Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第472号(2020.04.05発行)

2020年は海洋のスーパーイヤー

[KEYWORDS]ポスト愛知目標/国連海洋科学の10年/UN-Oceans
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員◆角田智彦

2020年の海洋分野は、わが国にとってこれまでにない1年になる。
国連海洋会議、生物多様性条約の締約国会議(CBD-COP)など、さまざまな国際会議が目白押しだ。
とりわけCBD-COPは、愛知目標の後継となる2030年までの目標(ポスト愛知目標)を決める10年に1度の機会となる。
海洋に関する諸問題は相互に密接な関連を有する。海洋のスーパーイヤーとなる今年、海洋の持続可能な利用の問題に関する国際的な議論が進むことを期待したい。

国際社会における海洋をめぐる議論

わが国の海洋基本法が示すように、海洋に関する諸問題は相互に密接な関連を有するため、海洋の開発、利用、保全等について総合的かつ一体的に行われる必要があります。そのような海洋の持続可能な利用に関する国際的な議論は、法秩序の柱としては1994年に発効した国連海洋法条約が、政策の柱としては1992年のリオ地球サミットのアジェンダ21から始まる持続可能な開発のための包括的な行動計画があり、それらのもとで行われてきました。国連には1992年の地球サミットを受けて、国連食糧農業機関(FAO)や国際海事機関(IMO)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、国連海事海洋法課(DOALOS)などが海洋の問題について調整できる緩やかな繋がりのグループができ、2003年以降はUN-Oceansという名称で続いてきました。また、セクター間を結ぶ議論の場として「海洋と海洋法に関する国連非公式協議プロセス(ICP)」という年1回の会議がニューヨークの国連本部で行われてきました。しかしながら、2010年頃までは、国際社会での海洋に関する議論は水産や海運といったセクター別のものが主流で、包括的な議論はまだまだマイナーなものでした。
これに対して2012年~2015年に大きな転機がありました。2012 年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)を契機に、2030年までの国連持続可能な開発目標(SDGs)に関する議論が活発化されました。そして2015年に、「海洋」に関する目標(SDG14)を含むSDGsが決定されました。また、国連気候変動枠組条約の第21 回締約国会議(COP21)でパリ協定が合意されたことなども受けて、海洋に関する議論が盛り上がりを見せました。これらの流れのなかで開始され継続している会議には、例えば次のものがあります。
Our Ocean Conference(2014年開始)
政府、経済界、シンクタンク、NGO等が海洋問題について協議する国際会議。2014年に米国のケリー国務長官(当時)の呼びかけで第1回がワシントンDCで開催された。
World Ocean Summit(2014年開始)
英国の経済誌『The Economist』を発行するザ・エコノミスト・グループが開催する会議。政府関係者やビジネスリーダー、投資家、研究者、起業家などが海洋問題を議論する。
国連海洋会議(UN Ocean Conference, 2017年開始)
SDG14の実施促進を目的に開催される3年に1度の会議。第1回はスウェーデンとフィジーがホスト国となり2017年6月にニューヨークの国連本部で開催された。
このほか、G7やG20といった首脳会議でも海洋問題が議論されています。海洋プラスチック問題はG7でも長く議論がされており、2015年のG7エルマウ(ドイツ)が起点となり、2016年のG7伊勢志摩などを経て、2018年のG7シャルルボワ(カナダ)の海洋プラスチック憲章に繋がっています。2019年のG20大阪でも海洋プラスチック問題が議論され、『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』が共有されたことは記憶に新しいと思います。G20大阪では違法・無報告・無規制(IUU)漁業の問題も議論され首脳宣言に盛り込まれました。
これらの流れは、裏を返せば、海洋の持続可能な利用の問題は、世界的に待ったなしの状況になっていることを示しています。

国連の海洋関連機関(UN-Oceans)

2020年の主な国際会議

2020年の海洋分野は、わが国にとってこれまでにない1年になります。まず、3年に1度行われる国連海洋会議と、2年に1度行われる生物多様性条約(CBD)の締約国会議(CBD-COP)が重なる年となります。とりわけCBD-COP15は、2010年のCBD-COP10で採択された愛知目標の後継となる2030年までの目標(ポスト愛知目標)を決める10年に1度の機会となります。生物多様性条約の会合では、海洋保護区の更なる拡大に加えて、海洋プラスチックの問題などについても活発に議論が交わされています。
国連気候変動枠組条約においても海洋分野の議論が開始されています。2019年12月に開催された第25回締約国会議(COP25)では、COP決定において海洋と気候のつながりが初めて言及され、COP26に向けて6月に開催される補助機関会合では「海洋と気候変動に関する対話」の場が設けられます。サンゴ白化現象などに見られるように、気候変動と海洋生物多様性はコインの表裏のように密接に関係する、海洋の持続可能性に関する課題です。そして、6月の国連海洋会議と10月のCBD-COP15 、11月のCOP26を一連のものとして捉え、国際的な海洋分野の議論において、2020年を海洋のスーパーイヤーとも呼ぶようになりました。
わが国の視点で海洋を見ると、更にスーパーイヤーであることが分かります。新型コロナウイルス感染症の影響で中止となりましたが、3月には第7回目となるWorld Ocean Summitの東京での開催が予定されていました。また、第7回Our Ocean Conferenceも日本とも関係が深いパラオで8月に開催されます。更に第3回北極科学大臣会合が11月に初めて東京で開催されます。あわせて開催される北極サークルの日本フォーラムとともにわが国の北極域の科学技術分野でのリーダーシップが期待されています。
2020年は、前述のポスト愛知目標に加えて、「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021-2030)」の計画が国連総会で決定される予定です。国内外で繰り広げられる2030年を見据えたこれら議論に海洋政策研究所も積極的に参画し、海洋の持続可能な利用の実現に向けて取り組んでまいります。(了)

  1. 国連海洋会議については『Ocean Newsletter』416号参照 https://www.spf.org/opri/newsletter/416_1.html
  2. 国連海洋科学の10年については『Ocean Newsletter』455号参照 https://www.spf.org/opri/newsletter/455_1.html

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