Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第532号(2022.10.05発行)

神戸大学新練習船「海神丸」

[KEYWORDS]海洋底探査/大気海洋環境調査/災害被災地支援機能
神戸大学海洋底探査センター教授◆勝井辰博

神戸大学の新しい練習船「海神丸」は2022年3月23日に引渡し式が行われ、海洋人材育成という重要なミッションを達成すべく新たな航海に出た。
海神丸は次世代型の高機能練習船として多様な機能を備えている。
本稿では練習船海神丸の機能と特徴について解説する。

建造までの経緯

「海神丸」は、神戸大学海事科学研究科の練習船として35年の長きに渡って海洋人材の育成に貢献してきた「深江丸」の後継船として建造され、2022年3月23日に引渡し式が行われた。海洋立国を支える専門人材の育成を重要なミッションとすることに変わりはないものの、練習船に対する社会的要請に対応できる高機能練習船としての機能強化が大きな課題であった。神戸大学では海洋分野における教育研究理念として「高機能練習船を舞台として海洋分野で活躍する海洋グローバル人材を育成」することを掲げており、これに基づく本船建造の基本方針として、1. 基本的な練習船機能の維持・改善、2.海洋人材育成に必要な機能の付加、3. 災害時の被災地への支援・貢献の3つを掲げた。

高機能練習船

海神丸の主要目は表1に示す通りである。深江丸の全長は49.95m、総トン数は449トンであるから全長で約10m、総トン数で約440トン大きくなっている。これは大型化を強く意識したものではなく、むしろ現行の法令に対応し、必要な装備を拡充した上で運用コストをできるだけ抑えるための検討をした結果、このサイズとなっている。それでも船体が大型化したメリットを最大化するために多人数に対応可能な船橋、実習エリア、講義室等のスペースを確保した。講義室のテーブル配置は変更が可能になっており多目的な利用に対応できる。また、男女共同利用に配慮して衛生・船内住環境が整えられている。さらに詳細設計の最中にコロナの問題が発生したことから強制的な換気ができるような仕様に急遽変更している。
運航に関する機能向上としては、乗組員の作業負担の軽減を図るために係船に係る甲板機器の機械化を進め、自動船位保持システム(DPS)や、船舶の針路を一定に保持するトラックコントロールシステムを導入している。DPSの導入は海洋観測・海底探査の際にもその威力を発揮するため導入メリットが大きい。電子海図情報、船舶運航情報、気象海象情報等は船内LANを通して一元的に管理され、船内のさまざまな場所で統合的に表示することが可能になっており、最適な操船に必要な情報の入手が容易になっている。また、実船データを教育・研究活動に活用するために航海データ収集装置により運航データが記録され、これを操船シミュレータのシナリオ作成に利用することが可能になっている。これにより陸上教育活動の充実にも貢献できる。
機関部の特徴は、機関制御室と同等の機能を有する「推進制御区画」を船橋甲板に配置していることである。この意図は航海士と機関士のコミュニケーションを密にし、それぞれの行動をお互いが理解することで海技士としての能力向上を図ることにある。この方式は深江丸から引き継がれたものであり、「神戸大学方式」と言ってよい。「船員の訓練および資格証明ならびに当直の基準に関する国際条約(STCW条約)」では船員のチームワークやリーダーシップに関する高い能力を求めており、これを満足するため有効な方法であると自負している。また、機器の遠隔操縦・遠隔監視を可能にし、機関運転および制御に関する教育実習の充実が図られている。
調査観測機器の充実も海神丸の特徴である※1。深江丸には無かった船内ラボ(ドライラボおよびウェットラボ)のスペースが設置され、各種の観測装置による計測データが船内LANを経由して容易に蓄積が可能になっている。本船ではその活動範囲から水深2,000m以浅の海洋・海底の調査に特化した仕様になっていることが特徴で、その範囲では現時点で世界トップクラスの探査・観測機能を有する。代表的な探査システムの一つが反射法地震探査機能である。本船の地層探査システムでは、直下に音響パルスを発振して地層断面を解析するサブボトムプロファイラーを新設した。これによって、海底下数百mの地下構造を10m以下の分解能で探査することが可能である。また、音響パルスの発振に必要なエアガンコンプレッサーは機関室に常設されており、機動的な探査が可能である。これまでも深江丸による探査で鬼海カルデラ※2などさまざまな調査がなされてきたが、海神丸が有する多彩な調査観測機器群によってさらに多様な海洋観測・探査が行われることが期待できる。

■表1 海神丸主要寸法等

被災地支援機能

■図1 海神丸の外観

海神丸には災害時の被災地への支援・貢献(給水・給電・物資輸送)という重要な機能が備えられている。これが、海神丸が高機能練習船として位置づけられる理由の一つとなっている。船内清水タンクを活用した飲料水・雑用水供給機能はこれまでの深江丸にも備えられていたが、これを強化するために新たに逆浸透膜式造水装置(10トン/日)を装備し大幅に給水機能を強化した。塩分は500ppm以下であり、飲料水としての基準を満たしている。船内発電機の大型化によって陸上への電力供給能力も向上している。また、甲板上に20フィートコンテナ2台の設置スペースがあり支援物資のコンテナ輸送にも対応している。このコンテナスペースには通常時はコンテナ・ラボの設置が可能であり、多様な観測活動への展開に対応可能である。さらに、コンパス甲板にウィンチングエリアを設置しており、ヘリコプターを援用した物資輸送に貢献することができる。これにより、例えば被災地の港湾設備に被害があって、着岸が困難な場合であっても支援物資の輸送に貢献ができると考えている。今後は大型ドローンによる物資輸送なども発達していくことが予想されるので、このウィンチングエリアを利用した物資輸送の利用の幅も広がっていくことが期待される。
最後に海神丸の外観を示す(図1)。本船のコンセプトデザインには世界的な工業デザイナーであるケン・オクヤマ氏(奥山清之氏)にご担当いただいた。この練習船としてとても斬新なデザインが多くの若者たちの心を惹きつけ「あの海神丸がある神戸大学で海洋について学んでみよう」と思ってもらえることを心から期待している。日本は海洋国家であり、海洋人材の育成の重要性は今後も高まっていくと考えている。神戸大学と練習船海神丸がその一翼を担うことを強く決意して本稿を締めくくりたい。(了)

  1. ※1海神丸の調査観測機器群については、パンフレットの17ページ目を参照(http://www.maritime.kobe-u.ac.jp/joint_usage/fukaemaru/pdf/kaijinmaru_pamphlet.pdf
  2. ※2巽好幸著「鬼界巨大海底カルデラ探査プロジェクト~超巨大噴火予測に挑む~」本誌第451号(2019.5.20)参照 https://www.spf.org/opri/newsletter/451_2.html

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