Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第456号(2019.08.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦今年の海の日は7月15日であった。「海の日」行事“海と日本プロジェクト”総合開会式が今年も晴海ふ頭で開催され、挨拶に立った阿達雅志国土交通大臣政務官からは、マリンライフを楽しむことへの期待が述べられた。例年と違い会場は船上劇場「STU48 号」であった。SeToUchiの頭文字と数字と移動劇場が船の特徴を表し、瀬戸内海を中心に船と海に親しむ機会を提供する船である。一方、7月には国立科学博物館を中心とするプロジェクトが、3 万年前に丸木船で台湾から黒潮を横断して与那国島に到着できたことを証明した。2017 年の同プロジェクトの本誌掲載記事(https://www.spf.org/opri/newsletter/404_2.html)の本番だそうだ。このように古代から日本人は船で海と繋がってきたが、本号では船の活用がまだ不十分であることを考えさせられた。
♦わが国には病院船がない。陸路を使えなくなった災害時などでの船舶利用は、大震災発生時などに経験されているが、病院船は、医療機器や手術室などを備えた病院が海上で開院するもので、(公社)モバイル・ホスピタル・インターナショナル理事長の砂田向壱氏よりそれについてご寄稿いただいた。海上は住所がないので病院と認められないそうだが、実現に向けて精力的に活動されている。自然災害で被災された人々を一刻も早く治療できるようにすることを、また備えあれば憂いなしとなることを願っている。
♦全国の臨海臨湖実験所は小型・中型船を所有しており、沿岸生物や生態系の研究と教育に役立てている。全国臨海臨湖実験所長会議長で岡山大学理学部附属牛窓臨海実験所の坂本竜哉氏より実験所の多様な活動と臨海Hackについて教えていただいた。各地の実験所は、地域住民との交流、地域の行政や産業との連携など地域貢献の実績を積んでいる。一方、近年は予算削減で苦しんでいるという。その中で、若手研究者が実験所のネットワーク化を目指す臨海Hackを立ち上げ、環境DNA 解析などの沿岸研究の協働を始めている。全国各地の実験所の潜在力に期待したい。
♦大輪の花火の下、隅田川に浮かぶ屋形船は東京下町の夏を彩る。屋形船三浦屋7 代目新倉健司氏に屋形船の歴史とその将来像をお聞かせいただいた。人々の「足」になりえること、災害時の交通インフラとして貢献でき1万人以上の輸送ができること、東京オリンピックにも貢献できるであろうことなどが語られている。そして最後に、自分達を頼って欲しいと江戸っ子の気っ風を示された。是非ご一読いただきたい。(窪川かおる)

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