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第497号(2021.4.20 発行)

水産業の外国人依存と持続性問題

[KEYWORDS]外国人技能実習生/海技士不足/コロナ禍
北海道大学大学院水産科学研究院准教授◆佐々木貴文

日本の水産業は「人材枯渇産業」となっている。
人材送り出し機能を有してきた漁村は疲弊し、後継者を育てることができていない。
そうしたなか、外国人労働力は即戦力として期待される存在となった。その量的拡大は著しい。
しかしそのことが、日本の水産業の持続性に黄色信号をともすリスクにもなっている。
本稿では現状分析とともに、海技士不足問題や今般のコロナ禍に起因する入国制限問題など、その「副作用」についても解説する。

深刻となる水産業における労働力問題

日本の水産業は、養殖業を含む漁業と、漁業によってもたらされた資源を食品等に加工する水産加工業によって形作られている。今日、これらいずれの分野でも、労働力不足の問題が深刻化している。
沿岸漁船漁業や定置網漁業では、漁撈所得の低迷にともなった後継者不足が問題視されており、養殖業でも、カキやホタテなどの貝類養殖の陸上作業を担う労働力の不足が深刻化している。要因には、少子化や若年層の都市部への流出を背景とした漁村(漁港背後集落)の高齢化・空洞化があり、2019年現在、漁村の高齢化率は39.7%にも達している。
沖合漁業も、厳しい労働環境が敬遠材料となって人材不足に悩まされている。若手だけでなく中堅乗組員の確保にも苦労しており、産業の持続性に暗い影を落としている。遠洋漁業では、200カイリ体制下での経営環境の悪化から、経費削減を目指した人件費の圧縮も進められてきた。
漁業の厳しい現実は、漁業就業者数の減少として表出しており、わずか四半世紀で53.3%もの減少となった。2018年現在では151,701人にまでその数を減らしている。
深刻さでいえば水産加工業も予断を許さない。水産加工場は沿海部に立地するケースが多く、漁家構成員を含む漁村背後集落の住民を主要な労働力としてきた。しかし上述の漁村の疲弊、高齢化がみられるなかでその安定確保は困難となっている。国勢調査から水産食料品製造業の従事者数の推移をみると、2000年の221,537人が2015年には165,390人へと25%以上の減少となった。この間、従事者の65歳以上の割合は、8.3%から14.7%にまで高まっている。

拡大する外国人労働力依存の実態

労働力事情が厳しさを増すなか、水産業は外国人労働力への依存に大きく舵を切っている。沿岸漁業や沖合漁業では主に外国人技能実習制度によって、そして遠洋漁業ではマルシップ制度※1によって労働力の確保をおこなっている。水産加工業では外国人技能実習制度に頼りつつも、在留資格「特定技能」で働く者や日系人等の活用もみられる。
漁業におけるその人数は、2018年現在、遠洋漁船に乗り組むマルシップ船員が4,628人、沖合漁船に乗り組む技能実習生が1,600人、定置網漁業で働く技能実習生が138人、カキ・ホタテ養殖に従事する技能実習生が1,851人などとなっている。
マルシップ船員は遠洋漁船の減少から縮小傾向にあり、2013年の5,255人が2018年には4,628人へと減少したものの、沖合漁業で働く技能実習生は同じ期間に1,000人から1,600人へと1.6倍に拡大した。ひき網漁業やまき網漁業での導入拡大がけん引した。定置網漁業も42人から138人へと大きく拡大した。
養殖業への技能実習生の導入は、むき身作業で人手が必要なカキ類養殖が先行し、近年はホタテガイ養殖にも導入が進んだことで、総数の水準切り上げがみられている。2013年にカキ類養殖677人、ホタテガイ養殖11人の計688人であったものが、2018年にはカキ類養殖1,471人、ホタテガイ養殖380人の計1,851人へと2.7倍にも増大した(図参照)。
水産加工業で働く外国人労働者数は、こうした漁業のそれを大きく上回っている。漁業センサスでは、2008年の11,629人が2013年には13,458人に、そして2018年には17,339人へとボリュームを拡大した。この間、日本人の従事者数が2割弱減少したことによる外国人比率の上昇も見過ごせず、2008年の5.5%が2013年には7.1%となり、2018年にはついに10.1%と二桁の大台に到達した。

近海マグロはえ縄漁船で働くマルシップ船員

■図 貝類養殖業への外国人技能実習生の導入推移(単位:人)(出典:水産庁資料より作成)

外国人労働力依存がもたらす副作用

現在、日本の水産業が産業規模を維持するためには、外国人労働力を頼りにするほか選択肢がない状況となっている。こうしたなか、外国人労働力の導入拡大で活路を見出そうとした水産業は、しかし一方で、リスクを蓄積するようになった。食料供給能力の高い沖合・遠洋漁業であれば、外国人依存の副作用は幹部乗組員である海技士不足となって顕在化するようになった。2017年現在、漁船海技士の年齢構成は60~64歳の層が最大となっており、55歳以上の年齢層が占める割合も48.8%になっている。海技士が「高齢化」した要因には、漁船が若年労働力として外国人を積極採用してきたことがあった。この影響で若手日本人の採用は絞り込まれ、乗船履歴を積み上げて海技士資格を取得していく日本人の層が薄くなった。
もちろん要因はこれだけではなく、水産高校で海技免状を取得した者が漁船ではなく、労働環境や賃金水準の良好な商船に乗り組むようになったことなども、漁船海技士不足を生じさせる要因となった。ただいずれにしても、経営体の体力低下が、外国人への依存と日本人が忌避する労働環境・賃金水準を生み出したことは忘れてはいけない。
養殖業や水産加工業については、外国人を多数雇用していることそれ自体がリスクとなっており、今後も長期にわたって安定的に労働力を確保していかなければ産業の存続も難しくなっている。
多くの外国人に依存することが綱渡りであることを知らしめたのが、今般のコロナ禍であった。入国制限は技能実習生の送り出し国であるベトナムや中国など広範囲におよび、水産加工業では技能実習生の補充ができず、欠員がでる工場もみられた。生産ラインの縮小を余儀なくされた工場も、一つや二つではなかった。
外国人労働力の存在が、体力を失いつつある水産業にとって慈雨となってきたことは事実である。しかし雨も降り続けば災害をまねく。日本水産業が、持続的発展が可能な産業として地歩を固めていくためには、今一度外国人労働力への依存のリスクを確認し、労働力構成について大所高所からの点検が必要となっている。(了)

  1. ※1日本法人等が所有する日本船を、いったん外国法人等に貸し出し、その国で外国人船員を乗船させたうえで、貸し出した日本法人等が用船する方式。船名の最後に「丸」の字のある日本式の船名は変わらないことから「マルシップ制」と呼ぶ。
  2. 【主要参考文献】佐々木貴文「水産業における外国人労働力の導入実態と今後の展望」、東京水産振興会『水産振興』(第625号)、2020年10月。
    佐々木貴文「水産業における労働力構造の変化−特定技能制度導入の背景で起きていることとは」、漁業経済学会『漁業経済研究』(第64巻第1号)、2020年3月。
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