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オーシャンニュースレター

第503号(2021.07.20発行)

国際海運ゼロエミッション化とわが国造船業の対応

[KEYWORDS]海運経済/遷移シミュレータ/システムオブシステムズ
(一財)次世代環境船舶開発センター理事長、横浜国立大学客員教授、東京大学名誉教授◆大和裕幸

国際海運に従事する船舶のゼロエミッション化では、新しい舶用機関とその燃料並びに船体の抵抗削減などの技術開発が最重要課題である。一方、国際環境規制への対応、新燃料供給インフラの整備、将来輸送需要の見極め、ファイナンスの在り方などを検討し、海運経済ステークホルダーの発展も順調でなくてはならない。
造船業界は技術と経済の両面から俯瞰的かつ将来予測的検討を行い、それを示すことで海事クラスターと力をあわせて国際海運ゼロエミッション化に最適な船舶システムを提案・供給しなくてはならない。

国際海運の温室効果ガス削減方針

国際海運の温室効果ガス(GHG)の排出削減対応は国際海事機関(IMO)で議論され、2008年を基準として、2030年には排出量の原単位で40パーセント以上の改善、2050年には総量として50パーセント以上の削減、今世紀中のなるべく早い時期に排出量ゼロにすることが取り決められている。今後は燃費実績による船舶の格付け制度などによる船舶の更新促進策も実施される可能性が高い。また2021年4月には気候変動首脳会議が開催され、米国と中国の積極的な対応で削減計画はかなり前倒しされそうである。わが国としては、政府のグリーンイノベーション戦略もあり2050年ころの完了を目標として、ゼロエミッション国際海運に対応する船舶を供給することが極めて重要である。

環境対応船舶設計の考え方

外航船の場合には、重油を燃料とするディーゼル機関から二酸化炭素が大量に排出される。そのため、機関と利用燃料の転換が中心課題である。現在は重油からLNG(液化天然ガス)への転換が図られているが、やがて稼働中にまったく二酸化炭素を排出しないアンモニアや水素を燃料にするか、内燃機関から燃料電池に転換するか、あるいは重油やLNGを燃料としながら排出二酸化炭素を船上で回収するなどの方法が、現在考えられている技術オプションである。いずれも開発中の技術である。実際にはゼロエミッションまで重油からLNG、そしてアンモニアへというような、燃料と機関の数次にわたる遷移をどう計画するかが課題である。
2020年3月に、日本財団支援・(一財)日本船舶技術研究協会主催・国土交通省共催の「国際海運GHGゼロエミッションプロジェクト」の報告が『国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ』として公表された(図1)。「研究開発及び実用化」のうち水素燃料、アンモニア燃料、LNG/カーボンリサイクルメタン/バイオメタン燃料の研究開発が平行して実施されるが、最終的にどれを採用するかが問題である。この報告書にはそれぞれの機関を採用した場合の船舶の試設計例も示されている。機関と燃料が決まれば、様々な工夫と相応のコストは必要であるが船舶の設計は可能である。
なお、2040年頃には造船国ならどこでもゼロエミッション船を製造できるようになり、現在と同じ価格競争の時代になる。それに備えてデジタル技術などによる高付加価値船を併せて開発することも極めて重要である。

■図1 (一財)日本船舶技術研究協会による国際海運のゼロエミッション化に向けたロードマップ((一財)日本船舶技術研究協会:国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ報告書、2020.3 https://www.jstra.jp/information/PDF/roadmap_info.pdfをもとに筆者作成)

海運経済の実態の把握

ゼロエミッション化ではG7やIMO等の環境規制等が先行しているが、運賃等の高騰も予想され、環境対応のための新たなファイナンス制度も必要である。海運経済の実態が環境規制に時間的経済的に適合できるかを考えることも重要である。国際海運に参加するステークホルダーの関係を概念的に示すと図2のようになる。事業等を分析評価するシステムオブシステムズ手法では、これに続けてステークホルダーの動きを定義し、全体をシミュレーションして環境や経済の指標や各ステークホルダーの経済的パーフォーマンス等を求める。すなわち図1の開発・集約・完了期の各段階で、図2に含まれる国や国際機関の関与を想定し、技術と経済の遷移を表現するシミュレータを作成し、もっとも合理的に目的を達成し、かつステークホルダーが満足する遷移シナリオを見いだすことである。これによって社会に受け入れられる船舶を決定できる。造船業界が中心となって検討し、各ステークホルダーに示すべきである。

■図2 国際海運のステークホルダー・バリュー・ネットワーク(SVN)概略図

わが国が先導する国際海運ゼロエミッション化と造船業の役割

造船業界が取り組むゼロエミッション船の設計は、機関と燃料の技術開発と燃料供給インフラの進展、将来需要、環境規制などの未確定条件を想定し、ステークホルダーのメリットも考えて、どのような船舶をいつ頃投入して、ゼロエミッション国際海運を実現するかという多分野協調システムの時間軸上の設計である。当然ながら造船業のみでは解は得られず、相互信頼に篤く、強力な海事クラスターの活動が不可欠である。新しい手法から得られる設計や経済データをもとにアイデア出しなどの具体的な討論をする場が様々に必要である。国際海運ゼロエミッション化は、海事クラスターが力を合わせて確実な将来を作り出す絶好のチャンスであり、造船業の役割も明確である。(了)

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