Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第501号(2021.06.20発行)

違法な漁業活動の解決に向けた多国間協力と課題

[KEYWORDS]IUU漁業/地域漁業管理機関/監視・管理・取締
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員◆藤井 巌

地域漁業管理機関(RFMO)は、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の問題解決における重要な役割を担う。
RFMOの取り組みには、船舶監視装置(VMS)を用いた漁船監視などの様々なものがある。
しかし、これらの取り組みには、まだまだ課題も存在する。
IUU漁業の解決には、RFMO加盟国や関係国間のさらなる関係強化が重要である。

IUU漁業が及ぼす影響

国連食糧農業機関(FAO)の最新の報告によると、2018年時点の世界の漁獲量は約9,640万tである。漁獲量は1980年代から横ばいの傾向にあるが、「過剰に漁獲されている」水産資源は全漁獲量の34.2%に達し、増加傾向にある(2017年時点)※1。獲りすぎに加えて、世界の水産資源の減少に拍車をかけているのが、違法・無報告・無規制漁業である。違法の“Illegal”、無報告の“Unreported”、無規制の“Unregulated”のそれぞれの頭文字を取って「IUU 漁業」と呼ばれる。違法漁業とは法律に違反した漁業、無報告漁業とは漁獲量を報告しなかったり、虚偽の報告をしたりする漁業、無規制漁業とは、規制逃れをして漁業をすることを指す。
無規制漁業の具体例には、ある特定の海域で規制を受けない国籍の船舶(便宜置籍船)による操業が挙げられる。便宜置籍船による漁業では、地域漁業管理機関(Regional FisheriesManagement Organization:RFMO)が管理する公海等の海域で、RFMO加盟国以外の国籍の船舶を用いて規制を逃れながら操業することが可能なため、資源管理上の問題となっている。違法・無報告漁業による漁獲は最大2,600万トンにも達するという推定があり、この問題の深刻さがうかがえる※2。また、IUU 漁業は公式な漁獲量などの科学データに反映されにくいことから、それに基づいて行われる水産資源管理の正確性にも影響を及ぼす。

RFMOのIUU漁業対策と課題

台湾・高雄の遠洋漁船基地に停泊している便宜置籍船(筆者撮影)

IUU漁業の問題解決に向けて、世界で数多くの取り組みが実施されている。特に重要な役割を担うのが、地域漁業管理機関(RFMO)である※3。RFMOは海域(主に公海)ごとに漁業国、沿岸国が共同で水産資源管理を行っていくために設立された機関である。RFMOには“TunaRFMO”と呼ばれるまぐろ類を管理するRFMOと、それ以外の魚種、例えば、サンマやサバなどの浮魚や、キンメダイやメロなどの底魚を扱うRFMOがある。日本は中西部大西洋まぐろ類委員会(WCPFC)やインド洋まぐろ類委員会(IOTC)を含む5つのTuna RFMOや、北太平洋漁業委員会(NPFC)等に加盟している。特に、NPFCでは、近年不漁が続くサンマなどの水産資源をめぐって、中国や台湾を含む周辺国との漁獲量の調整や資源管理強化が求められている。そのため、同機関は日本にとって、資源管理やIUU漁業の問題解決の側面で果たす役割は大きい。
RFMOがIUU漁業の問題解決に向けて行っている取り組みには、様々なものがある。取り組みの主なものには、船舶監視装置(VMS)を用いた漁船監視、乗船オブザーバーや公海乗船検査による洋上からの監視が挙げられる。まず、VMSについてであるが、RFMOが管理を行う海域で操業する漁船は、同装置を用いてその位置情報を常に示す必要がある。乗船オブザーバーについては、漁船員以外の乗組員が同乗し、水産資源管理に関する科学データの収集に加えて、漁船の資源管理に関するルールへの遵守状況を確認する。また、公海乗船検査については、RFMO加盟国の取締船が、違法操業の疑いのある漁船に乗入れ、資源管理ルールの遵守状況を確認する。漁船の監視・取締と共に重要なのが、漁船の管理である。RFMOは、登録を行った漁船にのみ操業するための許可を出すとともに、正規の漁業許可を受けた漁船および違法な操業を行った漁船をそれぞれ正規許可船リスト(ポジティブリスト)、IUU 船舶リスト(ネガティブリスト)として、ホームページ上で公開している。その他の重要な取り組みには、漁船の寄港国に対する対応(寄港国措置)、漁船が洋上で漁獲物を他の船舶に移し替える際(洋上転載)の監視、便宜置籍船への対応などがある。IUU 漁業の問題解決に向けたRFMOの取り組み内容は各機関によって異なる。また、NPFC(2015年設立)のような比較的新しいRFMOでは、現在様々な取り組みが整備・強化されようとしている。
しかし、RFMOのIUU 漁業対策に関する取り組みには、多くの課題が報告されている。これらには、VMSや乗船オブザーバー、IUU 船舶リストに関連するものが含まれる。VMSについては、装置の未搭載や、その電源を意図的に切るといったルールへの遵守違反の問題がある。さらに、VMSを漁船に搭載する際にかかるコストを漁業者が負担できず、その普及が進まないといった経済的な問題がある。特に、経済的問題については、途上国が加盟国の多くを占めるIOTCで報告されている。乗船オブザーバーについては、IOTCの加盟国でオブザーバー体制の構築が進んでいない問題がある。さらに、WCPFC等では、乗船オブザーバーの洋上での安全確保が、深刻な問題として議論されている。IUU 船舶リストについては、掲載が提案されている漁船が籍を置く国(旗国)からの返答がないことや、そもそも漁船の責任者(船長なのか、運航者なのか)に関する定義が不明瞭といった問題がある。さらに、船体表示がなく、船籍や船名等が判明していない漁船が多いため、リストの掲載にまで至らない等の問題があり、これは公海で漁船を監視する際の問題にもなっている。

IUU 漁業の解決に向けて

IUU漁業の解決には、RFMOにおける監視・管理・取締能力強化が喫緊の課題となる。この課題解決において最も重要なことは、RFMOの機能向上とともに、これら機関を構成する各加盟国の水産資源管理ルール遵守能力の強化であろう。そのためにも、RFMOの加盟国同士で様々な協力関係が構築されたり、能力開発支援が実施されたりしている。その代表例が、太平洋島嶼国で構成される太平洋諸島フォーラムである。同フォーラムでは、太平洋島嶼国がVMSの情報を共有し漁船の監視を行ったり、共同パトロールを実施したりしている。また、日本のような先進国は、これらの国への能力開発を目的に基金を立ち上げ、長期的な支援を行っている。しかし、RFMOの加盟国には、漁船の監視・管理・取締に関する能力が不足しているだけでなく、自国の漁船の管理がままならなかったり、自国の漁獲データが十分に取られていなかったり等の、より根本的な問題を抱えているところもある。IUU 漁業の解決には、各国が抱える監視・管理・取締上の問題に対処すべく、RFMO 加盟国や関係国間のさらなる関係強化が重要である。また、二国間あるいは多国間での長期的な支援を継続・強化し、RFMOが抱える課題を解決していくことが求められる。(了)

  1. ※1Food and Agriculture Organization of the United Nations. (2020). The State of World Fisheries and Aquaculture 2020. (http://www.fao.org/3/ca9229en/ca9229en.pdf)
  2. ※2Agnew, D. J., Pearce, J., Pramod, G., Peatman, T., Watson, R., Beddington, J. R., & Pitcher, T. J. (2009). Estimating the worldwide extent of illegal fishing. PloS ONE, 4(2), e4570
  3. ※3IUU漁業の取り組みに関しては、宮原正典著「IUU漁業の撲滅にむけて ~研究機関の取り組み~」本誌第452号(2019.6.5発行)ソープ佳奈/小谷野祥浩著「日本市場におけるIUU水産物排除に向けて」本誌第465号(2019.12.20発行)も参照ください。

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