Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第480号(2020.8.5 発行)

排他的経済水域における国の漁場整備

[KEYWORDS]排他的経済水域/漁場整備/水産資源
水産庁漁港漁場整備部整備課長◆浅川典敬

フロンティア漁場整備事業は、排他的経済水域において、保護措置を講じる必要のある重要な水産資源を対象に、水産資源の管理の取り組みと連携を図りつつ海域の基礎生産力の向上や水産資源の保護育成場の創造を行うものであり、世界に類を見ない取り組みである。
現在、保護育成礁やマウンド礁の2つのタイプの漁場整備を実施し、それらの効果が検証されている。

フロンティア漁場整備事業創設とその概要

日本は四方を海に囲まれ、世界の3大漁場のひとつと言われる豊かな漁場を擁している。しかしながら、わが国の漁業生産量は、1984(昭和59)年をピークに1995(平成7)年頃にかけて急激に減少し、中でも供給の中核を担っている沖合漁業の減少が著しく、多くの沖合魚種の資源水準は低位にとどまっている。また、1996(平成8)年に国連海洋法条約を批准し、本格的な200海里時代の到来を迎えるなか、国土面積の約12倍、世界第6位の広さを有する排他的経済水域は、水産資源を排他的に利用することが可能な貴重な場であり、この海域における水産資源の適切な保存管理と持続的利用、加えて資源の増大を図る取り組みは喫緊の課題である。このことから、わが国の排他的経済水域において、国の直轄で漁場を整備するフロンティア漁場整備事業が2007(平成19)年にスタートした。
フロンティア漁場整備事業は、漁港漁場整備法第4条に基づき、排他的経済水域において、保護措置を講じる必要のある重要な水産資源を対象に、水産資源の管理の取り組みと連携を図りつつ海域の基礎生産力の向上や水産資源の保護育成場の創造を行うものであり、世界に類を見ない取り組みである。現在、ズワイガニやアカガレイの生息海域にブロック等を設置することにより産卵や育成を保護し増殖を図るための保護育成礁や、マアジ・マサバ・マイワシ等を対象として、海域の上層と底層の海水が混ざり合う鉛直混合を発生させることで海域の生産力を高めるマウンド礁の2つのタイプの漁場整備を実施している。これまでに、前者のタイプで日本海西部地区、後者のタイプで五島西方沖地区、隠岐海峡地区、対馬海峡地区、大隅海峡地区の4地区で整備している(図1)。なお、事業の実施に際しては、事前調査を行い費用対効果分析により定量的な評価(5事業のB/C(費用便益比)は1を上回り、1.6~3.7)を行った上で実施箇所を選定している。さらに期中評価および事後評価の各段階で費用対効果分析を行い定量的な効果を把握している。

■図1 フロンティア漁場整備事業実施地区

保護育成礁とマウンド礁の仕組みと効果

保護育成礁は、1ユニットが2km四方で、外周100m 内部200mの間隔で格子状にコンクリート魚礁や鋼製魚礁を配置するものである。これを兵庫県、鳥取県および島根県の沖合海域に最終的に32ユニット設置する予定である。対象魚種(ズワイガニとアカガレイ)の保護エリアを創造し、資源保護と生息環境の向上を図る。設置箇所の水深は約200~500mと深く、設置海域は高波浪の厳しい条件であることから、施工には高度な技術が必要とされている。保護育成礁の効果は、調査により検証しており、礁の内側のズワイガニの生息密度は、保護育成礁の外側の一般海域と比べ約2倍であることが判明している(図2)。また、底曳網漁業の操業1回あたりのズワイガニ漁獲量を調査した結果、一般海域は減少傾向にあるのに対し、保護育成礁周辺は増加傾向にある。これらの調査結果から、保護育成礁の効果が検証されている。

■図2 ズワイガニの生息密度の経年変化

マウンド礁は、水深約100~150mの海底に高さが水深の1/5程度の高さとなるマウンドを石材およびコンクリートブロックで築造した構造物である。マウンドに海流が衝突することで鉛直混合が発生し、底層の栄養塩類が上層に供給され、植物プランクトン、動物プランクトンが増加し海域の基礎生産力が向上する(図3)。マウンド礁の規模は、五島西方沖地区で整備したものは体積が約35万m3で、東京ドームの約1/3となっている。沖合域での施工にあたっては、高度な施工技術が要求され、石材等の投入後はナローマルチビームソナーにより3次元で施工状況を把握し、次の投入位置へ船を誘導するシステムを採用している。効果を、2015(平成27)年に整備が完了した五島西方沖地区の調査に基づき紹介する。シミュレーションの結果、効果範囲は数十kmに及んでおり、マウンド礁周辺で漁獲されたマアジ1歳魚の体重は、一般海域のそれと比べて約1.4倍であることが判明した。また、マウンド礁の近傍のマアジ・サバ類・マイワシの漁獲量を、整備前後で比較すると、約2倍に増加していることも判明した(図4)。併せて、礁から半径1マイル(約1.6km)は対象魚種の採捕を禁止する措置を講じ資源保護を行っている。このように、マウンド礁は、海域の基礎生産力の向上により、魚類の体重が増加し資源量が増える効果が検証されている。

■図3 マウンド礁の効果発現のメカニズム
■図4 マウンド礁整備前後の漁獲量の比較

フロンティア漁場整備事業の今後の展開

世界では1人当たりの食用水産物の消費量が過去半世紀で約2倍に増加し、近年においてもそのペースは衰えを見せていない。世界人口は今後も増加し続け、2050年には約100億人と予想されており、水産物需要は今後も増加すると見込まれる。需要に見合った水産物を安定的に供給していくため、水産資源の保護と増殖が肝要である。このため、潜在力の大きい排他的経済水域における漁場整備は大変重要な施策であり、また、国境離島・遠隔離島における産業振興を図るためにも、フロンティア漁場整備事業による漁場整備への期待が高まるものと考える。(了)

ページトップ