Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第506号(2021.09.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

♦海洋生物の種数は100万種ほどと推定されており、現在は約15万種がOBIS(海洋生物地理情報システム)に登録されている。まだ未記載種は多いが、既知の種だけでも海洋生物は十分に多様である。その生息する生態系は少なからず特有であり、研究者のみならず多くの人々の興味を掻き立てる。海洋調査や遺伝子解析などの技術の進展により、生物自体と生息環境、双方の研究が進み、生態系全体の理解が深まりつつある。その要には、現場の海域を調査する研究者と技術職員の経験と専門知識、さらに熱意があることを本号からお伝えしたい。
♦2021(令和3)年6月3日に瀬戸内海環境保全特別措置法が改正された。新たな目標は、瀬戸内海の未来の環境保全を見据えている点である。生物多様性の保全と水産資源の持続的な利用の双方の確保も図られている。この改正の根拠に、栄養塩の調査・研究が重要であったことを、広島大学名誉教授・放送大学名誉教授の岡田光正氏にご教示いただいた。さらに、改正法では、海域をより細分化し、その現場ごとの実質的で多様な環境保全管理を目指す。それらと瀬戸内海全体との整合性のある管理も期待される。
♦深海の生態系の理解は未だ不十分であるが、最深部が2,500メートルに達する駿河湾の深海では、生態ピラミッドの頂点となるトップ・プレデターの発見があった。新種のヨコヅナイワシがそれであると、JAMSTEC地球環境部門の藤原義弘上席研究員より教えていただいた。功を奏したのは音と光の発生を避けた底延縄とベイトカメラの使用であった。初めて見る全長1.4m、体重25kgの巨大な深海魚が泳ぐ姿は、深海の情報が如何に乏しいかを象徴する。一方で鉱物資源や海洋プラスチックの集積で深海は注目されている。深海の生態系の理解を急ぐ必要がある。
♦臨海実験所の技術職員は何でも屋である。筑波大学の技術職員であった土屋泰孝氏より全国の臨海施設に勤務する技術職員の仕事の一端をご紹介いただいた。臨海施設は大学から離れて立地する海に面した事業所である。技術職員は、地域住民や漁業者と気さくに交流し、その海域の海洋生物に詳しく、フィールド調査で来所する研究者や学生の命を預かる。海の怖さを熟知する技術職員の判断は的確である。最近は、一般の人々に海洋生物を採集する理由や基礎研究の大事さを知ってもらう機会を設け、研究と地域社会との架け橋も担っている。土屋氏は南極観測隊にも参加し、何でも屋の本領を発揮したという。ご一読ください。(窪川かおる)

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