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オーシャンニュースレター

第454号(2019.07.05発行)

文化と海洋政策―日米の視点の違い

[KEYWORDS]漁業管理手法/資源量評価/持続可能な漁業
米国海洋大気庁海洋漁業局◆Siri HAKALA

持続可能な漁業のために懸命の努力を続けていることは米国も日本も変わりないが、漁業そのものも漁業管理の手順もツールも異なっている。
資源と漁業者を守るために最善の決定を行おうとしていることは共通するが、両者には異なる文化や海洋政策といった視点の違いが存在する。今後も持続可能な漁業のために、両国の文化と政策における相互理解と人的交流を継続していく必要がある。

日本滞在の貴重な経験

私は生物学研究者として米国海洋大気庁海洋漁業局(NOAA NMFS)に在籍しており、マンスフィールドフェローとして一年間を日本で過ごした。日本滞在中、国や地方自治体の行政機関の中に身を置くことができた。国レベルでは環境省、水産庁、自民党における予算会議の参加から、(国研)水産研究・教育機構(FRA)、また自治体レベルでは神奈川県水産技術センターなどで仕事をする機会を得て、JF全漁連、大学、NGOなどの声を聴くなど幅広い経験をもつことができた。
とある夕方、仕事帰りに立ち寄った居酒屋で、私は職場の尊敬する同僚と語り合った。話題は日米両国の漁業政策。かねて抱いていた疑問から、いかにも自明な解決策を言ってみた。すると同僚は、私の顔をまっすぐ見て言った。「それは・・・いかにもアメリカ的な提案ですね」と。それを聞いて私は、自分の視点が変わり、視野が広がったような気がした。そして、自分がきわめてアメリカ的なレンズを通して物事を見ていたという現実に直面させられた。この会話は、私がその年、日本に滞在して学び得たことを象徴的に表わすものとなった。

異なる視点の存在

持続可能な漁業に向けて米国も日本も共に懸命の努力を続けているが、米国と日本とでは漁業そのものも、漁業管理の手順もツールも異なる。日本は漁業者、特に沿岸漁業従事者の生計の向上・保護に優れている。沿岸漁業は、地域の漁業協同組合が決める措置に従って管理されている。これに対して米国では、特定の魚種を対象にした操業が多く、連邦管轄水域内での漁業はマグナソン・スティーブンス漁業保存管理法(以下、MSA)によって厳しく管理されている。
基本的な法律から科学研究のテーマに至るまで、日本の国内漁業における最大の焦点は漁業者と地元社会の安定した生計の確保である。自治体でも国レベルでも、漁業者の利益を最大にするために、多くの科学研究がおこなわれている。その度合いは、米国の漁業者が羨望を感じずにはいられないであろう。日本では、FRAが全国に研究所をもって多様な研究活動を行っており、海に面する自治体のほとんどがそれぞれ水産科学技術に関する研究施設をそなえている。これら研究施設があつかうテーマの大半は、漁獲支援、漁業資源量の予測、水産物の市場価値の向上、漁業の持続性確保などへの最善策の探求に向けられている。

米国における漁業管理手法

米国における科学的研究、漁業管理活動の大部分は、漁業の生産性をより長期的に見据えた法律を根拠として実施されている。連邦政府管轄水域における漁業管理の最も基本的な法律が、MSAである。この法律の主目的は乱獲の防止、乱獲された魚種の回復、長期にわたる経済的・社会的利益の向上、水産物の安全かつ持続可能な供給の確保となっている※1。目的の最初の二つが、漁業者の生計よりも資源の健全性と持続性に注目している点が、日米両国の違いを知る手がかりを与えてくれるだろう。
米国では、漁業管理において科学が担う役割は法に成文化されており、国内において商業的に捕獲される魚類はすべて、10項目の国家基準に則った漁業管理計画をもたなければならないことが規定されている。国家基準※2には、「保全および管理の方法は入手可能な最良の科学的情報に準拠したものでなければならない」と規定され、NMFSとその提携機関が科学的情報を提供し、これに基づき各地域漁業管理委員会が漁獲上限量を定める仕組みである。NMFSの科学的活動の中心は資源量評価である。474系群の魚種に対しそれぞれ最長5年間を一周期として、年間平均200件の資源量評価を行っており、その情報は直接漁業管理に反映され、地域の漁業管理委員会が漁獲許容量を定める際に、漁獲許容の上限、すなわち過剰漁獲に至る限界を知るための情報となる。新しい資源量評価が示されると専門家による厳しい検証が行われる。つづいて管理に関する決定への一般からの意見収集が行われるが、管理者は、これら意見を考慮する前に、まず、科学者からの情報を検討する。また科学が管理上の必要に影響されることが決して起こることのないよう、管理者と科学者の役割が厳格に区別されている。

日本の漁業管理手法

日本では、科学者らによって魚種ごとの資源量データが集められると、一定期間、漁業者との間に意見の交換が行われる。暫定的な資源量は、政府内および大学に所属する複数の科学者による検討を経て水産庁ウエブサイト上に公表され、これに対する一般の意見が受け付けられ、最終的に水産庁によって正式に資源量として発表される。この後数カ月にわたる検討の期間を経て漁獲上限が定められる。この検討作業はまず、漁業者への説明会を開くことによって始まり、続いて意見交換のための会合、そして最後に水産政策審議会が開かれ、ここで漁獲上限が決定される。
しかしながら、評価の過程が終了した段階で、データの量や質によって一定の科学的な不確実性が常に存在するという問題がある。この魚種は限界まで漁獲されているのか、それとも、もう少し獲っても大丈夫なのか、という疑問が生じるのである。このとき日本では、漁業者とその家族やコミュニティの福利が最も重要な条件として考えられているように見受けられる。そのため、漁獲制限を行う必要があるとの絶対的な証拠がない限りこれを行ってはならないという圧力が働く。一方、そのような科学的不確実性がある場合、米国では、漁獲圧力が過大と思われる魚種については、連邦法の規定に基づき、確実に保護するために漁獲を制限することになる。

三浦市三崎町みさき市場の魚。日本では多種多様な魚が市場に並ぶ
(協力:神奈川県水産技術センター 中村良成氏)

持続可能な漁業のために

日本では、漁業者の今の生活を保護、支援するために各種の決定がなされるかのように感じられるのに対して、米国では、大筋として、資源を守ることで10年先に漁業者の利益になるように、各種の決定がなされている。究極的には、漁業を管理するということは複雑な取り組みであって、日米両国共に、持続可能な資源のために、そして、その資源によって生きる市民を守るために最善の決定を行おうとしているのである。その決定をいかに下すのか、二者間の均衡をいかに得るのかは、いずれに視点を置くかによるところが大きいのであろう。
日米の共通点と相違点を見極めることを目指し、科学の役割、および資源量評価対象魚種の数に加えて、評価のデータが意思決定の中に取り入れられるその流れを見ることができたのは、私にとって多くを学べるところとなった。今後も持続可能な漁業のために、両国の文化と政策における相互理解と人的交流を継続していく必要があろう。(了)

  1. ※1http://www.nmfs.noaa.gov/sfa/laws_policies/msa/
  2. ※2Status of Stocks 2017: Annual Report to Congress on the Status of US Fisheries
  3. 本稿は、英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻訳まとめたものです。原文は、本財団HP https://www.spf.org/opri/en/newsletter/でご覧いただけます。

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