Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第527号(2022.07.20発行)

世界海事大学の将来への展望

[KEYWORDS]海事分野の人材育成/SDGs/ジェンダー平等
世界海事大学学長◆Cleopatra DOUMBIA-HENRY

世界海事大学(WMU)は1983年に国際海事機関(IMO)によって設立され、海事および海洋に関する教育と研究、能力開発、経済発展のための卓越した研究拠点となってきた。
持続可能な世界の実現に貢献すべく、WMUはSDGsの目標4「質の高い教育」、目標5「ジェンダー平等」などの課題に積極的に取り組んでいるほか、国際海事社会の対話の場となることに取り組んでいる。

世界海事大学

2019年のクラスの卒業生たち

世界海事大学(WMU)※1は、国際連合の専門機関である国際海事機関(IMO)によって1983年に設立されました。憲章によると、WMUは「海事および海洋の分野における女性の役割を促進しつつ、海事および海洋に関する教育と研究、能力開発、経済発展の推進のために、卓越した研究拠点(CoE)を開設すべきであるという切実なニーズに鑑み」とあります。そしておよそ40年にわたり、この取り組みに十二分な成功を収めてきました。現在WMUは、憲章で意図されたように、国連総会やその他の関係者から、海事および海洋に関する教育と研究、能力開発、経済発展のための卓越した研究拠点であると認識されています。
「リーダーシップ」「誠実さ」「敬意」「説明責任」「コラボレーション」「革新」「透明性」「効率性」「コンプライアンス」「持続可能性」といった10の基本理念に支えられたこのユニークな大学は、海事および海洋関係者に最高の教育環境を提供することに成功しています。WMUの誇る卒業生は、世界171カ国の5,634人(うち女性は1,254人)におよびます。彼らは現在、世界中で指導的立場にあり、国際レベル、国家レベル、企業レベルで、政策や行動に大きな影響を与え続けています。卒業生のうち、アジア出身者は3,145人で、日本人は47人(うち海上保安庁出身は15人)です。また、そのほかにも多くの人々が、WMUの幹部養成コースや、各国におけるハイレベルな政策、重要な研究成果を通して恩恵を受けています。WMUが設立以来の短期間に達成した成果は、本学より長い歴史を持つ他大学にも匹敵し、グローバルな協働関係の絶大な効果と、学内外の有力なステークホルダーによる貢献を示しています。

SDGsへの取り組み~質の高い教育とジェンダー平等

国際デーの筆者(前列中央)と学生たち(2019年)
共に学ぶこと:多国籍で多文化な多様性ある視点、目標は一つ

しかしWMUは現在の栄光に満足しているわけにはいきません。海事および海洋部門のグローバルリーダーを生み出すため、今、世界の各方面で起こっている未曽有の変化を認識し、これらの変化がもたらす課題を先頭に立って予測し、対応する立場にならねばならないのです。国連は、17の目標からなる持続可能な開発目標(SDGs)を通じて、人類が直面する多くの重要な課題に対処しようとしています。そのすべての目標は関連していますが、特に目標4、5、7、8、9、13、14、16、17※2が、WMUと関係があります。本稿では、最初の2つの目標を取り上げます。
言うまでもなく、大学の使命として目標4「質の高い教育」は、海事高等教育に特に関連性が高いものです。質の高い教育を継続的なプロセスとして実施することが極めて重要です。そうした質の高い教育パラダイムは、すべてのプログラムに関するカリキュラムの開発と提供、評価への厳格さと検証可能な透明性のある革新的なアプローチに基づいています。
また、WMUに関わりが深く重要なのが、目標5「ジェンダー平等」です。現在の卒業生の30%が女性です。WMUは、できるだけ速やかにプログラムへの入学者数に関して、ジェンダー平等を達成しようと努力しています。全体的な傾向としては順調で、女性入学者の割合は近年増加しています。職員については現在、組織における数値的なジェンダー平等が達成されており、これは喜ばしいことです。しかし教授陣については、明白なアンバランスが存在しています。海事産業全体での女性の割合が約2%しかないことを考えると、これは驚くべきことではありません。ですが、WMUでは、できるだけ早く教授陣のジェンダー平等が実現できるよう懸命に取り組んでいるところです。
こうした学内の目標と同じくらい重要なのが、海事および海洋産業における幅広い女性の参画のための啓発と教育です。その推進のため、WMUは過去数年間に数多くの試みを行ってきました。例えば、2つの大きな会議(「海事コミュニティにおける女性のエンパワメント」※3と「海事業界の女性:グローバルリーダーシップ」)の開催や、学生のためのWMU女性協会の設立、海事産業全体、特に船舶運航への女性のアクセス改善に関する数多くのワークショップや論文、フォーラムの開催、IMOの「女性船員のためのグローバル戦略:海事部門の人材供給」や「ジェンダー評価および監査」といったプロジェクトへの多大な貢献などです。こうした取り組みに関わるキーパーソンの一人が、日本の北田桃子博士(WMU准教授)※4です。また、WMU笹川世界海洋研究所(GOI)の「国連持続可能な海洋科学の10年に向けた女性のエンパワメント」に関する進行中の研究プロジェクトもあります。これは、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC-UNESCO)によって「国連海洋科学の10年」の活動としても認められています。

国際海事社会の対話の場として

WMUは今後も、幅広い社会人学生等に適した、関係者のニーズおよび国際トレンドに対応する質の高い研究やプログラムを開発、実行していきます。また、引き続き強力で効果的なパートナーシップを構築し、WMUにとって重要な国際海事社会における求心力を高めていきます。これまで以上に未来に良い影響を与えるために、WMUが海事分野における学界や政府、産業界のリーダー、非政府組織や財団、協会といった市民社会団体のリーダー間の交流や対話の場となるよう、固い決意を持って取り組んでいきます。そのためにも、WMUは職場環境の最適化や人材育成、内部プロセスの最適化に重点を置き続け、ダブル・アクレディテーション※5の資格要件を満たすだけでなく、それを超える取り組みを続けていきます。
そしてここに、WMU設立からこれまで支えてくださった、寛大なスポンサーと寄付者の皆様に感謝いたします。奨学金の供与から教授職への資金提供、組織的な能力開発として2018年にWMU笹川世界海洋研究所の設立※6、奨学生の日本視察、その他研修に至るまで、日本財団はWMUへの支援において傑出しています。日本財団の笹川陽平会長のリーダーシップと貢献に深く感謝いたします。また、日本の企業からも惜しみない寄付をいただき感謝いたしております。
日本の卒業生が、IMOの会議や国内外で、日本の代表として継続的に貢献していることもWMUにとっては嬉しいことです。WMUは、日本の支援および友好関係を今後も期待かつ信頼しており、より平和で衡平に、SDGsの目標17の精神「パートナーシップで目標を達成しよう」で世界のために共に活動し、日本とのパートナーシップを強化できることを楽しみにしています。(了)

  1. ※1世界海事大学(WMU) https://www.wmu.se/
  2. ※2SDGsとは?(外務省) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
  3. ※3参照:窪川かおる著「海洋分野における女性の活躍」本誌第455号(2019.7.20)
  4. ※4参照:北田桃子著「海洋分野にイノベーションをもたらす男女平等」本誌第438号(2018.11.05)
  5. ※5アクレディテーション(Accreditation)=認定機関、公的機関等から能力を保証する認定。
  6. ※6参照:Ronan Long著「WMU笹川世界海洋研究所~ユニークな大学に誕生した新しい研究機関~」本誌第442号(2019.1.5)
  7. 本稿は、英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。 https://www.spf.org/opri/en/newsletter/

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