Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第605号(2026.05.20発行)
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海の恵みを活かしきる
~漁業系廃棄物の行方~
KEYWORDS
魚アラ/貝殻/水産加工残滓
大東文化大学経済学部特任教授◆山下東子
水産物を食べたあとの残滓は日本では民間ベースで適正に処理されており、魚アラでは70%以上が、広島県のカキ殻では100%が回収・再利用されている。魚アラの主な用途は魚油・魚粉だが、それ以外にも食用・医療用など多様である。貝殻もまた、土壌改良剤・建設用資材だけでなく、サプリ・鶏の餌・養殖用資材など多様である。日本で実践されている水産加工残滓の自立循環を世界にアピールすることが望まれる。
魚アラの再利用率は9割以上
日本産の食用魚介類のうち国内向け供給量は年間256万トンで、このうち貝類・海藻を除く魚介類供給量は162万トン(2024年統計、以下同じ)である。可食部を示す歩留まり率※は54%であるため、魚の頭、骨、皮、ひれ、内臓などの非可食部分、つまり魚アラは75万トンとなる。貝類の歩留まり率はホタテガイで50%、カキで20%と低いうえに、ホタテガイの場合は輸出用にむき身にしたあとの貝殻も国内に残るので、貝殻排出量は推計36万トンにのぼる。合わせて年間111万トンの行方が気になるところだが、それほど心配はない。日本には民間ベースで魚アラ・貝殻などの水産加工残滓(ざんし)を回収・再利用する企業群がある。
漁業系廃棄物には養殖用ロープ・資材などの人工物も含まれるが、本稿では水産資源由来の廃棄物、すなわち水産加工残滓に着目する。まず魚アラから見ていこう。図に示した筆者試算によると、魚アラ総量は75万トンで、このうち74%がフィッシュミール(魚粉)会社へ搬入される。
魚アラは、水産加工場から出る「加工アラ」、卸売市場、量販店、料理店から出る「都市アラ」、家庭から出る「家庭ごみ」に大別される。「加工アラ」は三陸の鮭アラ、焼津・枕崎のかつおアラというように単一魚種のアラが新鮮なうちに産地で排出されるため、加工場の近隣に営利・非営利のフィッシュミール会社が立地して魚粉と魚油を製造してきた。加工アラには他にも多くの用途がある。鮭皮をから揚げにしたチップスは食用に供されるし、皮からコラーゲン、骨からカルシウムなどを取り出し、医薬・健康食品、化粧品の原料に供する高度利用もされている。
より消費者に近い段階で発生する「都市アラ」には鮮度の異なる雑多な魚が含まれており、加工アラと比べて品質面で劣る。それでも首都圏に立地する業界最大手企業は、日々1万軒もの店舗から魚アラを有償で回収し、魚粉と魚油を製造している。
魚粉は品質の高い順に、魚の餌料→鶏の飼料→豚の飼料→農業用肥料になり、魚油は、医薬・健康食品→飼料に添加→ミール会社の燃油になる。魚粉と魚油を絞り出した後のフィッシュ・ソリブルという液体も商品である。
家庭から出る魚アラ(15%)は「家庭ごみ」として廃棄される。残る12%、8.8万トンの中には再利用されるものと廃棄されるものとがある。まだ内訳を割り出すだけのデータが揃っていないが再利用はされており、もっと利用率を上げるポテンシャルもある。例えば、豊橋のメヒカリ加工業社は自社アラから魚醤を作っているが、販路の開拓が不十分なためまだ2割程度しか活用できておらず、他は廃棄物として出している。焼津のかつお節製造業社はかつおアラから練節(ねりぶし)を作っており、販路は十分あるが分別を厭うカット工場から原料を回収できていない。
品質面ではマイワシ等の丸魚からつくる製品に勝てない魚アラ魚粉だが、魚類養殖の世界的伸長とそれに伴う近年の魚粉価格の上昇に支えられて需要は堅調である。しかし魚アラ原料の供給量は年々減ってきている。その理由は、第1に日本人の魚離れにより消費量が年を追って減少していること、第2に漁業者の高齢化や気候変動により国内生産量が年々減少していること、第3に輸入水産物は海外の加工場で切り身にしてから日本へ輸出されることが増え、魚アラが海外で排出されてしまうことである。日本での排出量がじり貧になってくると、民間ベースで自立してきた日本の魚アラ処理システムが維持できなくなってしまう。
漁業系廃棄物には養殖用ロープ・資材などの人工物も含まれるが、本稿では水産資源由来の廃棄物、すなわち水産加工残滓に着目する。まず魚アラから見ていこう。図に示した筆者試算によると、魚アラ総量は75万トンで、このうち74%がフィッシュミール(魚粉)会社へ搬入される。
魚アラは、水産加工場から出る「加工アラ」、卸売市場、量販店、料理店から出る「都市アラ」、家庭から出る「家庭ごみ」に大別される。「加工アラ」は三陸の鮭アラ、焼津・枕崎のかつおアラというように単一魚種のアラが新鮮なうちに産地で排出されるため、加工場の近隣に営利・非営利のフィッシュミール会社が立地して魚粉と魚油を製造してきた。加工アラには他にも多くの用途がある。鮭皮をから揚げにしたチップスは食用に供されるし、皮からコラーゲン、骨からカルシウムなどを取り出し、医薬・健康食品、化粧品の原料に供する高度利用もされている。
より消費者に近い段階で発生する「都市アラ」には鮮度の異なる雑多な魚が含まれており、加工アラと比べて品質面で劣る。それでも首都圏に立地する業界最大手企業は、日々1万軒もの店舗から魚アラを有償で回収し、魚粉と魚油を製造している。
魚粉は品質の高い順に、魚の餌料→鶏の飼料→豚の飼料→農業用肥料になり、魚油は、医薬・健康食品→飼料に添加→ミール会社の燃油になる。魚粉と魚油を絞り出した後のフィッシュ・ソリブルという液体も商品である。
家庭から出る魚アラ(15%)は「家庭ごみ」として廃棄される。残る12%、8.8万トンの中には再利用されるものと廃棄されるものとがある。まだ内訳を割り出すだけのデータが揃っていないが再利用はされており、もっと利用率を上げるポテンシャルもある。例えば、豊橋のメヒカリ加工業社は自社アラから魚醤を作っているが、販路の開拓が不十分なためまだ2割程度しか活用できておらず、他は廃棄物として出している。焼津のかつお節製造業社はかつおアラから練節(ねりぶし)を作っており、販路は十分あるが分別を厭うカット工場から原料を回収できていない。
品質面ではマイワシ等の丸魚からつくる製品に勝てない魚アラ魚粉だが、魚類養殖の世界的伸長とそれに伴う近年の魚粉価格の上昇に支えられて需要は堅調である。しかし魚アラ原料の供給量は年々減ってきている。その理由は、第1に日本人の魚離れにより消費量が年を追って減少していること、第2に漁業者の高齢化や気候変動により国内生産量が年々減少していること、第3に輸入水産物は海外の加工場で切り身にしてから日本へ輸出されることが増え、魚アラが海外で排出されてしまうことである。日本での排出量がじり貧になってくると、民間ベースで自立してきた日本の魚アラ処理システムが維持できなくなってしまう。
■図 魚アラの行方(2024年、単位:万t)
出所:漁業養殖業生産統計、食料需給表、家計調査、貿易統計、水産油脂年鑑(いずれも2024年)のデータ(太字)と筆者が仮定を置いた推計値
広島県のカキ殻回収率は100%
貝類生産量の95%を占めるホタテガイとカキに着目して貝殻処理の実態を見てみよう。貝殻は魚アラとは別の企業群で再生処理されている。むき身で流通する日本の特徴が産地での貝殻の集積をもたらした結果、現場での一括処理システムが進展した。日本のカキ生産量の6割を占める広島県では2社が産地からカキ殻を回収しており、県資料によると回収率は100%を誇る。
貝殻はほとんどが炭酸カルシウムという単純な組成であるため、再利用といっても用途が限られると思われがちだが、農地の土壌改良剤や建設資材といった大量消費型の用途以外にも実に多様な使われ方をしている。ホタテ殻・カキ殻ともにヒト用のカルシウムサプリになったり、鶏卵を作らせるために鶏の餌に混ぜたりするほか、ホタテ殻はカキの幼生を付着させるために、カキ殻は海苔の幼生を付着させるために海中に吊るされ、やがてボロボロになって海底に沈んでいく。写真の壁面クラフトは和紙工芸作家のハタノワタル氏の作品で、上述のカキ殻処理業者が提供したさまざまな色目のカキ殻粉末をすき込んだ和紙の紙片を貼り合わせることで、瀬戸内の島々が描かれている。
貝殻はほとんどが炭酸カルシウムという単純な組成であるため、再利用といっても用途が限られると思われがちだが、農地の土壌改良剤や建設資材といった大量消費型の用途以外にも実に多様な使われ方をしている。ホタテ殻・カキ殻ともにヒト用のカルシウムサプリになったり、鶏卵を作らせるために鶏の餌に混ぜたりするほか、ホタテ殻はカキの幼生を付着させるために、カキ殻は海苔の幼生を付着させるために海中に吊るされ、やがてボロボロになって海底に沈んでいく。写真の壁面クラフトは和紙工芸作家のハタノワタル氏の作品で、上述のカキ殻処理業者が提供したさまざまな色目のカキ殻粉末をすき込んだ和紙の紙片を貼り合わせることで、瀬戸内の島々が描かれている。
■広島JPビル2階ホワイエの壁面(筆者撮影)
日本モデルを世界にアピール
「日本でこんなに処理が進んでいるのは国の補助金があるからでしょう?」「規制と監視が厳しいからでしょう?」と外国の方からよく聞かれるが、どちらも否である。国は水産加工残滓処理に補助金を出していない。もちろん廃棄物処理法はあるので、いったん廃棄物とみなされればこの法の下に置かれるが、「有価物」として利用されるならば規制を免れる。実際に都市アラ活用の首都圏最大手企業も焼津の練節事業者も排出先から有償で引き取っている。この合法的な規制逃れが再利用を促すエンジンになったのではないかと思われる。加えて遅くとも江戸時代には庶民の間に食べ物を粗末にしない習慣が根付いており、ごみの分別・再利用にも慣れていたという歴史的・文化的背景が、食用にまで利用する徹底した魚アラ・貝殻利用の土壌を形成していたのだろう。
さらなる高度利用の開発技術もこれを担う研究者も全国の官民に遍在している。とはいえ、どれだけ高度利用が進んだとしても全量を利用し尽くせるわけではないし、高度利用後にも二次加工残滓が排出される。どのような魚アラも貝殻も受け入れる処理業者が受け皿となっているからこそ全体の最適化が達成されている。日本の魚アラ・貝殻処理の自立的な循環モデルをもっと海外にアピールできれば、世界の漁業生産量2.1憶トン(2024年)の半分近くを占める水産加工残滓もまた海の恵みに生まれ変わるだろう。(了)
さらなる高度利用の開発技術もこれを担う研究者も全国の官民に遍在している。とはいえ、どれだけ高度利用が進んだとしても全量を利用し尽くせるわけではないし、高度利用後にも二次加工残滓が排出される。どのような魚アラも貝殻も受け入れる処理業者が受け皿となっているからこそ全体の最適化が達成されている。日本の魚アラ・貝殻処理の自立的な循環モデルをもっと海外にアピールできれば、世界の漁業生産量2.1憶トン(2024年)の半分近くを占める水産加工残滓もまた海の恵みに生まれ変わるだろう。(了)
※ 歩留まり率(%)とは可食部の割合、(可食部位(kg)÷総原材料(kg)×100)
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