Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第474号(2020.05.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大阻止に向けた緊急事態宣言が、5月6日までということで発令された。若葉匂うゴールデンウィーク明けまで、閉じこもるというのは寂しいけれど、目下の状況からは連休も子どもの日も我慢のしどころと観念せざるを得ない。感染の確認は、ウィルス遺伝子をPCR法で検出することにより行われている。ごく微量の特定の遺伝子を100万倍以上にまで増やせる方法で、感染の検出にはより精度が高く定量性のあるPCR法を主に使っている。PCR法の原理を発明したキャリー・マリスは1993年のノーベル化学賞を受賞しているが、方法は進化している。感染を早いうちに見つけて爆発的な拡大を阻止する。このことは海が抱える問題でも同じではないだろうか。
♦長期にわたる温暖化を海洋熱波は加速する。海水の極端な高温が少なくとも5日間連続する「海洋熱波」の発生がこの30年間で増えている。筑波大学下田臨海実験センター助教のベン・P・ハーベイ氏より海洋熱波の問題について解説をいただいた。海洋熱波は、生態系の基盤であるサンゴや藻類などを喪失させるので生態系全体が影響を受ける。影響が際立つ「ホットスポット」には日本の南岸と西岸も入る。科学的証拠が、対策は温室効果ガス排出の削減であり、実行可能な方策を打ち立てることであると示している。
♦神社仏閣の建築彫刻は、静謐の中でのダイナミックな物語である。江戸時代後半に活躍した彫工の武志伊八郎信由は、伝統の中に「バロック」を思わせるボリューム感と躍動感のある彫刻で名を轟かせた。特に波は秀逸で波の伊八と呼ばれる。伊八が居住した千葉県鴨川市の郷土資料館館長の石川丈夫氏より波の伊八像を海の視点から論じていただいた。活動は海を跨いで広がり、房総半島一帯と三浦半島だけでなく相模湾西岸の湯河原にまで及んだ。息をのむほどの写真をまずはご覧いただきたい。
♦お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンター特任講師の里浩彰氏より同大学が精力的に進める海洋教育について教えていただいた。特徴は、海なし地域での海洋教育である。センターと湾岸生物教育研究センター(千葉県館山市)でカリキュラムや教材を研究・開発し、教員研修プログラムも独自に開発して実践している。例として東京都北区での取り組みが紹介されている。東京都に東京湾はあっても北区の子ども達には海が身近でない。日本各地にも海なし地域は少なくない。里氏らの取り組みの発展を心から期待したい。(窪川かおる)

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