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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第452号(2019.6.5 発行)

IUU漁業の撲滅にむけて ~研究機関の取り組み~

[KEYWORDS]IUU漁業/衛星情報/国際共同研究
(国研)水産研究・教育機構理事長◆宮原正典

IUU漁業の存在は、世界の海洋における水産資源の持続的な利用にとって大きな脅威である。
関係国や地域漁業管理機関の活動には限界もあることから、(国研)水産研究・教育機構では人工衛星画像などの先端技術を駆使して、わが国周辺の水産資源管理が適切に行えるように情報解析を進めるとともに、関係機関と連携して実態を解析・公表することによりIUU漁業の根絶をはかろうとしている。

IUU漁業とは

IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)とは、密漁や禁止漁具の使用などの違法(Illegal)漁業、漁獲量を報告しなかったり少なく報告したりする無報告(Unreported)漁業、漁船が所属している国家や操業海域の規制に従わない無規制(Unregulated)漁業、の3種類をまとめて指す言葉である。これらIUU漁業の存在は、漁獲量情報をもとに資源を管理していこうとする現在の資源管理手法を根底から覆し、資源の持続的な利用にとって大きな脅威である。FAO(国連食糧農業機関)によれば、世界の海洋水産資源は長期的な減少傾向にあり、2015年には持続可能な満限まで利用されている資源の割合は59.9%となった。一方で過剰漁獲の状態にある資源は全体の33.1%に及ぶとされ、未だ増産余力のある資源はわずか7%にまで低下した。世界の海洋における水産資源に対する徹底した資源管理が強く求められている中にあって、IUU漁業の撲滅は水産資源を広く利用してきたわが国にとっても重要な課題である。

わが国周辺におけるIUU漁業とその影響

わが国周辺におけるIUU漁業が注目を浴びたのは、2014年に沖縄県や小笠原諸島近海に200隻を超える中国漁船が集結し、高価で貴重なサンゴ資源を集団的違法操業により大規模に採捕したことに始まる。2016年には、北西太平洋公海域において新たな漁法(虎網)※1を用いた中国漁船等によるマサバ漁業の集団的操業が大規模に展開された。この中には、中国の正規の許可を受けた漁船の他に、異なる船が同じ船名を表示している事例、船の左右に異なる名前を付けている事例、同じ船が船名をしばしば書き換えていたりする違法行為などが多数認められ、いずれも中国起源と推定された。さらに2017年には、日本海の大和堆付近において北朝鮮の木造イカ釣り漁船による集団的違法操業が顕在化し、わが国のイカ釣り漁船の操業が妨害される事態に発展した。
こうした報道以前にも東シナ海では、虎網漁船を含む多数の中国漁船による大規模な操業が確認されていた。中国漁船の多くが集魚灯を用いた夜間の操業を行っていることから、(国研)水産研究・教育機構(以下、水研機構)では、2014年から米国NOAA(海洋大気庁)が運用する極軌道衛星「スオミNPP」が夜間に撮影した北西太平洋の画像データを入手し、とくに東シナ海について夜間光画像による操業実態の把握を試みてきた。その後、対象海域を北西太平洋と日本海にも拡大し、人工衛星による水温情報、AIS(自動船舶識別装置)の情報を総合的に解析することにより、資源評価の精度向上を目的とした外国漁船の漁獲量推定を試みてきた。2016年には、北太平洋公海域において中国漁船等によるサバ類を対象とする漁業が活発化したことから、夜間光画像データだけでなく運搬船のAIS情報や、操業聞き取り情報などを総合して中国漁船によるマサバ漁獲量を推定した。その結果、中国漁船は漁獲物を水揚げするために頻繁に帰港することなく、運搬船を利用することにより数カ月にわたって操業している実態が確認されるとともに、解析した漁船の中に無登録のIUU漁船と思われるものが多数含まれていることも判明した。運搬船の魚倉や冷凍機の容量等から漁獲量を推定した結果、この海域におけるマサバ漁獲量は中国漁船が正規に報告した年間漁獲量の約2倍と推定され、IUU漁業による漁獲量が15~25万トンに達することも推定された※2
水研機構では、その後も継続して東シナ海・北西太平洋・日本海の3海域について、夜間光画像データを中心とした解析作業を日常的に行っており、解析結果は水産庁の取り締まり業務にも日々活用されている(図1)。さらに本年4月からは、新たに漁業情報解析室を発足させ、人工衛星画像等を用いた調査研究活動の一層の活性化を図っている。

図1 水産庁報道資料 「平成29年日本海大和堆周辺水域における違法操業と対応状況」
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kanri/attach/pdf/180220-2.pdf
図中の○(丸印)は、夜間の衛星画像から光を抽出したもので、全てが操業中の漁船ではなく、航行中の漁船や一般船舶なども含まれる。○(丸印)の色は、明るさの度合いを表す。明るさ:水色<青<黄<橙<赤。水色~青色は、北朝鮮漁船等小型漁船、黄色は、北朝鮮漁船等中型漁船、橙~赤色は、中国漁船、韓国漁船、日本漁船と推測。

IUU漁業撲滅にむけたモニタリング体制

IUU漁業撲滅にむけた世界的な活動として特筆されるのは、2017年6月に設立された国際的非営利団体であるグローバル・フィッシング・ウォッチ(Global Fishing Watch、以下GFW)※3であろう。GFWは、漁業の透明性を通して海洋の持続可能性を促進することを目的にGoogle他により設立され、AIを駆使して人工衛星・AIS・VMS(船舶監視システム)等による情報を解析することにより、漁業活動だけでなく洋上転載の実態などを地球規模で可視化・公表する取り組みを行っている。
解析された情報は、科学調査、海洋水産政策、漁業管理の適正化等のために利用できるようインターネットを通じて一般に公開され、誰でも無償でリアルタイムに近い情報が入手できる仕組みとなっている。公開されている情報は、2012年1月1日から現在までの期間について、毎日30万隻以上におよぶ船舶のAIS情報等を解析することにより得られた約6万隻の商業漁船に関するものであり、各漁船の航跡が船名および国籍とともに、GFWのHP上で確認できるシステムとなっている。約85%の漁船はAISやVMSによる追跡が不可能なため、「スオミNPP」の夜間光データを用いて、集魚灯などの灯火が用いられる夜間の操業についても併せて解析し、操業を行った漁船の位置がHP上に表示される仕組みとなっている(図2)。
水研機構では、科学者間での国際ワークショップなどを通じて、GFWを含めた関係機関との交流を進めてきた。この過程で、夜間光データに関する水研機構の解析アルゴリズムをNOAAの解析結果と比較したところ、月明かりのない晴天下では解析結果にほとんど違いはなかったが、NOAAの解析ではノイズ除去が優れている一方、水研機構の解析で認められる木造船など光が弱い船の情報は抽出されていないなど、解析結果には違いが認められることがわかってきている。また、衛星からの情報だけでなく実際の目視情報やレーダー画像などとのデータの照合検証も、水研機構の解析の大きな特徴である。
こうした研究交流は双方の機関にとっても大きなメリットがあることから、水研機構では、2018年9月3日にGFWと豪州ウーロンゴン大学・豪州国立海洋資源安全保障センターとの3者間で、IUU漁業解明についての研究協力に関する覚書を締結した。この研究協力によって、IUU漁業の実態解明と資源への影響評価を行い、結果を広く公開するとともに問題提起を行っていくこととしている。その第一弾として、日本近海におけるIUU漁業に関するレポートを公表する準備が現在進められている。また、6月5日の「IUU漁業対策に関する国際日」の前には、3者の活動について政府やマスコミ関係者などに広く情報を説明する機会も予定している。(了)

■図2
Global Fishing Watchによる2018年7~8月2カ月間の解析結果。夜間光画像による解析から、日本のEEZ境界線外側で灯火操業が活発なことがわかる(上図 黄色)。AIS情報に基づく解析では灯火を使わない漁業活動も確認でき(下図 水色)、洋上転載の状況も推定できる(下図:赤丸)
  1. ※1虎網: 強力な光を放つ集魚灯を使用する日本のまき網漁法に類似した漁法 (有嚢灯光まき網)
  2. ※2Y. Oozeki et al. (2018) Reliable estimation of IUU fishing catch amounts in the northwestern Pacific adjacent to the Japanese EEZ: Potential for usage of satellite remote sensing images. Marine Policy 88, 64-74
  3. ※3GFW: Ocean Newsletter 431号参照 (https://www.spf.org/opri/newsletter/431_3.html)
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