・リンの海藻への肥料効果を養殖コンブで検証すると、1回目で重量比3.7倍、2回目で1.3倍と肥料効果が実証できました。次に、一般廃棄物であるウニ殻を藻場造成に利用可能とするための加工再生方法として天然ゴムで固化した「ウニ殻肥料」(写真2)を考案し、東しゃこたん漁業協同組合の同意、積丹町からウニ殻肥料を有価物とする判断、北海道水産林務部との協議、小樽海上保安部への実施作業の説明・報告を行いました。効果試験を2019年度から3年間実施した結果、いずれの年もウニ殻肥料による藻場造成効果が確認できました。このウニ殻肥料の特徴は、①原料は生物由来の天然素材であるウニ殻とラテックスだけ、海中で生分解または波浪により破壊され環境への負荷がない、②作成に大型機材や多人数を必要とせず安価にできる、③海中への設置は小型船で運搬し人手で投入が可能、設置費用が安価で簡単であり、海での施肥事業を経済的かつ広域で実施できる革新的な省力化技術となります。
獲ったウニの殻を使って藻場をつくり、その藻場で育ったウニを獲るという循環が成立すると、ウニの持続可能な漁業による地場産業の振興、そして地方創生へとつながります。この循環を通して、ウニ殻の再利用によるゼロエミッション、焼却処分の回避によるCO2排出削減、同時に、藻場のブルーカーボン機能によるカーボンオフセットが実現します。さらに、藻場本来の生態系保全機能による種の保存や生物多様性など、「豊かな海をつくる」という最も大きな効果が生まれます。また、コンブを安定的に確保することで、ウニの養殖・蓄養・肥育など新たな生産手段が可能です。このように循環型藻場造成は大きな経済効果を生み、SDGsの達成につながる「リジェネラティブ水産業※1」となります。
造成藻場のCO2吸収量を「Jブルークレジット※2」に申請するため漁協を総括とする「北海道積丹町におけるブルーカーボン創出プロジェクト協議会」を組織して、2023年度6.4トン、2024年度5.5トン、2025年度10.6トンの吸収量が認証されました。クレジットで得られた資金は藻場造成・環境教育など次の活動につなげています。
磯焼け対策は、他所では成功例がそれほど多くありません。そこで、積丹町の活動を広く知っていただくためにコンテストに応募しました。その結果、農林水産大臣賞をはじめ数多くの賞に選定されたことから、複数のメディアに取り上げられ、国内、海外からも多くの問い合わせがあり、漁業関係団体だけでなく、政府機関・地方自治体・製造業・建設業・金融業などこれまで多くの団体に情報提供を行ってきました。
獲ったウニの殻を使って藻場をつくり、その藻場で育ったウニを獲るという循環が成立すると、ウニの持続可能な漁業による地場産業の振興、そして地方創生へとつながります。この循環を通して、ウニ殻の再利用によるゼロエミッション、焼却処分の回避によるCO2排出削減、同時に、藻場のブルーカーボン機能によるカーボンオフセットが実現します。さらに、藻場本来の生態系保全機能による種の保存や生物多様性など、「豊かな海をつくる」という最も大きな効果が生まれます。また、コンブを安定的に確保することで、ウニの養殖・蓄養・肥育など新たな生産手段が可能です。このように循環型藻場造成は大きな経済効果を生み、SDGsの達成につながる「リジェネラティブ水産業※1」となります。
造成藻場のCO2吸収量を「Jブルークレジット※2」に申請するため漁協を総括とする「北海道積丹町におけるブルーカーボン創出プロジェクト協議会」を組織して、2023年度6.4トン、2024年度5.5トン、2025年度10.6トンの吸収量が認証されました。クレジットで得られた資金は藻場造成・環境教育など次の活動につなげています。
磯焼け対策は、他所では成功例がそれほど多くありません。そこで、積丹町の活動を広く知っていただくためにコンテストに応募しました。その結果、農林水産大臣賞をはじめ数多くの賞に選定されたことから、複数のメディアに取り上げられ、国内、海外からも多くの問い合わせがあり、漁業関係団体だけでなく、政府機関・地方自治体・製造業・建設業・金融業などこれまで多くの団体に情報提供を行ってきました。
■写真2 ウニ殻肥料:全景(左)と拡大(右)
藻場づくりから町づくりへ
ウニ殻肥料製造は試験規模から企業化へと進み、町内全域からウニ殻を集積し大量製造・販売されています。また、ゴム製品製造企業と連携してウニ殻を使った海藻養殖用施肥材の開発を行い特許も取得しました。こうした活動は、民間企業が運営する情報発信プラットフォーム「SHAKOTAN海森計画」で広報されています。また、森・川・海をフィールドにした自然や漁村文化を体験・学習できる「(株)SHAKOTAN海森学校」が活動を始めています※3。
積丹町は、海の森づくりを核とした持続可能なウニ漁業と環境保全に加えて、漁港を中心とした環境教育・体験・観光や食提案の場を提供して漁村のにぎわいを創出する「海業」で雇用の確保と所得向上による地方創生をスタートしました。これからも、官民の広域連携による漁業・漁村の活性化ビジネスモデルの構築を進めて、森・川・海の自然環境に適応しながら産業の発展と暮らしが共存する町を目指します。(了)
積丹町は、海の森づくりを核とした持続可能なウニ漁業と環境保全に加えて、漁港を中心とした環境教育・体験・観光や食提案の場を提供して漁村のにぎわいを創出する「海業」で雇用の確保と所得向上による地方創生をスタートしました。これからも、官民の広域連携による漁業・漁村の活性化ビジネスモデルの構築を進めて、森・川・海の自然環境に適応しながら産業の発展と暮らしが共存する町を目指します。(了)
※1 再生型水産業。持続可能な(サステナブル)水産業より積極的な、再生をもたらす(リジェネラティブ)水産業によって海洋生態系の回復も目指す概念。
※2 ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)ホームページ参照 https://www.blueeconomy.jp/
※3 SHAKOTAN海森計画 https://umimori.club/、(株)SHAKOTAN海森学校 https://umimori.co.jp/
※2 ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)ホームページ参照 https://www.blueeconomy.jp/
※3 SHAKOTAN海森計画 https://umimori.club/、(株)SHAKOTAN海森学校 https://umimori.co.jp/
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