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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第514号(2022.1.5 発行)

コースト・プレディクト始動~グローバルな沿岸海洋の観測と予測~

[KEYWORDS] 国連海洋科学の10年/GOOS沿岸パネル/COSS‐TT
コースト・プレディクト議長、イタリア・ボローニャ大学教授◆Nadia PINARDI

コースト・プレディクトは、「国連海洋科学の10年」の公募で認定され、今後の活動の中核となる国際プログラムのひとつである。
沿岸域の観測や予測をグローバルに統合していくことには困難を伴っていたが、コースト・プレディクトは、沿岸コミュニティーごとにばらばらではない一つのグローバルなネットワークを構築し、世界の沿岸海洋における観測・予報システムと連携することを目指す。

コースト・プレディクトの始動

2021年1月から開始した「国連海洋科学の10年」では、提案の公募を経て、2021年6月に今後の中核となる28のプログラムが認定された。コースト・プレディクト(https://www.coastpredict.org/)は、この認定プログラムの一つである。
コースト・プレディクトは、都市部を含めた河川流域から大陸斜面の海域に至るまでのグローバルな沿岸海洋の観測および予測に関する科学の変革を目指している。沿岸は人間が海洋環境に最大の影響を与える場所であり、海洋汚染の大半がここから始まり、また人々の生活と経済に有害な作用を生み出し得る場所でもある。しかし、その複雑さや地域性などのため、これまで観測や予測をグローバルに統合していくことは困難だった。そこでわれわれは、さまざまな国とその専門的な海洋や気象のインフラに全世界の沿岸海洋の最先端の知見を提供し、沿岸域の科学の断片化を克服していくこととした。われわれは、現業海洋学(Oprational Oceanography)が世界各地で進展していることを生かして、基準と品質評価のプロトコルを備えたリアルタイムの海洋観測および予測を推進する。すなわち、全世界の沿岸海洋というコンセプトを再定義し、世界共通の多くの特徴に注目して沿岸域における自然変動と人為的変化の観測および予測を行い、標準プロトコルでデータ交換できるようにインフラの改善を行う。
そして最終的には、沿岸海洋の過去、現在、未来の状態についての情報提供を目指す。われわれは、観測データと数値モデルを統合し、局所的な極端現象から気候に至るまでの様々な時空間スケールでの不確実性を加味し、沿岸生態系と生物多様性の予測も行う。これにより、科学および社会的ニーズへの変革的な対応が共同で設計できるようになる。
コースト・プレディクトは、世界気象機関(WMO)やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)が共同で推進する全球海洋観測システム(GOOS)にあわせて設計され、IOCの国際インフラを拡張して、世界の沿岸海洋における観測・予報システムと連携できるようにする。

設立の経緯

前述のように、これまで観測や予測をグローバルに統合していくことには困難を伴っていた。コースト・プレディクトが掲げる考え方は、これまでも沿岸域への科学的理解を増進するための様々な取り組みで既に実践されており、成功例もあるが、規模は限定的だった。観測についての注目すべき実践として、沿岸域における観測および予報戦略を策定するために2000年代初めに開始したGOOS沿岸パネルがある。その主な成果の一つが、観測とデータ通信、データ管理、データ分析/予報のグローバルネットワークを確保すべきという提言だった。もう一つの重要な成果は、沿岸域での監視および予報のための共通変数を初めて定義したことである。沿岸域の様々な変数を共通化することにより、観測を効率的かつ効果的に行うことができ、また、その共有や利用を促進できた。しかし、そのように素晴らしいスタートを切ったにもかかわらず、組織化が不適切で、生物地球化学や生物多様性その他の海の環境変数のために必要な技術もできていなかったため、GOOS沿岸パネルは継続されなかった。
予測に関する実践としては、科学者の新たな国際グループである沿岸・大陸棚海域タスクチーム(COSS-TT)がある。世界の海洋観測の成果を利用してグローバルおよびローカルな予報システムを整備するための調整組織であるオーシャン・プレディクト(https://oceanpredict.org/)の傘下で設立された。COSS-TTは、オーシャン・プレディクトによる外洋域の予測結果を活用して沿岸海洋での予報をシームレスに統合させるとともに、世界の沿岸・大陸棚域におけるダウンスケーリング※1やデータ同化※2などの最先端の方法を明示した。
これらの観測と予測の実践が上手く組み合わされることで、沿岸海洋の科学が大きく進展することが期待された。しかし実際には、GOOS沿岸パネルとCOSS-TTの統合は、それぞれの取り組みのタイミングのミスマッチのため不首尾に終わり、観測と予報の統合は十分には実現されなかった。

コースト・プレディクトの目指すところ

コースト・プレディクトが注目する対照的な沿岸環境(自然の沿岸域と都市沿岸域)、どちらも人間の諸活動の影響を受けており、どちらも、国際的に調整された観測および予測の枠組みを必要としている。

コースト・プレディクトは、これまでの実践をもとにして、沿岸コミュニティーごとにばらばらではない一つのグローバルなネットワークを構築し、全世界の沿岸海洋における科学の発展に向けた枠組みを作る。コースト・プレディクトを可能にする新たな進歩には以下のものがある。
a)現在、現業海洋学がグローバルなスケールから地域のスケールで実践に移されつつあり、沿岸へのダウンスケーリングのために無料公開データを利用できる。
b)人工衛星、現場運用ロボット工学、人工知能(AI)の利用など、観測分野における重要な技術進歩が起きており、沿岸海洋の監視が実行可能かつ有益なものになっている。コースト・プレディクトは、この革新的な現業海洋学の枠組みを十分に活用して沿岸予測能力を向上させる。さらに、河川や地下水などを含む陸水循環までを初めて統合する。
「国連海洋科学の10年」は、現業海洋学の成功を沿岸域で実現するためのまたとないチャンスである。実際、現在の外洋のグローバルモデルおよびローカルモデルの解像度は沿岸域には適さず、陸海結合は適切に考慮されず、潮汐など発生頻度の高い現象も、大きなスケールでの予報等では一般に考慮されない。現在利用可能なのは、海域にもよるが概ね3~8kmの水平解像度と、数mの鉛直解像度の情報にとどまっている。コースト・プレディクトの目標は、局所的な極端現象から気候スケールまでを、数10mの水平解像度、1m以下の鉛直解像度の数値モデルで再現することである。沿岸都市や近海から外洋までを観測する、沿岸および地域の学際的システムを新たに構築しようとするとき、連続する沿岸海洋全体の複雑な相互作用をどうとらえるかは科学的に難題である。空間スケールと時間スケールを横断し学問分野を横断して観測を統合するのに適切な方法論も必要である。われわれは、持続可能な開発目標(SDGs)に革新的な方法で貢献するこの取り組みに、多くの政府機関、および民間、非政府機関が参加してくれることを望んでいる。(了)

  1. ※1ダウンスケーリング=広域の数値モデルで計算された低解像度の外洋域の結果を境界条件として利用して、より小さな計算領域である沿岸域の数値モデルを高解像度で計算すること。
  2. ※2データ同化=天気予報などの分野において数値モデルの再現性を高めるために利用される手法。数値モデルの予測結果に含まれる誤差を、実際の観測値を利用して修正することで、より精度の高い予測ができるようになる。.
  3. 本稿は、英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻訳まとめたものです。原文は、本財団HP https://www.spf.org/en/opri/newsletter/でご覧いただけます。
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