Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第483号(2020.09.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆2020年6月1日の人民網によると、中国の海底石油工程股份有限公司は、同社が担当する海南省の陵水17-2プロジェクトE3〜E2南側海底パイプライン敷設作業で、12インチ海底パイプラインを1,542メートルの海底に敷設するという中国海底パイプ敷設水深の新記録を樹立したという。今回の施工に使われた作業船は「海底石油201」で、中国が独自に設計・建造した初の自航能力をもつ3,000メートル深海パイプ敷設クレーン船である。中国の海洋資源の開発能力が大幅に向上していることがわかる。
◆段烽軍(一財)キヤノングローバル戦略研究所主任研究員と山口健介東京大学公共政策大学院特任講師からは、「中国の海洋進出と科学技術推進」と題してご寄稿いただいた。とかく安全保障の面に関心が向きがちな中国の海洋進出だが、科学技術の推進にも力を入れている現状が紹介されている。2020年、中国が南シナ海におけるメタンハイドレードの洋上産出試験開発で、2月17日から3月18日までの30日の連続生産を実施し、86.14万立法米のガス生産量と2.87万立米の日平均生産量の二つの世界記録を打ち立てたと聞くと驚きを禁じ得ない。ぜひご一読を。
◆水成剛(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員からは、国際航路標識協会(IALA)が、衝突防止のための船舶位置情報交換インフラであるAISの規格を発展させ、より多くのデータ交換を行うためのデータ通信インフラVDESの規格整備を行っていることのご説明をいただいた。VDESには、AISとともに、AISの信号を利用して船舶動静情報以外の情報を交換するASM、さらにはVHFのデータを交換するVDEという3つの機能があるという。このVDESをどのように活用するかはこれからということであるが、より安全な航行、違法行為の取締り、海難救助に生かされることを期待したい。
◆(公社)日本船舶海洋工学会が創立120周年を機に、ふねや関連物件を「ふね遺産」として認定している事業について、小嶋良一(公社)日本船舶海洋工学会ふね遺産認定実行委員会委員長にご紹介いただいた。これまでに32件のふね遺産を認定したという。この中には、鉄船時代の英国造船技術を今に伝えるわが国に現存する唯一の帆船「明治丸」や最古の日本建造練習帆船「日本丸」に加え、菱垣廻船の忠実な実物大復元船「浪華丸」があるという。わが国にとって重要な役割を果たしてきた「ふね」であるが、その目的に耐用できなくなると廃船となり後世に残らない「ふね」の歴史を知る上で重要な事業である。(坂元茂樹)

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