Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第514号(2022.01.05発行)

領海外水域の開発と法~洋上風力発電のEEZへの展開を例に~

[KEYWORDS] 排他的経済水域(EEZ)/洋上風力発電/主権的権利
横浜国立大学名誉教授、放送大学名誉教授、第14回海洋立国推進功労者表彰受賞◆來生 新

今後のわが国の重要政策であるカーボンニュートラルの達成に向けた一手段である洋上風力発電を例に、領海内一般海域への展開を越えて、EEZへの進出を図る際の、法的問題を検討したい。
洋上風力発電の規制権限が国連海洋法条約における主権的権利に制限なしに含まれるか、最終的に国内法の適用がどのように行われるか等の問題がある。このような国際法・国内法の議論を通して、EEZへの洋上風力発電の展開が進むことが望まれる。

カーボンニュートラルと洋上風力発電

先進諸国での2050年カーボンニュートラルを目指す動きにならい、わが国においても2020年10月菅内閣発足時の総理所信表明演説で、その目標が示された。2050年のカーボンニュートラル達成は、今後のわが国の継続する重要政策である。
本稿は、この政策実現の重要な一手段である洋上風力発電が、領海内一般海域への展開を越えて、排他的経済水域(以下EEZ)への進出を図る際の、法的問題を検討する。この検討を、EEZ・大陸棚の総合的な開発・利用・保全の本格的発展のための具体的な手掛かりとしたい。

風力発電の展開─陸からEEZへ

わが国の風力発電は京都議定書が採択された1997(平成9)年以降本格化した。風況や設置コストの関係で、陸上から始まった風力発電の適地不足が顕著となり、2016(平成28)年、港湾法改正により、港湾区域での風力発電のために、公募占用許可制度が導入された。
陸と海の交通の接点である港湾区域内では、港湾管理者が空間を一元的に管理するため、発電事業者と漁業や他の港湾利用者、自治体との利害関係の調整は、一般海域に比較して容易である※1。また、広大な港湾空間の活用にもつながるため、港湾区域内の風力発電は、風力発電の本格的な洋上進出の第一段階として制度化された。しかし、港湾における風力発電には、船舶運送機能との調整が必要になることや、港湾区域内の限られた空間利用であり、規模の経済性発揮の難しさがあった。
再生可能エネルギーのより一層の活用のために、諸外国のウィンドファームの例に倣う大規模洋上風力発電の導入が望まれ、そのような要請にこたえるべく、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(略称 再エネ海域利用促進法)(平成30年法律第89号)が、管理者不在の一般海域での洋上風力発電の立地促進のために制定された※2。現在、この法律に基づいて、促進区域や有望な区域の選定が進められ、領海内での風力発電事業が展開されつつある。

EEZ への洋上風力発電の展開の法的問題

英国における領海外の洋上風力発電所(Dudgeon Offshore Wind Farm)写真:Jan Arne Wold (c)Equinor

このように、わが国領海内での大規模な洋上風力発電が具体化する一方で、より積極的に広大なEEZにおける風力発電の導入を検討する動きが始まっている。EEZでの風力発電の様々な検討の前提となる法的問題として、洋上風力発電の規制権限が国連海洋法条約における主権的権利に制限なしに含まれるか、最終的に国内法の適用がどのように行われるか等の問題がある。以下に検討する。
海洋法条約56条1項aは、沿岸国が「EEZにおける経済的な目的で行われる探査及び開発のためのその他の活動(海水、海流および風からのエネルギーの生産等)に関する主権的権利」を持つと定める。海水、海流、風からのエネルギー生産の規制は沿岸国の主権的権利である。
主権的権利は、公海の一部であるEEZに、国際合意によって沿岸国が領海で持つ主権と同等の権限を認める妥協的な概念である。それゆえ、国際合意の内容によって、行使しうる主権の一部は制限されうる。海洋法条約58条は、EEZにおける他国の権利を定める。
洋上風力の風車等を仮に「ふね」だと観念すると、船舶航行の自由との関係での問題整理が必要となる。一般的には「ふね」は浮動性、移動性、積載性のすべてを満たすものとして考えられており※3、洋上風力発電活動に用いられる装置は、浮体式であっても固定されるものであることを考えると、これを「ふね」として観念するのは妥当ではない※4
このように考えると、これらの他国の権利は、経済的目的で行われる活動である風力発電に関して、沿岸国に具体的な制限を加えるものではない。また、海洋法条約60条は、沿岸国が、人工島、施設及び構築物に対して、通関上、財政上、保健上、安全上および出入国管理上の法令に関する管轄権を含む、排他的権利を有することを認めている。
以上を総合すると、国連海洋法条約との関係では、EEZにおいて、わが国は風からのエネルギー生産に関する主権的権利を有し、その施設について、通関上、財政上、保健上、安全上および出入国管理上の法令に関する排他的管轄権を有するといえる。次に、国内法的な問題を整理する。
わが国のEEZおよび大陸棚に関する法律3条は、「天然資源の探査、開発、保存及び管理、人工島、施設及び構築物の設置、建設、運用及び利用、海洋環境の保護及び保全並びに海洋の科学的調査」について国内法を適用すると定める。関連国内法として、再エネ海域利用促進法が存在しており、同法がEEZにおいても適用されることとなる。
しかし、同法には地方公共団体が重要な役割を果たす規定も多く、EEZの特定海域に利害関係を持つ地方公共団体の特定は難しい。
EEZおよび大陸棚法は、3条3項で「当該法令が適用される水域が我が国の領域外であることその他当該水域における特別の事情を考慮して合理的に必要と認められる範囲内において、政令で、当該法令の適用関係の整理又は調整のため必要な事項を定めることができる」と定めており、その定めが必要になると考えられる。
2050年目標達成に向けて、洋上風力発電のEEZ への展開は必至であり、そのために一刻も早く国としての国際法、国内法の整理がなされることが望まれる。(了)

  1. ※1塩原泰 中原裕幸「わが国一般海域における洋上風力発電事業の実施にかかわる法的問題について」 日本海洋政策学会誌第6号(2016年)87~100頁
  2. ※2來生新「『海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律案』の紹介、その意義と展望の検討」 日本海洋政策学会誌第8号(2018年)14~28頁.
  3. ※3海洋法条約上「ふね」の一般的定義はなく、日本法においても「ふね」の定義は法律ごとに異なる。
  4. ※4再エネ海域利用促進法2条2項は、ふねとは異なる「発電設備」として定義する。.

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