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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第475号(2020.5.20 発行)

新たな領土・主権展示館の開設

[KEYWORDS]主権/島嶼領土/発信拠点
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所特別研究員◆髙井晉

政府による島嶼領土問題の発信拠点とすべく、新たな領土・主権展示館が2020年1月20日に東京虎ノ門に誕生した。
北方領土、竹島、尖閣領土が日本の島嶼領土となった歴史的な事実関係がパネルで要領よく纏められ、その事実を証明する資料が一体となって展示されている。
国内外へむけての丁寧な情報発信により、日本の領土への正確な理解を広めることが期待されている。

日本の領土への正確な理解を広めるために

新しい領土・主権展示館の入り口
https://www.cas.go.jp/jp/ryodo/tenjikan/

古来、海洋は通航路であるとともに資源供給源として、人類に多大な恩恵を与えてきた。かかる海洋の利用に際して、島嶼の存在を無視することはできない。領有権に関して国家間で主張が異なる島嶼の存在は、海洋の安定的利用に大きな影響を及ぼすことは自明であろう。第2次世界大戦後の日本の領土の範囲は、1951年の対日平和条約で決定されているが、かかる条約の規定に関して周辺国との間に解釈の相違があり、今日に至っている。
わが国は、周知のとおりロシアとの間に北方領土問題、韓国との間に竹島問題、中国との間に尖閣諸島問題を抱え、長期にわたって平和的な解決を目指して努力を傾注してきたが、その成果は芳しくなかった。
北方領土については、1948年までに約17,000人の旧島民が内地へ引き揚げたこともあり、北方領土問題対策協会が主体となって旧島民の生活支援等に従事してきた。これと並行して内閣府の北方対策本部が中心となって、多くの機関や団体が北方領土問題の広報・啓発運動を展開してきたのであった。他方、竹島と尖閣諸島の問題解決のための啓発については、島根県の竹島資料室を除いて、これといった機関や団体が取り組んでこなかった。
このような実情から、2013年に内閣官房領土・主権対策企画室(以下、領土主権室)が設置され、主として竹島や尖閣諸島を巡る問題について、政府が責任をもって国内外に向けて発信することになった。すなわち領土主権室は、わが国の立場についての正確な理解を、国内外に浸透させるべく、国民世論の啓発、国際社会に向けた発信等を行う任務を負ったのである。
領土主権室は、2018年1月25日、竹島および尖閣諸島がわが国の島嶼領土であることについての発信の一環として、東京の日比谷公園内の市政会館地下1階に領土・主権展示館(以下、旧展示館)を設置した。しかし旧展示館は、会場が狭く、展示に関しては「北方領土」に関わるものがなく、中国や韓国の主張に対する反論が少なかったため、これらに対する来館者からの質問が絶えなかったと聞く。また、竹島や尖閣諸島に関して展示されていた資料についても、それぞれの関連性がよく理解できなかったとする意見があったようである。このような旧展示館に対するさまざまな意見や要望を斟酌した領土主権室は、旧展示館を拡張移転するために、東京港区の虎ノ門三井ビル1階に約700平米のスペースを確保し、2020年1月20日、政府による島嶼領土問題の発信拠点とすべく、新たな領土・主権展示館(以下、新展示館)を設置した。

新たな情報発信とその意義

体長約3mもある「リャンコ大王」のはく製

新展示館は、旧展示館と比較して遥かに広くかつ明るい展示室が印象的であり、北方領土を始めとして、竹島や尖閣諸島が日本の島嶼領土となった経緯等の展示があり、新たな発信拠点に相応しいものとなっている。北方領土、竹島そして尖閣諸島が歴史的にも国際法上も日本の固有の領土であることの根拠、韓国や中国の領有主張に対する反論を説明する証拠資料が無駄なく展示されており、法と対話による問題解決を目指す日本の立場の説明が要領よく説明されている。
従来、わが国の周辺島嶼の問題は、多くの日本国民が、北方領土は北海道の問題、竹島は島根県の問題、尖閣諸島は沖縄の問題として理解する傾向があった。これらの問題を自国の領土・主権の問題とする意識に欠けてきたのである。このような通例を打破するため、海洋政策研究所島嶼資料センターは、2017年に北方領土、竹島、尖閣諸島の問題を一枚のリーフレットにまとめ、『日本の島嶼領土−尖閣諸島・竹島・北方領土』(日本語版/英語版)を作成し、無料で配布してきた。
新展示館がこれら3島の問題を一つのものとして、またその島々で様々な活動を行い、歴史を刻んできた日本人の姿を写真などのビジュアルによって深く印象づけるというスタイルの発信は、日本人が島嶼領土の問題を自分たち自身の問題として理解していく上で、また国民の領土・主権意識を変えていく上で画期的であると評価したい。また、島嶼領土問題の発信拠点に相応しく、1階の展示室の奥に書籍、AVコーナー、事務スペース、書庫が併設され、2階には映画鑑賞、講演会、企画展示等のための多目的スペースが設けられている。
新展示館でひと際目を引くものは、竹島で捕獲されたニホンアシカ最大級のはく製「リャンコ大王」の展示で、島根県立三瓶自然館から期限付きで貸与された。旧展示館の入場者は中高年男性に偏り、女性や若年層が少ない状況にあったことの反省から、新展示館は小・中学生の修学旅行の訪問先、あるいは国会見学等の社会科の学習に関する見学先となることが期待されている。山奥にある三瓶自然館に展示されていた「リャンコ大王」のはく製は、格好の話題となった。
また新展示館は、ウェブサイトと一体的になるよう配慮がなされており、展示館で興味あるいは関心をもった展示物について、ウェブサイトを通じてさらに深く解説した資料等の情報を発信する構成になっている。このような新展示館とウェブサイトを活用した展示方法は、資料やパネルの展示スペースが限られた中で、豊富な知識を有する研究者やジャーナリスト等の専門家的な来館者に対して相乗効果をもたらすことになろう。

今後の課題

領土・主権展示館2 階からの俯瞰

総じて新展示館の特徴は、旧展示館で十分に発信できなかった問題、すなわち北方領土、竹島、尖閣諸島が日本の島嶼領土となった歴史的な事実関係がパネルで要領よく纏められ、加えてその事実を証明する資料が一体となって展示されているため、これらの島嶼領土が日本の領土であることを自然に体感させられることである。しかし、説明パネルが数多くあるため、各内容をじっくり読み込むのに時間がかかる点が唯一の難点と言えよう。これは他の多くの展示館に共通しており、一度の来館だけで全体を理解する必要はなく、繰り返し新展示館を訪れて説明員に質問しながら理解すれば解決できる問題である。
最後に、現時点における資料やパネルの説明は日本語と英語であるが、外国人に対する発信の拠点とするためには、韓国語や中国語による説明が必要になると思われる。これについては、徐々に解決されていくと聞いている。多言語の解説により外国人の来館者も増加し、新展示館は、日本の島嶼領土問題の内外への発信拠点となり、本来の目的を達成できると言えよう。(了)

  1. 新型コロナウィルス感染予防のため、現在臨時休館中
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