◆2050年までにCO2排出量をゼロとするカーボンニュートラル達成のため、日本は水素社会の実現を目指している。水素はすでに原料として光ファイバー、宇宙ロケットの燃料や肥料などに用いられているが、水素社会とは水素をエネルギーとして活用する社会をいう。経産省は、利用する際にCO2を排出せず、製造する際にCCS(CO2回収・貯留)技術や再生可能エネルギー技術を活用することでCO2フリーのエネルギー源となりうる水素の活用を促している。 ◆西村元彦川崎重工業(株)水素戦略本部副本部長執行役員からは、この水素社会の実装に向けて、水素を「つくり」「はこび」「ためて」「つかう」取り組みの一端をご紹介いただいた。日本のエネルギー政策の基本方針は、安全性(Safety)を大前提に、自給率(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時達成する3E+Sである。豪州ビクトリア州ラトロブバレーの未利用資源である褐炭からガス化・精製して水素を製造し、2021年下期にマイナス235°Cの液化水素を世界初の液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」で神戸と豪州ヘイスティング港間9,000kmを往復する計画であるという。脱炭素社会実現のために、このパイロット実証の成功を祈りたい。 ◆鷲谷いづみ東京大学名誉教授からは、持続可能な社会の実現のために、生物多様性と生態系のはたらきを損なわないインフラ整備のあり方を推奨する生態系インフラストラクチャーについてご寄稿いただいた。われわれが愛でるコンクリート構造物と植栽で作られた景色が、かつてその場所を特徴づけていた自然を覆い隠しているとの指摘には考えさせられる。生態系を防災に生かす「生態系にもとづく災害リスクの軽減(Ecosystem-basedDisaster Risk Reduction: Eco-DRR)」が、関東地方の渡良瀬遊水地の湿地再生事業に生かされているという。地域の伝統的知識・文化にも目を向けた新たな科学的発想にもとづくインフラ整備の計画や実践は興味深い。 ◆松原 創金沢大学理工学域能登海洋水産センターセンター長からは、能登トラフグのオーガニック陸上養殖への取り組みについてご説明いただいた。農業分野におけるオーガニック(有機)作物はよく知られているが、水産物のオーガニックは試行錯誤のレベルにあるという。能登地域が天然ふぐ類漁獲量日本一であることも、水産物養殖では農水省が承認したもの以外を水中に投与してはいけないとの厳しい管理があることも初めて知った。能登ブランドの持続可能な養殖技術の開発の成功を祈りたい。(坂元茂樹)
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