Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第532号(2022.10.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

◆海洋国家日本は深海大国でもある。排他的経済水域(EEZ)内における6,000メートル以深の超深海の面積は約6%、4,000m以深は約50%に及ぶ。1989年建造の有人潜水調査船「しんかい6500」は、未だに深海調査の現役であり、2005年に竣工した地球深部探査船「ちきゅう」は、水深2,500mから海底下7,000mまで到達できるライザー掘削技術を駆使し、地震掘削調査や地下生命圏調査などに活躍している。このように長きにわたり深海調査が進められている中、2022年8月29日に名古屋大学の道林克禎教授が民間フルデプス有人潜水船「リミティングファクター号」に乗船し、日本人の最深記録となる小笠原海溝9,801mに潜航した。映像にはナマコなどの生物も映っていて興味深い。深海へのアプローチがさまざまに進行している。
◆地球温暖化問題のひとつに海洋酸性化がある。(国研)水産研究・教育機構水産資源研究所の小埜恒夫主幹研究員より、2020年に開始された日本財団助成事業「海洋酸性化適応プロジェクト」でわかってきた日本沿岸の酸性化の影響と原因について解説いただいた。pH変化の要因はCO2濃度以外にもさまざまあり、海域によっても差がある。そこでカキ養殖産地のうち3海域でマガキを対象とする環境モニタリングが実施された。今のところ、これらの海域での酸性化被害はないが、原因解明と抑制方法の開発が環境問題に貢献することを期待したい。
◆神戸大学海事科学研究科の練習船「海神丸」が2022年に竣工した。練習船機能、海洋人材育成に必要な機能、被災地支援を建造の基本方針とし、その実現に必要な高機能を備える。総トン数892トン、全長59.66m、幅11m、深さ6.7mと大型であるだけでなく船室や設備の多目的利用、居住環境の整備、運航機能の向上など多くの工夫と拡充がなされた。海洋国家を担う若者の未来に期待が高まる。神戸大学海洋底探査センターの勝井辰博教授より詳細をご寄稿いただいた。ご一読いただきたい。
◆鮮やかな赤に代表される宝石サンゴは、明治以降の日本では一時期には重要な輸出品目であった。近年の中国の需要増などにより、資源の枯渇が心配されるなか、NPO法人宝石珊瑚保護育成協議会と日本珊瑚商工協同組合は、その資源保護と漁獲制限に取組んでいる。高知大学海洋コア総合研究センターの公文富士夫客員教授と(公財)黒潮生物研究所の目﨑拓真研究所長より宝石サンゴの人為的増殖について教えていただいた。飼育個体や種苗を海に戻す取り組みは順調に進展しているという。しかし成長が遅いため、現在の漁獲量まで復活するのは50年後になる。増殖事業の早期の推進が望まれる。(窪川かおる)

第532号(2022.10.05発行)のその他の記事

ページトップ