Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第518号(2022.03.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

◆海洋の多様なテーマを掲載する本誌だが、SDGs、温暖化、カーボンニュートラル、さらには「国連海洋科学の10年」やCOVID-19と言った時代が見える。先ごろ刊行された『人と海洋の共生をめざして-150人のオピニオンX』は本誌451号(2019.5.20)から500号(2021.6.5)に掲載された論考を収録するが、その傾向は如実である。本号の3篇も見事に今に繋がっている研究と活動である。
◆生物生産力が高い海は、単位面積当たりで世界最大のオホーツク海と親潮域である。この恵みは海洋の物質循環がもたらし、さらに陸域から供給される鉄が育む。鉄の供給源はアムール川流域の湿地と森林であり、やがて海流に乗って親潮域にまで輸送される。そこで表層に達した鉄が植物プランクトンに利用され、生物生産が増える。この鉄の輸送システムが毀損する可能性を名古屋大学大学院環境学研究科中塚武教授は指摘されている。その原因はアムール川流域の湿地減少や海氷減少であり、その影響は漁業資源の問題にも発展しかねない。
◆千葉県立中央博物館歴史学研究科田邉由美子上席研究員より、縄文時代の海水準変動は東京湾の沿岸域にある貝塚密集地帯の規模、数、分布と相関し、出土した魚骨、貝殻、漁具からわかる漁撈活動は干潟の利用や資源管理等に関するルールを持っていたと教えていただいた。たとえば未成熟貝の捕獲制限などである。1万年以上にわたる縄文時代は、海水準変動に順応しつつ豊かな資源環境を維持する先駆でもあった。
◆海ごみゼロアワード2021最優秀賞を受賞されたBlue Earth High School谷口理代表より社会に発信する女子高生たちの活動をご寄稿いただいた。この活動の全体は、15年間に1,000人以上にもなる女子高生が参加し、海外1校を含む19か所の拠点に及ぶ。受賞された活動の詳細を是非本誌でお読みください。またコロナ禍では水族館等の協力を得て動画作成にも挑戦したという。コロナ禍で高校生活や交流が不自由になっても活発な創意工夫を発揮した女子高生たちに心からお祝いを述べたい。(窪川かおる)

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