Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第495号(2021.03.20発行)

クルーズで知る東京の海

[KEYWORDS]東京湾/リバーガイドボランティア/防災
(公財)東京都公園協会水辺事業部水辺ライン課長◆八馬 稔

東京水辺ラインが運航する3隻の水上バスには、防災船としての責務がある。
防災船が非常時に適切に活動できるように、平常時は隅田川と東京港を中心に旅客船として運航している。
水上バスによるミニクルーズは、ゆったりとした時間の流れを楽しむことができる。
また、ボランティアのリバーガイドによる案内は、船旅の魅力にエッセンスを加えている。

東京水辺ラインの歴史と防災船としての責務

隅田川東岸にあり、相撲の町としても有名な両国の地を拠点として、私ども東京水辺ラインは就航を開始し、2021年に30年目を迎えました。現在の東京水辺ラインは、(公財)東京都公園協会(以下、協会)により運営されています。協会は、東京都建設局所管の政策連携団体で、主として、東京都立の公園や庭園、霊園などの維持管理を担っています。水上バス事業には、1995年から携わるようになりました。これは、財団法人東京都水辺公社により1991年から開始した事業が、協会に引き継がれたことによるものです。そのため、東京都所有の3隻の水上バスについても協会にて運航を継続し、船体の維持管理も担うことになりました。3隻とも現役で活躍しており、事業の要になっています。新型コロナウイルス感染症の影響を受け2020年度の運航数は大幅に減少していますますが※1、2018・2019年度ともに約2,400便を運航し、年間11万~12万人の方々にご乗船いただきました。このように、旅客船として多くのお客様にお楽しみいただいてきた3隻の船舶には、それとは全く異なる役割も与えられています。東京都の所有する船舶として、非常時には、東京都の定める「地域防災計画」のもと、傷病者や救援隊、医療チーム、帰宅困難者や救援物資等の輸送を担う防災船※2として任務を遂行するのです。そのため、各関係機関との災害時対応訓練やテロ対策訓練など非常時に備えた各種訓練は欠かすことができません。2018年度は14回、2019年度は12回と、毎年訓練を重ねています。

クルーズの魅力と楽しみ方

■図1 リバーガイドによる説明

防災船や防災船着場を有効活用し、非常時の活動に備えて乗組員の操船技術の習熟を図り、防災船着場の異常確認なども兼ねる目的で、平常時は、隅田川を中心とした水上バスによる旅客船事業を実施しております。クルーズは、両国を起点として、浅草を経由し、お台場や葛西臨海公園を結ぶコースが基本です。いわゆるこの定期便は、江戸情緒あふれる下町地区と近未来的な建物が並ぶ臨海地区を結びます。陸上輸送とは異なり、水上バスのゆったりとした時間の流れの中で、ビル間からの東京スカイツリーや東京タワー、ウォーターズ竹芝などの都内の新旧の名所を、そして臨海部では、日本の経済を担っていると言っても過言ではない大井ふ頭などの船舶荷役施設や大型客船、ジェット船等の迫力ある姿を、船上からご覧いただくことができます。吾妻橋や両国橋、永代橋など、名の知られた歴史ある橋を間近に感じることもできます。春には護岸の桜など季節感も味わえます。月1回程度ではありますが、隅田川を上流に向かい、岩淵水門を抜けて、荒川を南下し、東京港臨海部に至る大回りコースも運航しております。隅田川上流部では、防災船の強みである天井の低さを生かし、低い橋桁も気にすることなく進むさまに、ご乗船いただく多くの方々から歓声が上がります。
また、船のクルーズと各種イベントを組み合わせたイベント便も人気があり、2018年度は19回、2019年度は22回のイベント便を実施しました。これまでにご好評を得た例として、船に乗って寄席に向かい落語を楽しむ寄席便や、船と町歩きや歴史散策を絡めたもの、船で鍋料理や和菓子、東京名物の「もんじゃ」などの食事を楽しむ企画便を運航してきました。2020年度は新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、十分な安全配慮のもと、少人数でお楽しみいただく、講義や町歩きの企画を中心に8月から再開しました。船旅の楽しみとして、景色を目で楽しむことや、風を体で感じること、潮の香を鼻で感じることなどが挙げられますが、東京水辺ラインは耳で楽しむこともできます。感染症拡大に伴い、一時的に活動を自粛しておりますが、本来は週末の便を中心に、特製の法被(はっぴ)をまとったリバーガイドボランティアが添乗し、ご乗船のお客様に向けて、船から見える景色や周辺の歴史、豆知識などを紹介しております(図1)。当然ですが、乗船料のほかには、追加の費用は一切発生しません。リバーガイドボランティアは2004年に発足し、シニア世代を中心に現在24名の方が登録しています。一人ひとりが個性的で味わいのあるガイドを実施しており、乗り合わせたお客様にとって、船旅が一層充実したものになるよう尽力しております。研修を終えたガイド候補生が2020年に新たに加わり、ますます大所帯となりました。感染症の状況によりますが、2021年度からお客様の前で活躍することになっています。東京2020大会の開催が決まった頃からインバウンド需要が高まり、ご乗船されるお客様に占める外国人の割合が飛躍的に伸びました。これを受けて、東京水辺ラインでは2019年に、多言語対応、キャッシュレス対応の券売機を数台導入いたしました。ホームページも15カ国対応のものに刷新しました。運航スケジュールや緊急性のある情報などを各国の言葉で提供できるようになり、事務所へのお問い合わせも格段に減少しました。東京水辺ラインは、2018年2月より、起点となる両国発着場を休止しておりました。これは、両国リバーセンター整備事業によるもので、ホテルを中心とした複合施設にスーパー堤防などが整備され、待合所も新しくなり、2020年8月にオープンしました。今後は両国が起終点となり、浅草方面、台場方面、葛西臨海公園方面を結びます。それに先立ち6月には、浜松町駅近くのウォーターズ竹芝内に新発着場がオープンし、就航を開始しました(図2)。

■図2 東京水辺ラインの航路図
お出かけ前に下記サイトで最新の運航コースや時刻表をご確認ください。
https://www.tokyo-park.or.jp/waterbus/

感染症拡大防止対策について

新型コロナウイルス感染症の拡大がいったん落ち着いた2020年8月後半から、お客様も少しずつ増えて参りました。しかしながら冬の感染再拡大の影響もあり、本格的な客足の回復には、かなりの時間がかかりそうです。東京水辺ラインでは、乗船人数の制限を行い、船内消毒の徹底と船室の常時開放、乗務員のマスク着用、券売カウンターの飛沫防止などを徹底しております。また、お客様には、乗船の際には、マスクの着用、手指のアルコール消毒、体温測定をお願いしております。好天の日には、上部デッキに上っていただき、風を感じながら、より安全な船旅をお楽しみください。
これからも防災船としての本来の使命を忘れることなく、安全第一の東京水辺ラインとして、ますます発展していけるように努力して参ります。(了)

  1. ※12020年度(2021年2月7日現在)1,430便、乗客約3万9千人
  2. ※2東京湾の防災船についてはOcean Newsletter第440号(2018.12.05発行)もご参照ください。https://www.spf.org/opri/newsletter/440_2.html

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