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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第514号(2022.1.5 発行)

「国連海洋科学の10年」における日米パートナーシップの強化

[KEYWORDS] 気候変動/海洋科学/ブルーエコノミー
NOAA(米国海洋大気庁)長官◆Richard SPINRAD

われわれが世界中で深刻化する気候変動の影響に直面していることは既に疑いの余地はない一方で、より悲惨で大きな損失を避けるための時間的余裕はわずかしかない。
気候危機、とくに海洋危機への解決に向けて進むためには、日米間のパートナーシップ強化が不可欠である。
「国連海洋科学の10年」では、海洋と気候のつながりについてのわれわれの知識不足への対応を求めており、「日米気候パートナーシップ」の目標を達成するため立ち上がらなくてはならない。

気候変動のコンセンサス

2021年、世界中の科学者は、気候がどのように変化しているのか、それがなぜなのかについてコンセンサスに達した。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(第1作業部会)は、人間の影響が気候変化の原因となっていることを明確に示している。その報告書は、われわれが長年感じてきたことを明らかにした。つまり、気候は既に変化しており、その影響が急速に激化しているのだ。
行動を求める声は大きく、明白だ。日本の気象庁気象研究所の報告によれば、近年日本では、襲来する台風の回数と強さが増しており、記録的な気温や壊滅的な土砂崩れをもたらす洪水に何度も見舞われて死者も出ている。同じような異常事象は米国でも増加している。この1年間に記録的規模の山火事や洪水、極端な気温を経験してきた。気候危機への取り組みはバイデン大統領にとって最優先事項で、就任後すぐに「パリ協定」に復帰し、気候リーダーズサミットを主催したことに表れている。われわれが世界中で深刻化する気候変化の影響に直面していることは既に疑いの余地はない一方で、より悲惨で大きな損失を避けるための時間的余裕はわずかしかない。
気候危機における緩和と適応で前進するために、日米間のパートナーシップ強化が不可欠である。2021年4月の日米首脳会談では、気候問題が重要な議題となった。われわれは、「日米気候パートナーシップ」の目標を達成するために立ち上がらなくてはならない。温室効果ガス排出実質ゼロの未来を実現し、気候への強靭性を向上させるためには、官民資金の協力が明白に求められている。「日米競争力・強靭性(CoRe)パートナーシップ」の経済回復目標達成を含めた目標達成には、気候科学が不可欠なのである。 気候危機とは第一に海洋危機である。海洋は、気候変化の緩和においてきわめて重要な役割を果たしている。人為起源のCO2年間排出量の約23%と、それらがもたらす余分な熱の90%を吸収しているからである。海洋および沿岸部の生態系は、地球最大のCO2吸収源として機能しているが、この吸収能力は無限ではない。2020年には80%以上の海域で海洋熱波現象が観測されており、海洋の貧酸素化や酸性化の加速も、海洋のCO2吸収が主な原因である。海洋を基盤とする緩和策は、実質排出ゼロ社会の実現に不可欠の部分であり、こうした自然に基づく潜在的解決策を理解するには、やるべきことがまだたくさんある。
「国連海洋科学の10年」は、海洋と気候のつながりについてのわれわれの知識不足への対応を求めている。この10年は、「われわれが望む海洋のために必要な科学」を追求するチャンスである。「持続可能な開発」の部分は、海洋科学の目的が好奇心を満足させるためだけの科学ではなく、社会のための科学であることを思い出させてくれる重要な要素である。
日米の科学者たちは長年、海洋および気候科学の発展を加速するために協働して歴史的な偉業を収めてきた。その好例が、日本で生まれ、教育をうけた米国人、真鍋淑郎博士である(真鍋博士はNOAAの元研究員)。真鍋博士が、「地球の気候の物理モデルを開発し、変動の定量化および地球温暖化の信頼性ある予測に貢献したこと」で、2021年のノーベル物理学賞を受賞されたことをお祝い申し上げる。そして今後も、日米の次世代の科学者たちが、この素晴らしい科学分野のリーダーシップの伝統を継承していってくれることを願っている。

学際的な戦略、ブルーエコノミーの確立に向けて

気候変化における海洋の役割だけでなく、気候変化が海洋や海洋資源、海洋に依存するコミュニティに及ぼす影響を理解するには、まだ多くの課題が残っている。われわれは科学の発展を推進し続けつつ、システム内で起きている諸変化についてわかったことを社会に伝え、適応と強靭性構築に生かさなければならない。このために必要なのは、利害関係者のニーズを知ったうえで革新的かつ伝統にとらわれない超学際的な研究を行うことであり、また、効果的な関与、教育、コミュニケーションの戦略を科学研究機関が持つことである。
新しいブルーエコノミー―海洋から得るデータと情報、知識に基づいて成り立つ概念―は、革新的で新しい気候スマートな製品やサービス、ビジネスを創出する機会をわれわれに提示している。ユーザーに焦点を合わせ、ユーザー主導で創出された、共同設計型の鋭敏な海洋大気観測システムが必要である。海洋と大気の観測システムの統合は、世界気象機関(WMO)とユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)の合同協働評議会(JCB)や全球海洋観測システム(GOOS)関係者によって、社会に次世代の気候、海洋および気象に関する成果物を提供する際の基盤となる次なるステップとして認識されている(図)。既存の観測ネットワークやこれから構築される観測ネットワークを生かして、国レベルおよび国際レベルで海洋研究者と気象関係者との間にある壁だけでなく、観測・研究・モデルリングとの社会経済学・行動学的領域の間の壁も崩さなくてはならない。

図 WMO-IOC合同協働評議会(JCB)とのパートナーシップにおいて提案されている、海洋観測システムへの階層的アプローチ

日米パートナーシップによる気候危機への挑戦

これらに成功するためには、パラダイムを一新して、協働の付加価値を明確化し、われわれ2カ国およびインド・太平洋の同盟国への影響と利益を明示する必要がある。われわれは、海洋および気候双方のモデルや政策、社会経済上の管理ツールに提供すべきデータを意識して、太平洋と北極圏にまたがる次世代観測システムを共同設計することができる。そして海洋および沿岸部のブルーカーボンを考慮することによって、気候危機への解決策としての海洋の役割を探ることができる。ブルーカーボンには、緩和と適応、生物多様性、強靭性にコベネフィットをもたらす可能性がある。われわれ2カ国はそれぞれ海洋研究において素晴らしい実績を持っており、海洋資源管理や自然災害の緩和などの課題への取り組みにおいては、長年にわたり何度も協働の有効性を実証してきた。日米の共同の取り組みには、「国連海洋科学の10年」が終わる2030年までに、気候科学およびそれらを活かす仕組みを変革する力がある。
この目標に向かってわれわれは、日本と2022年に会合を持ち、観測から研究、モデリング、予測、成果物の伝達そして応用と評価に至る流れ全体で、NOAAおよびパートナーとの相乗効果を共に探りたいと考えている。気候変化への適応および強靭化を支え、それぞれの国が単独でできること以上のものを達成するためである。ことわざに言うとおり、「早く行きたければ、一人で行け、遠くまで行きたければ、一緒に行け」である。NOAA長官としての任期の間、地球規模の気候危機に取り組むための永続的で広範囲に及ぶ、学際的な協働関係を構築するために、日本の仲間たちと一緒に歩むことができれば光栄に思う。(了)

  1. 本稿は、英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻訳まとめたものです。原文は、本財団HP https://www.spf.org/en/opri/newsletter/でご覧いただけます。
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