Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第525号(2022.06.20発行)

釣りを持続的に楽しむための制度と課題

[KEYWORDS]釣りライセンス制度/スポーツフィッシング/資源管理
釣りタレント◆高本采実

コロナ禍により再注目を浴びたと言われている釣り。しかし日本の海域における水産資源の減少やマナー・トラブル問題などがあり、釣り人口の減少は止まらない。わが国には現在釣りのライセンス制度がない。
これからも釣りを楽しむために、今私たちには何ができるのか。釣りの現状と問題解決案について述べる。

釣りの現状

日本での釣りの起源は縄文時代まで遡る。当時は食糧確保の手段とされていたが、江戸時代からはレジャーとしても普及しており、その歴史は長い。日本の漁獲量は1984年をピークに減少をたどる一方だ。先進国をはじめとした世界の漁獲量推移をみても、回復の気配なく右肩下がりであるのは日本だけである。
このような中、最近では釣りが再び注目を浴びている。アウトドアレジャー全体の人口は減少傾向にあるが、『レジャー白書2021』(日本生産性本部)によると、ゴルフ・登山・スキー・スノーボード・キャンプをおさえて、釣りは2年連続1位(2019、2020年)の座に輝いた。コロナ下の2020年の釣り人口は550万人であった。釣りは地域経済や雇用を支える産業でもあり、日本のレジャー業界を支えている。
ただ、長期間のトレンドで見ると1996年の2,040万人をピークに大きく減少しているのが実態だ。新たに釣りを始めた方も趣味として定着せず、これまで釣りをしてきた方もリタイアしたとみられる。

釣り人口減少の要因─水産資源の減少

釣り人口の減少の要因として、まず魚が釣れないため楽しみを感じられず趣味へと発展しなかったことが挙げられる。釣りは非営利のレジャーであるが、限りある資源を扱い、魚を獲るという意味でも、漁業と同様に水産資源の管理を意識する必要がある。『令和2年漁業構造動態調査結果』(農林水産省)によると、漁業者数も減少の一途を辿っており、2020年では約13.6万人である。漁業より漁獲数が少ないとはいえ、釣り人口は漁業者の約40倍であるので、水産資源に影響する可能性がある。
今日水産庁でも、「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」が展開されており、今後、2018年に331万トンだった漁獲量を2030年までに444万トンまで回復させることを目標にTAC(漁獲可能量)制度で指定する魚種の拡大が目指されている。といっても日本の領海内には4,000魚種以上生息していると言われている中、また、市場に並ぶ魚種は500種にものぼる中、TAC対象魚種は現在8種類のみであり、現状の拡大のペースでは遅すぎるように感じる。水産資源の適切な保存・管理を行う制度であるTAC制度の根幹は、水産資源ごとの資源調査および資源評価であるが、TAC対象魚種がなかなか増えない理由として科学的知見が十分でないことなども挙げられる。漁獲枠の適切な再設定が不可欠であると感じるが、このままでは資源回復効果はあまり期待できない。ようやく遊漁にも規制が導入された太平洋クロマグロのように資源の枯渇が懸念される魚種も存在する。資源量の状態が不安定になってからでは手遅れになることもある。これからも資源を持続的に利用するためにも適切な管理が必要である。漁業者も釣り人も消費者も、魚が増えればそれぞれ豊かになるのだ。
くしくも、2022年3月に閣議決定された新たな水産基本計画では、釣りを含めた遊漁を「漁場利用調整に支障のない範囲で水産関連産業の一つとして」位置付けるとともに、「資源管理の高度化に際しては、遊漁についても漁業と一貫性のある管理を目指していく」ことや、クロマグロについて「漁業と同じレベルの本格的なTACによる数量管理に段階的に移行する」ことが示されている。今後は釣り人も、資源管理に貢献していく必要がある。

釣り人口減少の要因─ルールとマナー

ゴミのポイ捨て:撒き餌・ワーム・容器包装・ペットボトル・空き缶・タバコなど多数のゴミが釣り場に放置されている

釣り人口減少の2つめの要因として、ルールやマナーの問題が挙げられる。ゴミのポイ捨て、違法駐車、立入禁止エリア内への侵入などの迷惑行為や不注意による事故により釣り禁止区域が増え、釣り場がなくなったことが考えられる。
釣りをするにあたってのルールとマナーは存在し、一部遊漁船や管理釣り場などではレギュレーションを遵守するよう説明を受けることができる。しかし自由に出入りできる場所では、ルールやマナーの啓発看板の設置がないところも多く、第三者による管理もされていないところが多々ある。そのようなところで特にトラブルは多発する。監視されていなければ好き勝手にする人がいるのも事実だ。自由に釣りができる素晴らしい環境が、次々と壊されていく。モラルやマナーに欠けた個人の行動により招いた結果だ。
そして自然の怖さを決して忘れてはいけない。自然は時に脅威となり、波はわれわれをのみ込み最悪の場合死に至るケースもある。危険な場所には入らない、ライフジャケットの着用はもちろん、可能な限りの安全対策はすべきだ。
ルールやマナーへの意識が欠けていることにより問題が起きているのは事実なのである。何も難しいことはない。当たり前のことをするだけで、快適に釣りができ、釣り場も失わずに済むのだ。水産資源の減少により釣りに出かけても魚が釣れない。意識が欠けた結果、魚釣りのできる環境が壊れていく。これでは釣りはもちろん、魚に関わる業界全体が衰退の一途を辿る。

これからの釣りのあるべき姿

野放し状態にある日本は、現状のままでは魚がいなくなり、釣りさえもできなくなる。早急な解決を求めるが、これには変化が必要だ。そこで、その解決案としてライセンス制を提案したい。
多くの漁業先進国では釣りはライセンス制により行われている。そして主にキャッチアンドリリース前提のスポーツフィッシングとして楽しまれている。また、科学的知見に基づいた積極的な資源管理により、サステナブルな釣りが実現している。筆者の知る限りでも、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、スペイン、オランダ、ベルギー、オーストラリア、ノルウェー、ニュージーランド、香港などがライセンス制を、ドイツでは国家資格制度を導入している。
このようなレギュレーションを導入することは、トラブル防止にも繋がる。魚種ごとに「バッグリミット(持ち帰る量の制限)・サイズリミット・禁漁期・禁漁エリア」を設けることで、資源保護をしながらも地域特性や季節を楽しめる。また、全国の釣り人が協力し、一定のルールに基づいて資源評価に必要な科学データの収集を行うことも可能だろう。釣り人の資源に対する意識も高まり、非常に有意義な力になると期待できる。
筆者は、魚を釣ること・食べること・知ること、全てを含めて魚が大好きだ。そして釣りは、趣味であり仕事でもある大切な存在だ。これからの人生も釣りを軸に歩んでいきたい。
今から動こう。皆で動こう。10年、20年後、そしてその先も、世代を継いで釣りを楽しめる環境であり続けることを願う。(了)

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