Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第481号(2020.08.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆令和2年7月豪雨は、死亡82人行方不明4人という大規模災害となった。被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。今回の豪雨は、西日本付近に停滞した梅雨前線に向けて極めて多量の水蒸気が流れ込み続けることで線状降水帯が形成され生じた。風の上流方向に新しい降水セルが次々と出現し、それらが成長するとともに移動して線状になるバックビルディング型形成による豪雨である。今回の豪雨に、地球温暖化に伴う日本近海の海水温の上昇と水蒸気量の関与があったことは明らかである。気象予報における海面水温および水蒸気量の観測体制のさらなる充実は喫緊の課題である。
◆江淵直人北海道大学低温科学研究所教授から、「国連海洋科学の10年」に向けた全球海洋観測システム構築において重要な構成要素である日本の海洋衛星観測の展望と課題についてご寄稿いただいた。静止気象衛星「ひまわり」と「だいち」の後継の先進レーダー衛星のみならず、海洋観測にとって重要な水循環変動観測衛星「しずく」や気候変動観測衛星「しきさい」の後継衛星計画のさらなる課題を適示する本論稿をぜひご一読いただきたい。海洋衛星体制の整備は、広義の安全保障に貢献する社会インフラとして重要であるとの指摘を多くの方々と共有したい。
◆前川美湖(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員からは、気候変動に伴う海面上昇と沿岸域での災害リスクの上昇により集団移住を余儀なくされそうな太平洋島嶼国の「環境移転」を考える際に参考となる貴重な論稿をいただいた。戦禍によりバナバ島(現キリバス共和国)からフィジーのランビ島に半強制的に移住された人たちのインタビューから見えてくるのは、生業を漁業から農業へ転換するなど移住プロセスが一過性ではなく何世代にも及ぶ大事業であることである。
◆田中克夫新明和工業(株)常務執行役員・航空機事業部長からは、2007年から海上自衛隊で運用されている水陸両用の救難飛行艇US-2についてご紹介いただいた。長い航続距離(ヘリの6倍)、巡行速度の速さ(ヘリの2倍、船舶の10倍)、洋上で離着水が可能といったUS-2の利点は、わが国の領海と排他的経済水域をカバーし、国境離島(南鳥島、沖ノ鳥島)への無給油往復飛行も可能とのこと。また、地球温暖化により2000年以降、世界中で頻発している大規模火災にUS-2を消防飛行艇として使用すると大型ヘリの3倍の放水能力があり、取水場所と火災現場への往復が迅速に行えるとのことで頼もしい限りである。ぜひご一読を。(坂元茂樹)

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