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オーシャンニューズレター

第480号(2020.08.05発行)

東京諸島への誘い

[KEYWORDS]東京諸島/日本ジオパーク/東京宝島
東海汽船(株)旅客部門 広報宣伝グループ◆石坂直也

高層ビルが立ち並ぶ首都東京に、実は豊かな自然が残る島々があることをご存知だろうか。
東京都は、伊豆諸島から小笠原諸島まで連なる「東京諸島」と総称される有人島11島の島嶼地域を含む。
本稿では都心から簡単にアクセスできる東京の島旅を紹介する。

東京諸島への航路と所有船舶

東京諸島とは、東京都の島嶼地域の総称である。伊豆諸島の伊豆大島(以下、大島)、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島と、小笠原諸島の父島、母島の有人島11島からなる。東海汽船(株)は、この東京諸島のうち伊豆諸島航路を定期航路として運航している海運会社である。伊豆諸島へは主に東京港竹芝桟橋と熱海港から毎日運航している他、季節限定航路として久里浜、伊東、稲取、館山の各港、不定期の臨時航路として千葉港、木更津、江の島、清水、焼津からも運航を行っている※1。なお、小笠原諸島に関しては小笠原海運(株)が週に1日程度定期航路を運航している。
所有する船舶は大型客船「さるびあ丸」「橘(たちばな)丸」の2隻、米国ボーイング社が開発した水中翼船ジェットフォイル(以下、ジェット船)「セブンアイランド愛/友/大漁/結」の4隻である。
大型客船とジェット船では船旅の様子は大きく異なってくる。まずはそのスピードだ。大型客船の航海速力が15~20ノット(約28~37km/h)であるのに対し、ジェット船は43ノット(約80km/h)の速力が出る。ジェットエンジンで海水を下向きに噴出するため船体が浮き上がって翼走状態となり、高速航行が可能となる。海面を離れるため波の影響を受けにくく高速航行中であっても縦揺れや横揺れがほとんどない。大型客船が従来4時間以上をかけて結んでいた大島 - 東京間をジェット船の導入により1時間45分に短縮することに成功し、東京から神津島までの伊豆諸島北部へのアクセスは飛躍的に改善された。ジェット船は大型客船のように甲板へ出て景色を眺め、船内を散策することはできない仕様となっているため、往路で大型客船を利用し東京湾の夜景と共に船上の旅情を楽しみ、復路はジェット船でスムーズに都心に戻る行程が人気となっている。
この2種類の船舶を利用した運航は2002年より始まっている。かつて島ブームが巻き起こった1970年代前半では年間約250万人もの観光客を迎えていた伊豆諸島だがオイルショックを機に客足が激減。その危機を救ったのが2002年に導入されたジェット船だった。

東京諸島の航路図

豊かな自然が残る島の魅力

島ブームはなぜ加熱したのだろうか。大きく分けて2つの要因が考えられる。一つは、高度経済成長期を迎え所得が増え旅行をする人が増えたことだ。当時、憧れの旅行先だったハワイや沖縄などの南の島は高値で難しいが、比較的安く南の島の雰囲気を楽しむことができる伊豆諸島に注目が集まった。二つ目は高度経済成長に伴い海洋環境が悪化し、綺麗な海を求め島に観光客が集まったことだ。航空運賃が安価になったことで、海外旅行の代替として島が注目されることは少なくなったが、島々の綺麗な海をはじめ豊かな自然環境は今も当時と同じものだ。
環境省が毎年実施している水浴場水質調査の結果では、調査対象となった東京諸島8つの海水浴場全てが水質検査項目で最高判定であるAA評価を獲得している。特に新島、式根島では「日本の水浴場88選」(環境省、2001)に選ばれており、神津島では水質と透明度が日本一に選ばれたことがある。
また、海以外にも島にはダイナミックな自然が残されている。伊豆諸島は青ヶ島を除き1964年に富士伊豆箱根国立公園に島全体が指定されている。一帯が火山列島として、地形、地質のダイナミズムを感じることができることや、希少な植生および野生生物が多くみられる。そのため近年では夏に限らず、ハイキングや自然探勝、サイクリング、魚釣りをする姿が多くみられる。小笠原諸島が2011年にユネスコ世界自然遺産に認定され、その前年にはユネスコ傘下の日本ジオパーク委員会(JGC)によって大島が日本ジオパークに認定されている。ジオパーク(大地の公園)とは、地質学的重要性を有する景観の保護・教育、持続的な開発が一体となった概念によって管理された場所を指す。大島では三原山の巨大な中央火口や、噴火の繰り返しで作られた地層大切断面などから地球のスケールを感じることができる。海岸は玄武岩質の黒い砂浜だが、これが新島、式根島、神津島では流紋岩質の白い砂浜に変わる。各島に個性があり、植物も本州から南下するにつれて少しずつ姿を変えていく。

新造船の就航と島の新たな動き

2020年、東海汽船(株)は一つの節目を迎える。新造船2隻の就航だ。29年間運航したさるびあ丸に代わる新しい大型客船3代目「さるびあ丸」は6月25日に就航し、総トン数は過去最大の約6,200tである。退役したさるびあ丸は、バウスラスター(船首側面のスクリュー)が1機のみだったのに対し、新さるびあ丸では2機搭載され、操縦性能がより向上する。またディーゼル機関で駆動するCPP(可変ピッチプロペラ)と電動機で駆動するアジマス推進器を併用する「ハイブリッド方式」の導入によって低燃費、低騒音、低振動となる。そのため、より安定した運航が可能となり、エネルギー効率が改善した。また排熱回収効率が高く排気ガスを抑える「排ガスエコノマイザー」や排気ガス中のCO2、NOxを抑える「電子制御燃料噴射装置」搭載により環境負荷の低減を実現した。客室部分でも船内エレベーター、多目的トイレ、優先席を新設し、車椅子のお客様も通りやすい広い通路、車椅子置き場の確保などバリアフリー対応を進めている。
また「虹」の代替として「結」が7月13日に就航した。ジェット船の建造は国内では1995年以来で、実に25年振りとなる。ジェット船としては世界初となるバリアフリーに対応しているところが大きな特徴だ。客席数を減らし、バリアフリー対応席、広い通路、船内階段に昇降式チェアーを設置している。島にも新たな動きは多い。小池都知事をはじめ各島の町村長、事業者などが集まり島嶼地域のブランド化に向けた「東京宝島事業」※2が進んでいる。また、神津島では「星空保護区」※3への認定を目指し島全体で動いている。ぜひこの機に東京の島へ訪れてほしい。(了)

新大型客船3代目「さるびあ丸」。ジェット船ともに、美術家の野老朝雄(ところ・あさお)氏デザイン 新高速ジェット船「セブンアイランド結」
  1. ※17月15日現在、新型コロナ感染症の影響により、減便およびダイヤ変更の上、運航している。
  2. ※2東京宝島事業 https://tokyo-treasureislands.jp/
  3. ※3国際ダークスカイ協会が、光害の影響のない、暗い自然の夜空を保護・保存する優れた取り組みを称えるために2001年に始めた「ダークスカイプレイス・プログラム(星空保護区認定制度)」

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