Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第460号(2019.10.5 発行)

洋上風力発電に伴う環境影響の調査と評価~欧州の事例をもとに今後を展望する~

[KEYWORDS]洋上風力発電/環境影響モニタリング/風車魚礁
長崎大学名誉教授、三洋テクノマリン(株)海洋再生エネルギー研究所長◆中田英昭

洋上風力発電など再生可能な海洋エネルギー資源の利用は、2000年代後半から欧州でめざましく進展しており、環境影響の調査と評価についても、すでに十数年にわたって様々な知識やノウハウが蓄積されている。
そのような欧州の状況を踏まえながら、今後、日本周辺海域で洋上風力発電を推進していく上で、それに伴う海洋生物とその生息環境に対する影響の検討をどのように進めていくべきかを考えてみる。

欧州における洋上風力発電ファームの展開

地球温暖化抑止のための低炭素電力の主力として、洋上風力発電など再生可能な海洋エネルギー資源の利用は、欧州においてめざましく進展している。とくに北海やバルト海では、2000年代に入って急速に洋上風力発電ファームの設置海域が拡大し、2018年末までに欧州各国に設置された累計のタービン数は4,543基、累計出力18,499MWに達している。
この事業の拡大には、工学的な技術開発と経済コストの低減化が大きく貢献していることは言うまでもないが、その前提として、環境影響を防止・緩和するために、環境影響の評価やモニタリングに注力されてきたことを見落すことはできない。洋上風力発電ファームの設置実績で先行している英国、ドイツ、デンマーク、オランダ、ベルギー(この5カ国で欧州全体の実績の98%を占めている)では、環境影響の調査と評価に関して、2000年代後半からすでに十数年にわたって様々な知識やノウハウが蓄積されている。
ここでは、そうした欧州の状況を踏まえながら、今後、日本周辺海域で洋上風力発電を推進していく上で、環境影響とくに海洋生物とその生息環境に対する影響の検討をどのように進めていくべきかを考えてみる。

海洋生物とその生息環境への影響

洋上風力発電施設の設置に伴う環境影響の内容は、陸域からの距離や設置海域の水深、設置方式(着床式・浮体式)や基礎形式(モノパイル式・重力式など)によって異なる。多くの海域において、影響の検討に必要な環境、生物、生態系などに関する既存の情報や知見は限定的であり、洋上風力発電の環境影響評価手法はまだ確立されていない。環境省では「洋上風力発電所等に係る環境影響評価の基本的な考え方に関する検討会」を組織し、国内外の関連情報の整理や評価項目選定の考え方などについての検討を開始している※1
また、先行している欧州の事例を中心に、洋上風力発電に伴う環境や生物への影響に関するこれまでの知見が、最近刊行された『Wildlife and Wind Farms, Conflicts and Solutions, Volume 3』(Perrow, 2019)に網羅的に取りまとめられている。それを見ても、これまで長期的に顕著なインパクトが検出された例はほとんどないものの、現時点における影響の予測や評価は不確実性が高く、今後の事業の拡大に伴う累積的な影響を含め調査の継続が必要な課題は多い。したがって、環境影響に関する事前のベースライン調査をさらに充実させるとともに、事中・事後のモニタリング調査データの蓄積と共有化を進めることが基本的に重要であり、それは近い将来のモデリング技術の確立や影響評価の精度向上に大きく貢献するものと考えられる。なお、ドイツ海運局(BSH)が2013年に作成した「洋上風力発電タービンの海洋環境への影響調査規範」では、事前のベースライン調査期間を2年間、稼働後のモニタリング調査期間を3~5年間と定めている。今後、日本における制度設計を検討する際に参考にする必要があろう。
さらに、欧州では海洋空間計画(MSP)を策定し、洋上風力発電施設の適地選定などに活用している。日本では、漁業による海域利用が先行しており、このような総合的な海洋の利用・保全に関する管理計画をそのまま導入することは困難であるが、計画段階での適地選定は影響を予防する上できわめて重要である。事前のベースライン調査や既存の知見にもとづいて影響の度合いを予見し、それに対する予防方策を含む計画手法を確立していくことは緊急性の高い課題の一つである。
海面あるいは海中に人工構造物が出現すると、その材質や形状などに応じて構造物に付着する生物が増加し、そこに餌やシェルター(隠れ場)を求めて魚類、さらにはそれを餌とする海鳥や大型捕食動物が集まり、新たな生息場が創出される可能性がある。欧州でも着床式の洋上風車や海底の洗堀防止のための構造物が人工魚礁と同じような働きをすることから、風車魚礁(windmill artificial reefs)と呼ばれ、その効果が注目されている(図1)。洋上風力発電施設の魚礁効果は、生物多様性を高めるホットスポットとして、またそこに蝟集(いしゅう)する魚類資源の増殖の場として機能することが期待されているが、その一方で、沖合海域において外来生物の分布拡大を促す飛び石のような働きをする可能性や、付着生物の生産と崩落による構造物近傍の水質・底質への影響などを懸念する報告もある。新たな生息基盤の出現に伴い、砂泥底など従前の生息環境が喪失されることにも注意が必要である。

■図1 底棲魚類の生産に影響する洋上風車の魚礁効果
太線は餌利用可能度、破線はストレス、点線はシェルター、細線は生息場の環境に、それぞれ関係するプロセス(Reubens et al., 2014,The ecology of benthopelagic fishes at offshore wind farms: a synthesis of 4 years of research. Hydrobiologia, 727: 121-136のFig. 2をもとに作成)

今後を展望する

長崎県五島市崎山沖の浮体式洋上風力発電施設(写真提供:河邊 玲 長崎大学教授)

最初に述べた地球温暖化対策としての要請に加え、エネルギー資源に乏しい日本にとって、洋上風力をはじめとする周辺海域の潜在的な海洋エネルギーを開発し、地域の活性化などに有効に活用していくことは重要な課題の一つと考えられる。その意味で将来にわたって、海洋の自然や生態系、生物資源などと共存できる海洋エネルギー開発の基盤を構築していくことが望まれる。欧州の事例に学びつつ、環境影響の調査や評価の方法を確立していくとともに、漁業者など主要なステークホルダーの理解と共感が得られるように、施設のデザインや場所の選定、稼働時期などの検討に計画段階から関与できるようにすること、魚介類の新たな生息場を創出する可能性を持つ魚礁効果について、その根拠となる科学的なデータを分かりやすく提示することが必要であろう。
洋上風力発電が急速に拡大している欧州各国が、主に高緯度の気候帯に位置しているのに対して、水温が相対的に高い日本周辺の海域では、施設への生物付着の影響は格段に大きいものと考えられる。魚礁効果は、漁業との協調をはかる上で重要な課題となる可能性があるが、沖合の海中構造物への生物付着の実態やそこに蝟集する魚類の生態学的な特性に関する科学的な知見はまだ不十分である。日本では、人工魚礁の魚類生産に対する効果評価などについて、これまで多くの研究実績が積み上げられており、基礎から応用まで幅広い視点でこの分野の調査・研究が進展することを期待したい。(了)

  1. ※1検討会報告については http://www.env.go.jp/press/103898.html を参照
ページトップ