Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第465号(2019.12.20発行)

日本市場におけるIUU水産物排除に向けて

[KEYWORDS]IUU漁業対策フォーラム/漁獲証明/輸入水産物
GR Japan(株)シニア・アソシエート◆ソープ佳奈
GR Japan(株)公共政策マネージャー◆小谷野祥浩

日本の水産資源が減少するなか、追い打ちをかけるのが違法・無報告・無規制(IUU)漁業だ。
持続可能な水産業の発展を実現するには、IUU水産物を日本市場から排除し、資源管理ルールを遵守する正規漁業者が利益を得る市場形成が急務である。
漁獲証明制度の拡大など、欧米並みの市場措置が日本においても必要である。

日本漁業を脅かすIUU漁業

日本文化の根底を支えている重要産業である水産業は、長年厳しい状況に直面している。水産庁によれば、漁業養殖生産量は、1984年に記録した1,282万トンのピーク後、減少傾向が続き、2016年には約3分の1の436万トンにまで減った。漁業従事者数も、1980(昭和55)年度に57万人いた漁協組合員数が、2016(平成28)年度には30万人に減った。漁協の事業損益も平成に入って以降、約20 年にわたり赤字の状況が続いており、水産資源の減少が一因として指摘されている。水産資源減少の原因についてはさまざまな指摘があるが、最近では多くの漁業者が資源管理の重要性について声を上げている。とくに科学的根拠に基づく資源管理は持続可能な水産資源の利用に不可欠とされる。日本でも2018年末に漁業法が約70年ぶりに大幅に改正され、科学的根拠に基づいて推定された資源量に従い、これから多くの国内主要魚種に対して漁獲量の制限が設けられ、厳格な資源管理が進められる。これは持続可能な水産資源管理へ向けて大きな一歩である。
この資源管理システムの実効性を脅かすのが違法・無報告・無規制※1(IUU: Illegal,Unreported and Unregulated)漁業の存在だ。IUU漁業によって実際に報告されている漁獲量よりも多くの魚が獲られており、これが水産資源の枯渇に拍車をかけ、また、漁獲量データを元に推測される資源量の科学的評価の精度にも悪影響を及ぼしている。
世界的にIUU漁業のうちの違法漁業と無報告漁業は、正式に報告されている漁獲量の13~31%に及び、日本が輸入する水産物のうち24~36%を占めるとの指摘がある。日本市場においては、中国から輸入されるウナギやイカなどでIUU漁業由来の割合が多い(図)。ウナギについては、2019年の漁期に国内で養殖用に池入れされた15.2トンのうち、1.5トンほどの由来が不明であり、これはいわゆる違法・無報告採捕が起源と考えられる。イカでは、違法・無報告漁業由来のイカの輸入による国内イカ水産業に与える経済損失が、国内イカ漁業者の収益金額の15~29%にあたる年間243~469億円に達すると推定された(阪井ら、日本水産学会誌85巻1号、2019)。そこで、包括的なIUU漁業対策が日本で導入されることを目的に、WWFジャパン、セイラーズ・フォー・ザ・シー日本支局、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)、環境防衛基金(EDF)など日本に活動拠点を持つ国際NGO団体と、われわれGR Japan(株)や(株)シーフードレガシーなど持続可能な日本漁業の発展を目指す会社は、2017年9月に「IUU漁業対策フォーラム」を立ち上げた。参画メンバーが協働して、IUU漁業問題と対策にまつわる情報提供や啓発活動に努めている。

IUU漁業対策としての寄港国および市場関連措置

2001年に国際連合食糧農業機関(FAO)が「IUU 漁業の防止、抑制及び廃絶のための国際行動計画」を採択し、現場取締・監視などを含む沿岸国措置の他、寄港国措置、市場関連措置などのあらゆる措置を講じるよう推奨した。その後2016年6月に初の国際条約「違法漁業防止寄港国措置協定(違法な漁業、報告されていない漁業及び規制されていない漁業を防止し、抑止し、及び排除するための寄港国の措置に関する協定:PSMA)」が発効し、翌年6月には日本も加入した。PSMA加入によって、IUU漁業に関与した漁船の寄港拒否・水産物の水揚げ拒否が可能となったが、措置の対象が日本で直接水揚げされる輸入水産物に限られ、一般的な輸入流通手段(コンテナなど)は対象外となるため、日本のような水産消費国・市場国には包括的なIUU 漁業対策として、市場関連措置も求められる。
日本における漁獲証明制度の対象はマジェランアイナメ(メロ)や特定のカニやマグロ類など一部の魚種に限られているが、EUや米国など日本と肩を並べる水産消費大国は、既に市場関連措置を導入している。EUでは2010年から輸入水産物に対して漁獲証明制度を導入した。水産物や水産加工品をEU 圏内に輸入する場合は、輸入者が政府に漁船の旗国政府が認証した漁獲証明書を提出し、合法性を担保しなければならない。米国も輸入水産物に対して水産物輸入監視制度(SIMP)を2018年に導入し、IUU 漁業リスクの高い13魚種を対象に、米国の登録輸入業者による漁獲情報や輸出証明書などの情報の電子報告と記録を義務付けた。日本政府も国内水産物に対して漁獲証明制度の導入を表明するなど、追い風となる政策機運を醸成している。

出典:Pramod, G., Pitcher, T.J., & Mantha, G. (2019). Estimates of illegal
and unreported seafood imports to Japan. Marine Policy,108

IUU漁業対策の撲滅に向けた国内政策

2018年6月に閣議決定された水産改革を含む「規制改革実施計画」においては、「資源管理の徹底、IUU漁業の撲滅、輸出促進の観点から、トレーサビリティの出発点である漁獲証明に係る法制度の整備を進め、必要度の高いものから順次対象とするとともに、ICT等を最大限活用したトレーサビリティの取り組みを推進する」と政府が表明した。水産改革の第1弾の改正漁業法に続き、第2弾で国内水産物に対して漁獲証明に関わる法制度の整備が今後進められることとなった。
これを受けてIUU漁業対策フォーラムは2019年4月、国内水産物のトレーサビリティ制度の法制化と同時に、輸入水産物に対する漁獲証明書など輸入時の確認措置を導入することを求める政策提言を行った。国内の資源管理を厳格化してゆくなか、輸入水産物に対しても合法性を求めなければ、安価なIUU水産物は依然として日本市場に出回り続け、国内の正規漁業者がさらなる経済損失を受けるからだ。
輸入水産物に対しても国内品と同様に漁獲証明制度を適用しない限り、結果的に、適正な水産物の日本市場は形成されない。政府による2019年6月の規制改革実施計画では、輸入水産物についても触れられ、「輸入水産物のトレーサビリティの出発点となる漁獲証明制度の創設に向けて必要な措置を講ずる」と明記された。IUU漁業対策として漁獲証明制度を導入する方向に進んでいるが、輸入水産物も今回の漁獲証明制度の対象となるかが注目される。政府介入による適正な市場形成は、流通を適正化することで漁業者の収益を回復し、そして、持続可能で良質な水産物の消費促進という好循環を生み出し、水産改革の所期の目標である「水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化の両立」の実現に大きく貢献すると期待する。(了)

  1. ※1IUU漁業とは、法や規制に反して操業する漁業(違法漁業)、漁獲した水産物を報告せずに(過小報告して)水揚げする漁業(無報告漁業)、および公海における漁業の国際ルールを免れるためにルールを遵守させる体制が整っていない国へ便宜的に船籍を移して操業する漁業(無規制漁業)を指す。
  2. 筆者の所属は原稿執筆当時

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